第十七話「テストは順調に」
正直冒険者知識においては、そこまで難解ではなかった。そのため苦しむ生徒達はほとんどなく、三日目を迎えた。
三日目の実技テストは、その名の通り冒険者にとっての必要なことを様々実施する。
例えばテント張りや焚き火の準備。薬草やキノコの見分け採取などなど。
そのほとんどをボルトリンの校内にある森の中で行われていた。
四人パーティーを組んで、十分に一組中へ入り、途中でそれぞれの道へと分かれ、教師から渡された地図のところへ向かい色々と採取しては、それを教師のところへ持ってくる。
その中にあるものを教師が見分けて、正しいものならばプラスの点が入るが、間違ったものだった場合はマイナス点が入る。
「あうあ……あう……」
「ど、どうしてあんなことに」
シルビア、ユネ、ミミル、ピアナの四人の前を先に森の中へと入った組の男子が痙攣した状態で運ばれてきた。すぐに待機していた教師の治癒魔術により治されたため大事には至らなかった。
「パーティーメンバーいわく、お昼をあまり食べられなかったからお腹が空いていたらしいです」
「だったら、毒じゃないほうを食べればいいじゃない……」
今回は、テストということで偽者ではなく本物を設置してある。普通のきのこと毒きのこ。両方とも見た目が似ているため細かい違いを見つけ出すことが重要だ。
「おそらく点数のために毒きのこを食べたんでしょうね」
「今回のきのこは毒が少量だったから助かったが、今後は気をつけて欲しいものだ」
そして、シルビア達の出番となり森の中へと入っていく。入ってすぐシルビアは、懐かしそうに小さく笑みを浮かべる。
そこは、ピアナがオルカ達と交戦した少し拓けた場所だった。
「懐かしい。まだ入学して間もない頃だったな」
「な、懐かしむ必要はないでしょ? ほら! 早く奥に進むわよ!!」
「恥ずかしがることはない。これも大事な思いで」
「い、いいから!!」
当時のことを思い出したピアナは頬を赤くしながら、立ち止まっていたシルビアの背中を押して進んでいく。
「か、可愛い……」
「え?」
「あ、ううん! なんでもない!」
そんな姿が可愛かったようで、ミミルは小さく呟いた。本人はなんでもないと慌てて走り出す。
「ま、待ってくださいよ!!」
まるでテストとは思えないほどゆるい空気だが、四人は順調に正解のものを採取していく。奥に進むにつれて見分け方が困難になっていくが、もっとも詳しいシルビアと共に予習をしていたため不正解のものを採る事はなかった。
「どうですか? ちゃんと正解のものを採れましたか?」
「それはここでお答えすることはできません。結果は、全部終わった後です」
「ですよねー」
採取したものを入れる籠は、中身が見えないように布が被されている。結果は、テスト期間が終わってからだ。ユネのように点数を聞いていた生徒が多く居たが、教師は断固として教えなかった。
「もう、ユネちゃんったら」
「えへへ。どうしても気になってしまって」
「なにしてるのよ。ほら、次はコース別なんだから。さっさと移動するわよ」
「ピアナは術士コースなんですから、先に行っていてよかったんですよ?」
実技は、冒険者基礎の後にコース別になり、最後に模擬戦となる。勉学と違って短いようだが、科目が少ないためしょうがないのだ。
「い、いいじゃない! 途中まで一緒で!!」
「仕方ないですねー。寂しがりやなピアナのために一緒に行ってあげますよー」
「な、なによその言い方! 別に私は」
「はいはい。ほら、シルビア」
「では行こうか、ピアナ」
色々と言い訳をしているピアナの手をシルビアは引く。
ピアナはシルビアと手を引かれて嬉しそうだが、どこか納得いかないような表情をしている。その理由はユネに言われたからだろう。
「にやにや」
「なににやにやしてるのよ!?」
「別にー、なんでもないですよー。あっ、ユネも繋ぎましょうか? こうすれば寂しくないですよ」
からかうように空いている左手を握るユネ。
「寂しくないってば!!」
「じゃあ、振り払えばいいじゃないですかー」
「ぐぬぬ……」
こうした微笑ましいやり取りをしながら途中まで移動。
ピアナと分かれたところで、三人で戦士コースの実技テストが行われる場所へと向かう。
「いやぁ、ピアナ可愛かったですねー」
「う、うん。可愛かった」
「だが、あまり虐めるのもよくないぞ」
「はーい」
指定された場所に移動すると、すでに何人かが集まっていた。まだ休憩時間だというのに生徒達は、やる気十分のようだ。
ボルトリンの校内には、戦士コースと術士コース専用の施設がある。
二つとも正方形の形で、壁に特徴があり、戦士コースはより厚い素材で術士コースは魔術に対して耐性のある素材を使っている。
「皆早いな」
「おっ? 成績優秀者三人が来たか」
「三人なら大丈夫だよね、今回の実技は」
三人の登場に気づいた生徒達は、安堵した空気で迎える。が、そこに戦士コースで一番うるさい男が声を上げる。
「来たな! シルビア!! 正直今回の実技テストは難関ではない! いつもの授業感覚で頑張ろうではないか!!」
「そうか。お互いに頑張ろう」
「ああ。……ところで、最近のピアナはどうだ?」
いつものうるさい喋り方ではなく、静かにピアナのことを問いかける。
「ピアナなら、大丈夫だ。我輩達と楽しくやっているのである」
「そうか。あいつには才能がある。それを埋もれさせるのはもったいないからな。あいつに伝えてくれ。素直が一番だとな」
「それ、自分から言えばいいんじゃないですか?」
クェイスならば正面から堂々と言うと思っていたので、ユネが首を傾げる。
「俺が言ってもあいつは素直にならないだろうからな! こういうのは仲のいい女子同士がいいだろう!! ただでさえ素直ではないあいつが、男子である俺が言ったところでどうなる?」
「優しいね、クェイスくん」
「俺は常に優しい。特に共に過ごす者達にはな。冒険者は助け合いだ。だが! シルビア! 忘れるな!! 俺は常にお前を狙っているということを!!」
最後余計な言葉で、周囲はざわつく。
ユネとミミルはシルビアを盾に並んだ。
「ではな。教師が来たようだ」
周囲の反応など気にせず、クェイスはその場から去って行く。
「久しぶりに会話したと思ったら……やっぱりあの人は危ない人ですね」
「あれってライバルとして狙ってるって意味だよね? そうだよね?」
「我輩に聞かれても困る。だが、そうなのではないか? 他に何か意味があるのか?」
どうやらシルビアには思い当たる節がないようだ。
しかし、周りは思い当たる節がある周囲の生徒達は、久しぶりにクェイスと付き合っていて大丈夫か? と不安になる。
「皆さん。お待たせしました。それでは今から戦士コースの実技テストを始めたいと思います」
若干変な空気になったが、シーニはどうしたんだろう? と思いつつ自分の仕事を真っ当した。




