第十八話「コース別の」
「先生ー! 戦士コースのテストって何をやるんですか?」
さっそくテスト内容が気になった女子生徒が挙手をして聞きだす。
「今回は、今までやってきたことを一人ずつやってもらってこちらで点数をつけていくんです」
「てことは組み手もやるんですか?」
「そうですね。今までは生徒同士が一人一組で組み手をしてもらっていましたが、今回に限っては……私がやります」
「え!? シーニ先生一人でですか?」
戦士向けとは思えないシーニだが、生徒達は彼女の実力を認めている。ただ一人で全員を相手にするとなると相当負担がかかるはずだ。
生徒達はそれが心配なのだろう。
「はい。去年もそうだったので」
「だ、大丈夫なんですか?」
「大丈夫です。これでも先生ですから!」
可愛らしくも先生だから大丈夫だとアピールするシーニ。と、そこへクェイスが前に出て、シーニの隣へ並んだ。
生徒達はなんだ? と見詰める中、クェイスは叫ぶ。
「皆! 心配するな!! シーニ女史ならば一人でもやり遂げられる! 俺達は彼女を信じてテストを全力でやろうじゃないか!!」
「く、クェイスくん。あのそう言ってくれるのは嬉しいけど……早く始めないとテスト時間が」
「おっと、そうだったな。すまない! では、互いに頑張ろう!!」
「う、うん」
生徒達を安心させるためにやった行為なのだろうが、テスト時間がなくなるとシーニから言われクェイスはそそくさと下がっていく。
一度静かになったところで、シーニが咳払いして喋り出す。
「では、さっそく始めますね。まずは闘気を練るところからです。私が指示した通りにしてくださいね。これは全員でやりましょう」
まずは闘気を練るテストだ。闘気とは魔力とは違い戦う意思があれば誰でも使える力だ。そのため魔力の少ない者や魔力がない者達が戦う場合は会得必須とも言っていい。
闘気を扱えるようになれば、素手で刃を防いだり、岩だって破壊できる。
「はい。ではまず体全体に闘気を練ってください」
生徒達は、いつものように等間隔で並んだところで、シーニが指示を出し生徒達は静かに闘気を練り始める。最初は全体に、そこから徐々に腕や足などだけに。
生徒達はテストということもあって、いつも以上に真面目に慎重に闘気を操っていく。
「そこまでです」
「え? もう終わりですか?」
時間にして五分しか経っていない。その間に色々とやったが、こんな短期間で全員の評価が終わったというのだろうか? が、自分達はテストを受ける生徒。そして、シーニはテストを採点する教師。
今は彼女を信じて従うしかないと生徒達は闘気を静める。
「次は、武器に闘気を纏わせての威力テストです」
「つ、ついにきたか」
「ここからが本番だぜ!」
「あたしできるかな……。授業でも微妙だったからなぁ」
先ほどのただ闘気を練るだけとは一変し、不安の空気が流れる。本来闘気とは生命力。生体、つまり自分の体に纏わせるならば簡単だが、剣や盾、鎧などの無機物へ纏わせるのは冒険者が通る壁だ。
生徒達も何度か授業でやっているが、苦手な者達が多い。
「皆さん。ここから一本ずつ武器を選んでください。剣から槍、盾もあります」
そこにあったのは多種多様の武器。
生徒達は一人ずつ武器を取っていく。
「なあ、前から思ってたんだけど。盾って武器なのか?」
「ど、どうだろう? あっ、でもほら盾を武器にしている有名な冒険者が居るじゃない」
「そういえばそうだったな……でも、さすがに今回は普通に剣にするか」
結局全員が盾を選ぶことはなかった。一般的な常識からすると、盾は攻撃を防ぐためにあるため防具の一種に数えられるだろうが、大体が剣や槍などとセットになっていたりするため武器という意見もある。
実際、盾を武器として活躍している冒険者も居るぐらいだ。
「全員武器を取りましたね。では、先ほどのように闘気を練って、武器に集中させてください。そこから三分間時間を計ります。……はじめ!」
武器などに闘気を纏わせれば、切れ味が上がったり、刃こぼれなどがなくなったり。当然耐久度も上がる。
シーニの指示で、一斉に闘気を練り武器へと纏わせる生徒達。
それをシーニは一人ずつ確かめペンを走らせている。
「ぐぐぐ……!」
「やっぱきちぃ……!」
一瞬でも纏わせるのが難しいものを三分も保つのはやはりまだきついようだ。その中でも、飛び抜けてすごいのはやはりシルビアとクェイスだろう。
他の生徒達は中々苦戦しているが、二人は余裕の表情で武器に闘気を纏わせている。しかも、クェイスにいたっては武器の中でももっとも長い槍へ纏わせている。
剣が多く選ばれているのは、短いからだ。
対象物が長ければ、それだけ纏わせる闘気の量が多くなってしまう。だからこそ、まだ慣れていない生徒達は中でも短い剣を選んでいる。
対してクェイスはもっとも長い槍で完全に乱れることなく闘気を纏わせている。もちろんシルビアも槍を選択している。クェイス同様、安定している。
「やはり、二人はずば抜けていますね……ユネも何とかなっていますが、やはり少し不安定……」
「で、でも特訓の成果が出てるよね。前だったら、結構きつかったのに今だとあのきつさがないよ」
シルビアやクェイスがずば抜けているためあまり目立たないが、ユネとミミルも槍を選択肢し闘気を纏わせている。
若干の揺らぎはあるが、それでも安定して闘気を纏わせることができている。
「……そこまでです。闘気を静めて楽にしてください」
「ふいー! 危なかったぁ!」
「及第点、かなぁ……」
「くそー! もっと練習しておけばよかったぜー!」
やはり無機物への纏わせるのはきつかったようだ。生徒達へ若干の疲労が見える。その場に座り込み、武器が落ちる音が響く。
「はい、皆さん。休んでいる暇はないですよ。次は最後の組み手ですからね」
「そ、そうだった……あっ、でも組み手だったら一人ずつだろうし少しは休めるか」
「きゃー! 私二番目だー! あまり休めないー!!」
「俺なんて一番目だぞ! 全然休めないんだぞ!?」
「あ、あの静かにしてください。組み手は一人ずつなので、時間がかかりますから出席番号順に」
なんだかんだ騒いでいたが、シーニの説得により生徒達は落ち着きを取り戻し一人ずつ組み手をやっていく。内容としては、まずシーニへと三十秒間攻撃する。その後、シーニからの攻撃を三十秒間受けつつ隙を見て攻撃をする。
一人一分ずつ組み手をしていき、シーニがそれを評価するのだ。
「うおっ!? くっ!?」
「そこです!」
「む、無理! 攻撃する隙なんてどこにも……!」
まるで流れ作業のように次々に生徒達と組み手をしながらもきっちりと評価をしていくシーニには、疲労の色が一切見えない。
対して、一分間組み手をしただけの生徒達には疲労の色が見える。隙を見て、攻撃をするということだったがシーニには中々隙がない。いや、隙はできるのだ。
ただそれはテストの評価として、シーニ自ら隙を作って攻撃を誘っているに過ぎない。
「だらしないぞ! お前達!! シーニ女史を甘く見るな! 彼女は教師だ。戦士コースの担当だ! そして、今はテストだ! 生半可な覚悟では太刀打ちできないぞ!!」
「そ、そうは言ってもよクェイス」
「私達にはちょっと早すぎるっていうか……」
次々に床に座り込む生徒達にクェイスは叫ぶ。が、生徒達は実力差があり過ぎると深いため息を漏らす。
「見るんだ! あの美しい動きを!! 彼女を見習うんだ!!」
と、クェイスが指差すところではシルビアとシーニの激しい攻防が行われていた。
「や、やっぱりやりますねシルビアさん!」
「シーニ先生もさすが教師! 我輩もやる気が上がってくるのである!!」
「でも次は……こっちからです!!」
本当にあれは生徒と教師の組み手なのか? と先に終わっていた生徒達は信じられない光景を見て唖然としていた。
が、そんな中で三人だけが興奮した様子で見ていた。
「頑張れー! シルビアー!!」
「さすがシルビアちゃん! シーニ先生とあそこまで渡り合うなんて!」
「はっはっはっは!! やはりお前は最高だシルビア!」
一分間の攻防だったが、かなり長く戦っていたように感じる組み手だった。




