第十九話「テストは終わるが」
シルビア達と別れたピアナは術士コース専用の施設へとやってきていた。
早く来たつもりだったが、以外と人が集まっている。
その中には、オルカ達も居た。
「よっ、早いなピアナ」
もうすっかり打ち解けたかのように、友達感覚で話しかけてくるオルカ。エブルやダイも続いてピアナに挨拶を交わす。
「あなた達もね。それに」
視線の先には、見慣れた教師が座っていた。
「いつもより早いですね、ロミロ先生」
「まあ、今日はテスト日だからな……それに、これが終わったら……くっくっく」
なにやら生徒達が知るロミロのテンションより高い。不気味に思ったオルカは、ピアナの耳元で囁く。
「なあ、どうしたんだロミロ先生」
「もしかしたら長期休みがあるからじゃないかしら?」
「いや、教師って長期休みも普通に仕事なんじゃ」
「だと思うけど……」
しかし、ロミロならばそんなもの関係ないとばかりに休む可能性がある。それほど不気味な雰囲気と笑みを浮かべている。
見た目が若干不気味なため余計にそう思えてしまう。
それから時間が経ち生徒達が全員集まり、ロミロが動く。
「それじゃあ、これから術士コースの実技テストを行う」
「先生ー! 今日は体調大丈夫なんですかー?」
まだいつものロミロだと思っている男子生徒が言う。
「ああ、今日は大分いい。だから、思う存分お前達の相手をしてやろうと思う……!」
刹那。
ロミロの魔力が爆発する。それにより気づいていなかった生徒達も、今日のロミロはいつもと違うと顔を強張らせる。
「ね、ねえピアナちゃん。先生どうしたの?」
ピアナの後ろに居た女子生徒が怯えた様子で問いかける。
「私にもさっぱりよ……だけど、これだけは言えるわ」
まるで押し寄せる波のような魔力を浴びながら、ピアナは断言した。
「皆! 今日は死ぬ気で先生に挑むのよ!! じゃなきゃ……こっちがやられるわ!!」
「はっはっはっは……さあ、生徒達。覚悟を持って挑んで来るんだ……!!」
長めの髪の毛が逆立つ。
猫背だった背中が真っ直ぐになり、より一層魔力が溢れ出る。
「さっそくだが、俺と戦ってもらう!!」
「ええ!? いきなりですか!? 普通は、魔力操作とかそういうのをやるんじゃ」
「そんなものは関係ない!!」
「えええ!?」
どうやらロミロはテンションが上がり過ぎて、若干おかしくなっているようだ。このままでは本当に危ない。そう思ったピアナは我先にと前に出る。
「先生! お願いします!!」
「さっそくピアナか……お前の実力がどれほど成長したか、見極めさせてもらうぞ!!」
(こうなったら、私がなんとか先生を落ち着かせないと!)
でないとまともなテストができないだろう。
長期休み前最後のテストだ。
ここが踏ん張りどころ。
何が何でもここでいい成績をとって、補習をなくす。絶対シルビア達と楽しい休みを過ごすんだ。強き想いを胸に、ピアナは魔力を爆発させる。
「ルールは簡単だ。一人一分の試合だ。まずお前が、俺に三十秒間魔術を放て。俺はそれを回避する。その後、三十秒間俺から仕掛ける。お前は攻撃を回避しながら隙を見て攻撃をしろ」
「わかりました」
「では……いくぞ!!」
臆するな。いつものロミロとは違うんだ。
「はあ!!」
「どうしたどうしたぁ!! そんなへぼ魔術が当たると思うのかぁ!!」
「このぉ!!」
「……マジで、性格変わりすぎだろ」
「あ、あれが素なのか?」
いつも貧血気味な低いテンションのロミロしか知らない生徒達は、ピアナとの攻防を見て開いた口が塞がらない状態だ。
まるで、ピアナの魔術を遊んでいるかのように回避している。いつもならば、魔力や魔術で防いでいるはずなのに……。
「さあ! 時間だ! 今度は俺から攻めるぞ!!」
最初の三十秒が経ち、今度はロミロが攻める番となった。一気に魔力を練り上げ、火と闇の魔術を発動させる。
「ちょっ!? いきなり二属性ですか!?」
「お前なら大丈夫だという判断だ!!」
激しい。激し過ぎる攻めだ。こんな攻めを自分達も受けるのか? そう思うと生徒達は若干憂鬱になってきた。
(いや待て、あの攻めはピアナが優秀だからこそだ。先生だってそう言ってたし。もしかすると、俺達はもうちょっと軽めの攻めになるかもしれない。うん、だってそうじゃないと無理。あれは)
そう願いたいオルカだった。
・・・・・☆
「……疲れた」
「ピアナちゃんどうしたの? それに、なんだか術士コースの人達も疲れてるみたいだけど」
やっと全てのテストが終わった。生徒達はほっと胸を撫で下ろしている。
やはりというべきなのか。教師との組み手、いや模擬戦? は一気に体力を奪ったらしく生徒達はぐったりとしていた。
術士コースの生徒もそうだが、戦士コースの生徒達もかなり疲労しているようだ。
「そ、そういうミミルだって足が震えてる、じゃない……座ったら?」
「え、えへへ……やっぱり先生は凄いなぁって」
ピアナを心配していたミミルだったが、よく見ると足が震えている。ミミルはよく自分よりも相手のことを心配して、我慢することがあるためこうして言ってやらないだめなのだ。
素直に椅子に腰掛けたミミルは、ふうっと深い息を漏らす。
「まったくもう、ミミルは相変わらずですね。疲れた時は素直に疲れたと素直になればいいんです」
と、机にぐったりと突っ伏したままユネが言う。
「三人ともお疲れ様だ。やはりというべきか。最後の実技は大変であったな」
「そういうシルビアは全然大変そうに見えないんだけど……」
ぐったりとした生徒達が溢れる中で、シルビアだけはいつも通りぴんぴんしていた。いやシルビアだけではない。
「お前達! よく頑張った!! 後は、結果を待つだけだ!! さあ、皆で昼食を食べに行こう! 今日もあの特製ドリンクを飲もうではないか!!」
隣の教室から高らかにクェイスが叫んでいた。
あれだけのことがあったのにも関わらず、なんとも元気な声だろうか。ただいつもならば答えているであろう生徒達は、さすがの疲労で返事もまともにできていないようだ。
「仕方あるまい。お前達は、動けるようになったら来るがいい」
テストはもう終わった。そのため後は帰るだけだ。ただ現在は昼時なため食堂は開いている。そこでは、ゴンやリオーネを初めとした料理人達が特別に腕によりをかけた料理を作っている。
当然、人気になったあの特製ドリンクもある。
シルビアも三人が回復次第向かうつもりだった。
「……もうちょっと休んでから行きましょう」
「ええ、そうですね。今行ったら確実にクェイスと会いますからね。いいですね? シルビア」
「ん? まあ、別に我輩は構わないが」
「うー……疲れたぁ」
本当に疲れたのだろう。ミミルは椅子に座っていたシルビアの膝にぽてっと頭を乗せた。
「少し元気を分け与えてやろう」
ミミルを心配して、シルビアは自分の闘気を分け与える。こうすることで疲労が回復していき、体が楽になる。体が疲労するということは、エネルギーがなくなってきているということだ。
テストではかなり闘気を消費した。
闘気を分けたえられているミミルを見ると、先ほどよりも楽になったのがわかるほど表情が和らいでいた。
「あー、いいですねぇ。シルビアー、ユネにもお願いしますー」
それを見ていたユネが、身を起こしシルビアの左肩へ頭を乗せる。
「これでどうだ?」
「あぁ、気持ちいいですぅ……なんだか温かいですねぇ」
「……」
羨ましそうに見詰めるピアナ。だが、こちらに来る気配がない。恥ずかしがっているのだろうか?
「ピアナは来ないんですか?」
「別にいいわよ。私は、魔力を多く消費したからだし。これ以上シルビアの闘気がなくなったら、シルビアが疲れるじゃない」
んー!! と背伸びをしてピアナは立ち上がった。
「それに、私はもう回復したわ。あなた達も、もう歩けるほど回復しているんだから。さっさと立ちなさい。今日は、遊ぶ約束でしょ?」
「あっ、そうでした!」
「遅くなり過ぎて、こっちに来られても困るもんね!」
今日でテスト期間が終わりということで、シャリオと遊ぶ約束をしていたのだ。我慢できずこっちに来られても困るため、急がねばならない。
思い出したユネとミミルはすっと立ち上がる。
「であるな。さあ、まずは食堂へドリンクだけでも飲みに行こう!!」
「ええ! 最初はあれだったけど、結構好きになったドリンクをね!」
その後は、シルビアの部屋で色んなボードゲームで思いっきり遊び倒したそうだ。




