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第十三話「二人の今後」

「っというわけで、リオーネさんをボルトリンで保護している間は、食堂のキッチンで働くことになったわけだよ! 彼女の料理は、ゴンさんに負けないぐらいだからね!」

「お母様のお料理はすっごくおいしいんだよ! でも、シルビアお姉様のお料理も好き!!」


 そう言って、ペンを走らせているシルビアへとくっつくシャリオ。そんな彼女を見て、三人は首を傾げる。


「あの、聞いてもいいですか?」

「なーに?」


 ひょこっとシルビアの背後から顔を出すシャリオに、ユネは問いかける。


「なんで、シルビアをお姉様と?」

「お姉様はお姉様だよ! かっこよくて! 優しくて! なんでもできる!! わたしのお姉様!!」

「……なるほど」

「え? 今のでわかったの?」

「つ、つまりシルビアちゃんに懐いたってこと、だよね?」


 どうなの? とばかりに三人同時にシルビアを見るので、ペンを一度置き頭の上に乗っかっているシャリオを撫でながら口を開く。


「うむ。その通りだ。我輩も、一人っ子だったゆえ、妹ができたようで嬉しい。それに、毎日この広い部屋で一人というのも中々退屈だったのでな」

「寝る時は、わたしが真ん中で! お母様が左! お姉様が右!」

「つ、つまり三人で寝ているということ!?」


 この部屋にあるベッドは、かなり大きい。普通寮のベッドは一部屋に二つあり、ぎりぎり二人入れるかどうかの大きさだ。

 対して、トップ寮のベッドは明らかに一人用ではない。完全に複数で寝ることが前提かのような広さがある。確かに、このベッドでは小さなシルビア一人だとスペースが余り過ぎるだろう。

 三人で寝るのが丁度いいぐらいだ。


「それにね! お姉様は、お姉様だけど! お爺様みたいで!!」

「お爺様みたい? ど、どういうことなんだろう?」

「あー、でもなんだかわかるような気はするわ。シルビアってなんだか時々お年寄りみたいな感じがする時あるわよね」

「確かに。ユネ達よりも年下なのに、なんだか年上かのように接してきますよね」


 それは仕方ないことだ。見た目は十歳の女の子だが、精神年齢的にはもう百歳を超えている老人なのだから。直そうと思えば直せるだろうが、正直自然に接してしまう。

 

「では、歳相応に接しようか?」

「うーん……それはそれで」

「ある意味違和感がある、かな?」

「今のシルビアに大分慣れてしまいましたからね。急に、一般的な十歳の女の子のようになっても……あぁ、でも意外といいかもですね」

「歳相応になったら、シャリオちゃんみたいになるのかな?」


 それから三人は、歳相応になったシルビアを各々想像しあった。なぜかナナエまで、参加してしまっている。話はここまでのようだが、リオーネとシャリオは最初に話した通り正体を隠している。

 リオーネは食堂で働く際は、髪型を変え、顔もマスクなどで隠しており誰も彼女がガオザ王国の王妃だということは知ることはない……はずだった。


 しかし、ガオザ王国に行ったことがある生徒達が居て、食堂でリオーネを見た時に王妃なんじゃないか? と。それが噂となり、今では学校中に広まっているそうだ。

 やはり働かせるという選択は間違いじゃなかったのか? シルビアはいまだ妄想の世界から帰ってきていないナナエを見て眉を顰める。

 正体を隠すならば、わざわざ人前に出さないで居たほうが確実だ。ただそうなると、二人を隔離していることになりかなり窮屈な生活となる。だからこそ、ナナエは食堂で働かせる選択肢をとったのか?


 なにはともあれ、今は噂程度だ。

 これから気をつければ二人の正体が確信へと変わることはないだろう。それに加え、ボルトリンの教師達も二人の事情を知っており、全力で協力している。

 一番の協力者はゴンだ。

 同じ食堂で働き、トップ寮で生活するゆえ、色々とサポートをしているようだ。


「お姉様。お姉ちゃん達どうしたの?」

「うむ。おそらく妄想の世界に入っているのだろう。時間が経てば戻ってくるはずである」

「へー、そうなんだー」


 あまりよくわかっていないようだ。


「さて、そろそろ休憩にしよう。焼いていたクッキーと紅茶を出そう」

「わたしも手伝うー!」

「ならわたくしも」


 彼女達が妄想の世界から帰ってきたのは、それから数十分後だった。




・・・・・☆




「お、おぉ……これが噂の鎧ですか」

「黒くて大きいねぇ……」


 三人にリオーネやシャリオのことを知られた日の翌日。さすがに、寮の中や寮の周りだけではシャリオの元気のよさの前では狭すぎるようだ。

 そのためシルビア達の早朝トレーニングに参加することになった。朝方ならば、人もあまりなく事情を知っている四人も一緒なので、安全だ。


「さっそくだけど、その強さ。確かめさせてもらうけど、いいわね?」

「いいよー! わたしだってシルビアお姉様直伝の戦闘方があるんだから!」

「へぇ、それは楽しみね」


 今回は準備運動をしてから、ピアナとシャリオの軽い戦いをすることになった。教師の許可も得ているため校則違反になることもない。


「制限時間三分の一本勝負である。二人ともいいな?」

「もちろんよ」

「やるぞー!」

「では、はじめ!!」


 審判はシルビアがやり、戦闘が始まる。まず動いたのはシャリオだ。二メートルを超える長身から考えられないダッシュ力で、一気にピアナとの距離を詰めたシャリオはまず右拳を突きつける。

 

「うわっ!?」


 余裕で回避したと思ったとことへ、突然腕が回転する。

 そこから魔力が溢れ出て、ピアナを襲った。

 魔力壁を張っていたため軽い衝撃程度で済んだが、鎧の性能を知ったピアナの表情から楽しむという感情が消える。


「まだまだぁ!!」

「ちょっ!? ひゃっ!?」


 シャリオの猛攻は止まらない。魔術を使わせないとばかりに何度も何度も殴り、蹴りの連続攻撃を繰り出す。先ほどの攻撃でただ回避しただけではダメージを受けると理解したピアナの動きは、更に俊敏になったが、それでも中々魔術を使う隙がない。


「う、うわぁ。なんですか? あの猛攻」

「あんなに大きくて重そうなのに、生身で戦ってるみたい」


 これには、ユネやミミルも驚きを通り越して若干恐怖している。それもそのはずだ。普通に考えて全身鎧を纏った八歳の女の子が、戦闘訓練をしている者を圧倒していれば誰だって二人のような反応になる。


「こ、の!!」

「あわっ!?」


 隙がないため、魔力を放出させ無理矢理に隙をつくった。


「《ブレイジング・クロス》!!!」

「え!? 中級魔術を!?」


 ピアナが発動した《ブレイジング・クロス》とは、灼熱の炎が交差するように敵を襲う中級魔術。その熱量は分厚い装甲を持っている魔物だろうと溶かし貫くほどだ。

 もちろん対人戦だろうと、鋼鉄の鎧をも溶かすことだってある。


「ほわあああああっ!?」

「やばっ!?」


 ハッと我に帰ったピアナだったが、すでに遅い。出現した灼熱の炎がシャリオを包み込む。よほど魔力を込められていたのか。二本の炎は二メートルを超える鎧を包み込むほどに極太だった。

 ユネやミミルもこれはやりすぎなんじゃと思っていた刹那。


「おりゃあああ!!」

「え!?」


 灼熱の炎から全然ダメージを受けていないかのように、シャリオが出てくる。


「う、嘘……あれを受けて無傷なんて」


 鋼鉄をも貫く炎だ。

 それを受けても、溶けているどころか、焦げている様子もない。いったいどんな素材で作られたのかは知らないが、丈夫にもほどがある鎧だ。


「び、びっくりしたぁ……。もう! そういうのは禁止ー!!」


 初級魔術までは許されていたため、シャリオはルール違反だと猛講義。


「ご、ごめんなさい。あなたの勢いについ……ていうか! その鎧おかしいでしょ!? 《ブレイジング・クロス》を受けても無傷なんて!?」

「え? そうなの? あの魔術ってそんなにすごいやつだったの?」


 シャリオには悪意はないが、ピアナが使える魔術の中でも相当な威力を持つ中級魔術を馬鹿にされ、眉をぴくぴくと動かしている。

 悪意がないだけに、威力は絶大だった。


「ぴ、ピアナ! だめ! だめですよー!

「わ、わかってるわよ……わかってる……こほん。とりあえず、勝負はこれで終わりにしましょう」


 なんとか落ち着いたピアナは、深く息を漏らし額の汗を払う。


「そうだな。三人も十分鎧のすごさがわかったはずだ。戦いはここまでとしよう」

「えー? もう終わりなの? もうちょっと続けたかったなぁ……」


 まだ動き足りないシャリオは、鎧から出てきてつまらなさそうに頬を膨らませる。


「まあまあ。この後、色々やりますから。鎧を装備してのって意味ですよ終わりというのは」

「そっかぁ。じゃあ、早く走ろう! 動こう!!」

 

 嬉しそうに、シャリオは鎧に触れる。

 刹那。

 光の粒子となりて、鎧は消滅し、シャリオの腕輪となった。あの時、鎧がなかったのはこうして腕輪にしていたからだったのだ。

 シルビアもそうだったが、初めて見た三人はほー……と声を漏らす。


「ねー! ねー! 早く走ろうよー!」


 その場で、左右の足を交互に動かしながら訴えるシャリオに、シルビアが一番に応える。


「皆! 惚けている暇はないぞ! さあ、走るのである!!」

「わーい!!」

「はっ!? ま、待ってくださいよー!」

「あわわ!?」

「……マジで、あの鎧なんなのよ」

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