第十五話「テスト期間へ」
「ついにやってきましたね」
「ええ。私達の最初の試練よ」
「ある意味では試練であるな」
少女達は教室内で、戦場へと向かう覚悟を決めたかのような表情をしていた。いや、少女達だけじゃない。校内に居る生徒達全員がそうだ。
中には、いつも通り冷静な態度をとっている者達も居るが、校内は緊迫感で溢れていた。
「マジやべぇ……昨日寝落ちしちまったよ……!」
「私も……。あぁ! 今からじゃ間に合わないわ! せめて実技だけでも高得点を取らないと!!」
今日は、学生達の試練とも言えるテスト期間の初日。
三日構成となっており、最初は一般の筆記テスト。二日目は冒険者の筆記テスト。三日目は実技テストとなっている。
この三日間のテスト期間と教師達の採点が終え結果が出る。その結果次第で、生徒達の長期休みの予定が決まる。もし規定の点数以下のものを、合計で四つ以上取っていた場合……長期休みの何日かは補習をしなければならなくなる。
せっかくの長期休みだ。誰もがそれは避けたいと必死になっている。当然ユネやピアナもだ。
「でも、二人は十分に勉強したから大丈夫」
「とは言い切れません! 油断はいけませんよ、ミミル!!」
「その通りよ!! 戦場では油断した者から命を落とすのよ!!」
「せ、戦場って……」
ミミルが、殺気立っている二人を落ち着かせようと声をかけたが、効果が無かった。おそらく二人はテスト期間が終わったとしても変わらないだろう。
二人が変わるのは、テストの結果が出てからだ。その結果次第では、二人は歓喜の声を上げるか。悲痛の声を上げるか……。
ただシルビアの見立てでは、二人は心配いらない。共にテスト勉強をしたからこそ思えることだ。
「二人とも、心配はいらない。我輩達は共に勉強をしてきた。その努力を信じるのである」
「そ、そうね。……ふう。なんだか肩が少し軽くなったわ!」
「ですね! ミミルも先ほどはありがとうございます! ユネ達を落ち着かせようとしてくれて!!」
「ううん。友達だから、当たり前だよ。頑張ろうね! 皆で楽しい休みを過ごせるように!!」
その後、いつも通りのホームルームをし、シーニが出ると教室内は不思議と静寂に包まれた。
嵐の前の静けさ、というのだろうか。
生徒達はもう戦闘体勢に入っているのは確実だ。各々、最初のテストへ向けて教科書を眺めたり、ノートへ只管ペンを走らせたり、精神統一をしている者も居た。
「きた」
そして、テスト用紙の束を持って入ってきた教師が来たことで教室内は更に緊迫感に包まれた。
「では、これより一般知識のテストをします。一時限目は」
一般テストの時間が始まり、一番前の席から後ろへとテスト用紙が配られていく。まだテスト用紙は裏返されたままだ。
教師の合図と同時に表返される。
まだか? 早く始めたい。
詰めたものが消えそうだ。生徒達は、教師の合図をまだかまだかと静かに待っている。教師は、生徒達の様子を一度伺う。
おそらく不正をしていないかどうかと確かめているのだろう。その瞳には魔力が込められている。
「まだですよ。ペンに触れず、テスト用紙にも触れないでください」
今にもペンやテスト用紙に触れそうな生徒を注意し、目を閉じる。
「はい。始めてください」
刹那。
生徒達は一斉にテスト用紙を表返し、ペンを握り締める。いそいそと頭に詰め込んだものを忘れないように問題を飛ばして書いている者や、冷静に一問ずつ書いていく者も。
「いける! いけますよ!」
「解ける。解けるわ!」
(二人は大丈夫のようだな)
小さいが、ユネとピアナは問題をすらすらと解いているとわかる声が聞こえた。
シルビアは安心したようにテストへと向き合い、ペンを走らせた。
・・・・・☆
テストは順調に終わっていく。
昼時になった食堂では、やりきったとばかりに大盛りで料理を注文する者やまだ油断はできないと早々と食事を終わらせて出て行く者も居た。
そんな中、シルビア達は。
「おう。お疲れさん」
「はい。本当にお疲れですよ……」
「だらしないわよ、ユネ! さあ、もう二教科なんだから! しっかりしなさい!!」
食堂で働いているゴンと話し合っていた。ゴンは目の前で手馴れたようにフライパンを振っている。
その隣では、マスクをしたリオーネがせっせと皿に料理を盛り付けていた。
中々息が合った連係プレイで、食堂で働いている他の職員も大助かりだと喜んでいる。
「お疲れ様です。皆さん。さあ、今日はテスト期間限定のスタミナのでる調味料を使っていますので。それと、これを飲み物としてサービスしてます」
そう言って調理と一緒に出された飲み物は……深緑色だった。
「……なんですか、これ」
食堂に来ている生徒達全員にサービスとして渡している飲み物らしいが。
(そうか。皆、これを見て一瞬動きが止まっていたのか)
サービスと言って喜んだところへ、この不安になる飲み物だ。世の中には薬剤を煎じた飲み物があるくらいだから緑色の飲み物があってもそこまで驚きはしないだろう。
ただ色が濃すぎるうえに。
「うぇ……なんかドロドロしてない、これ?」
ものすごくドロドロしているのだ。普通飲み物は傾ければすんなりと動くが、深緑の飲み物はほとんど動かない。
いや、大丈夫だ。さすがにサービスで出しているものだし、テスト期間中なので体調を損ねるようなものではない……と信じたい。信じたいが、その色が見た目が不安にさせる。
「俺が作った特製ドリンクだ。生徒会長お墨付きだから心配するな」
「ナナエさんの?」
「あの人のお墨付きって言われてもね……」
生徒会長としても、人としても彼女達にとっては少し不安があるため安心しろと言われても安心できない。が、シルビアがその場でおもむろに深緑色のドリンクを口へと運んだ。
「ちょ!? シルビア!?」
「……んぐ。ふむ、なかなかいい味であるな。隠し味に蜂蜜が入っているようだ」
「ふっ、わかってしまうか。まあ若干俺の好物ばかりだったから、お前達に合うか不安だったってのが本音だが、お前の言葉で安心したぜ」
「まあ、先に受け取った皆さんも笑顔で飲まれていますし」
確かに、シルビア達よりも先にドリンクを受け取った生徒達は最初の不安な顔から一変し、おいしそうにドリンクを飲んでいた。
中には。
「あの! これおかわりいただけないでしょう?」
「ふっ、いいだろう。だが、これをおかわりするならテスト頑張れよ」
「はい!!」
まさかのおかわり。しかも、女子生徒だった。そんな様子を後ろから伺っていた他の生徒達はいったいどんな味のドリンクなのか気になっている様子。
「……とりあえず、大丈夫そうですね」
「後が支えてるようだし、行こうか?」
「え、ええ」
シルビアもよほど気に入ったのか、早く飲みたそうに急ぎ足で空いている席へと向かっていく。




