第四話「友達に」
「ふむ。今日から我輩も学生であるか」
ボルトリンの試験からしばらくして、受験生達の下へ合否通知が届いた。合格となった者達には、更に後日さまざまな学校に必要なものが届いたという。
学生服から教科書、学生証。
更に、両親が書く書類に、寮への希望がある者達が書く手続き書などなど。
入学まで色んな手続きを済ませ、ようやくこの日が来た。
シルビアは、ボルトリンの門前に立っていた。
真新しい制服を身に纏い、シルビアと同じく新入生だと言うのに、まるで教師のように新たな時代を進む冒険者見習い達を見詰めている。
「おい、あの子だろ? 模擬試合で」
「ああ。マジで、小せぇ。俺の妹と同じぐらいだぞ?」
予想はしていたが、どうやら注目されているようだ。後で聞いた話によると、試験官に勝った試験生はシルビアを合わせて三人だと言う。
一人にはシルビアも知っている。
実際自分の目で見たからだ。名前はユネと試験官は言っていた。シルビアよりは年上に見えたが、それでも同じく十代前半ほどの少女。
可憐な容姿からは、考えられない蹴り技が試験官の横っ腹を捉え、降参させるほどだった。
彼女の力は、おそらく今年入学する新入生の中でもトップクラスだろう。
もう一人は、まだ名を聞いていないため知らないが、今年の主席とのことだ。つまり、座学、模擬試合共に優秀な成績で合格した新入生のトップ。
シルビアも座学はそれなりにできたと思っていたが、それでも主席にはなれなかったようだ。
ただ、シルビアは主席になりたいとは思っていなかったため気にはしていない。
ここでは、冒険者達の未来がどんなものになっていくのかを自分の目で見てみたいと思い入学をしたのだ。
「さて、我輩もそろそろ体育館とやらに向かうとしよう」
ボルトバだった時代では、学校はあったが、体育館という施設はなかった。
体育館とは主に、生徒達の遊び場やいくつかの行事の時に使用される施設のようだ。
他にも闘技場に学生寮。
すごいところでは、ダンジョンがあるとのこと。あると言っても、とあるダンジョンに転移できる転移陣があるというのが正しい。
「む? あの少女は」
一人真っ直ぐ体育館に向かっている最中、見覚えのある少女を見つけた。長い髪の毛に、眼帯、大きな胸……あの時のおっぱい少女だ。
どうやら一人のようだが、何をしているのか。
おろおろとしている様子から、道に迷ったか、誰かとはぐれたと推測するシルビア。
ふむ、と頷きながらシルビアはおっぱい少女へと近づいていく。
「そこの少女。困りごとであるか?」
「え? ……はわわっ!?」
相手がシルビアだとわかった瞬間に、近くの木の陰に隠れてしまった。
どうやら、あの時のおっぱい発言をまだ気にしているようだ。
「我輩は、シルビアと言う。君も体育館へ向かう最中であろう?」
「ああああの……その、はいぃ……」
木の陰に隠れながらも、おっぱい少女は答えてくれた。
「では、共に行こう」
「え? い、いいの?」
どこか嬉しそうに、木の陰から顔を半分ほど出しながら問いかけてくる。
シルビアは、うむと力強く頷き言葉を続けた。
「今日から共に冒険者を目指す友であるからな。絆を深めるべく、君と色々と話をしたい」
「と、友……お、お友達……」
「そうである。これから友としてまずは君の名を教えてもらえないだろうか?」
いつまでもおっぱい少女と覚えておくのは失礼だろう。
これからともに冒険者を目指す者として互いに名を知っておきたい。その気持ちが伝わったのか、ついに木の陰から出てくるおっぱい少女。
若干まだ恥ずかしいようで、もじもじしているが。
「み、ミミルです。よ、よろしくお願いします! シルビアひゃん!!」
最後は噛んでしまったようだが、特に気にするようなところではない。
「仲良く、共に精進していこうぞミミル」
「うん!」
友達になった証として、握手を交わす二人。すると、タイミングよく、狙っていたかのように一人の少女が出てくる。
彼女にも見覚えがある。
シルビアが注目していた少女ユネだ。
「やりましたね! ミミル!! 作戦大成功です!! さすがはユネの幼馴染です!!」
「ユネちゃん!? ど、どこ行ってたのもう! い、いきなりいなくなっちゃうから寂しかったんだよ……!?」
「その少女ならば、ずっとそこの物陰に潜んでいた。こちらを観察するようにな」
シルビアは気づいていた。
ここからすぐの学校の物陰にユネが潜んでいたのを。いったいどういう理由で潜んでいたのか、ずっとわからなかったが。
先ほどの発言でようやく理解できた。
ミミルがシルビアと仲良くなれるようにシルビアが来たのを見計らって隠れたのだろう。
そして、シルビアが自分から友達になりたいというのもわかったうえで、観察していた。
「やっぱり気づいていたんですね。すみません、利用するようなことをしてしまい」
「気にすることはない。して、ユネであるな?」
「はい。ユネはユネと言います。あなたは、シルビアですね。こうして直接お話するのをずっと待っていました。あなたの拳の唸り……いつか手合わせ願いますか?」
「うむ。我輩も、君の蹴り技をこの身で味わってみたい」
互いにしばらく見詰めあい、すっと手を出して握手を交わす。
そんな二人を見て、ミミルは感動しているのか羨ましそうにしているのか。よくわからない表情で見詰めていた。
「二人とも。体育館へ向かおう。どうやらほとんどの生徒達が移動終了しているようである」
周りを見れば、生徒の姿がない。
居るにしても、一人や二人。
まるで、遅れてやってきたかのように急いでいる。
「はわわ!? ご、ごめんなさい! 私のせいで……!」
どうやら、遅れた理由が自分にあると思いこんでしまったミミル。深々と頭を下げると、大きな胸がぶるんと揺れた。
母親であるルカも大きかったが、この歳でこれほどの大きさ。
将来が楽しみになる発育だと、シルビアは頷く。
「気にしないでください、ミミル。今からダッシュで移動すれば余裕で間に合います」
「でも、私足遅い―――はわっ!?」
足に自信が無いと呟くが、それよりも先にシルビアがミミルをお姫様抱っこする。
「急ぐのである」
「はい」
「え? え? あ、あの」
いきなりの状況で、反応が遅れているミミルだったが、すでにシルビアは走り出していた。
「さすが早いですね」
「君も中々であるな。我輩の後をついてくるとは」
そして、状況が整理できていないまま体育館前に到着したのであった。
中から大勢の気配と声がする。
しかし、開いている扉から見える限りではまだ始まってはいないようだ。ほっと安堵しながらも、シルビアはミミルを下ろし、足を進める。
「さあ、ここから我輩達の新たな生活が始まるのである。これから、よろしく頼むぞ。ユネ、ミミル」
「はい。あなたと居れば、色んな刺激と出会いがありそうで今からわくわくが止まりません。ね? ミミル」
「う、うん。私も、すごく楽しみ……!」
新たな時代、新たな生活、新たな友。
シルビアは、さっそくできた二人の友達と共に、多くの冒険者達見習いが集まる体育館へと足を踏み入れた。