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第十一話「森の中の出会い」

 山賊との戦いは、結果から言えばシルビアが圧倒した。


「―――さて、後は君だけだ」

「まったく、本当に末恐ろしい子だね。あたしも含めた山賊達と戦っていたって言うのに、一人も通さないなんて」


 何度も山賊達はシルビアを欺き、通ろうとした。が、シルビアは一人たりとも通すことなく撃退。

 残ったのは金で雇われた傭兵の女ヴァーバラだけだ。

 そのヴァーバラも所持していた複数の武器をことごとく折られ、今持っているのは短剣一本と投げナイフが二本。


「我輩は自分の言ったことを実行したまで。……ヴァーバラよ。君に聞きたい。ガオザ王国の王妃、王女を捕らえてどうするつもりだ?」

「決まってるよ。王国は滅んでも、あの二人には利用価値がある。王族ってのは、それだけ貴重な存在なんだよ。まあ、あたしはただ金が欲しいだけなんだけどね」

「心が痛まないのか?」

「……生きていくには、結局金が必要なんだ。あたし達傭兵は金で動く存在! 雇い主が悪党だろうと、貰った分は働くのが傭兵ってもんさ!!」


 まずは、投げナイフを一本先制とばかりに投げる。

 

「はあ!」


 回避したところへ、死角を狙い短剣を振り下ろす。


「だとしても、心を捨てるなどやってはならない行為だ」


 死角などないとばかりに容易に回避し回し蹴りを繰り出す。


「心なんてものは、いつだって偽れる!! あんたみたいになに不自由なく暮らしてきた奴とは違うんだよ!!」


 何度も攻撃を受け、山賊達への攻撃も見ていたおかげか掠りながらも何とか回避し、離れることなく攻撃を繰り返す。

 傭兵のほとんどは、生きていくために武器を取ったあまり裕福ではない者達。ある種、冒険者以上に生きていく術を知っている。シルビアと戦っているヴァーバラも、生きていくためになんでもしてきたのだろう。そうした者達は、強い信念を持っている。


「あんたのその身なり、溢れ出る幸せなオーラ!! あたし達とはまったく違った人種!! どんなことを言おうとあたしは、あたしが信じたもののためにただ戦うだけ!!」

「確かに、今の我輩は裕福だ。なに不自由なく暮らしている……だが、君の気持ちがわからないわけじゃない!!」

「なっ!?」


 突き出された短剣を握っている手を叩くことで、落とす。

 そこから勢いを増すためにくるっと回転し、思いっきり頬を殴った。


「がっ!?」


 数回地面に叩きつけら、最後には木にぶつかったヴァーバラ。静寂に包まれる森の中で、シルビアは呼吸を整え、近づいていく。


「気持ちが、わかる、ねぇ……。十歳のあんたに、なにがわかるってのさ……」


 さすがに今までのダメージが溜まっていたようで、足を動かしているがすぐ止まる。


「あたしもね……最初は、まともな傭兵だったんだよ。悪者は許さない。誰かを護るためだけにってね……でも、綺麗事だけじゃ護れないものがあるって、知ったのさ。あんたも大人になれば……わかる、さ……」


 完全に意識がなくなったヴァーバラを見詰め、シルビアは自分の過去を久しぶりに思い出す。

 ボルトバも最初はそこまで裕福ではなかった。

 だからこそ家族を助けるために、必死になって強くなり冒険者として名を上げた。今でこそ冒険者は憧れられる存在となっているが、昔は違った。ボルトバと仲間達が頑張らなければ、今の冒険者はなかっただろう。




・・・・・☆




 山賊達を逃がさないように縄で縛り付けてきた。どうやらシャリオ達を縛るために持ってきていたようで、ありがたく使わせてもらった。

 そして、シャリオが向かった場所へと到着した。何本も木が薙ぎ倒されており、激しい戦闘があったような場所だ。中には、抉り取られたような痕もある。

 おそらくシャリオが、鎧でやったものだろう。


「あっ! お姉ちゃん!! こっちこっちー!!」


 すでに鎧から出ていたシャリオが大きく手を振ってシルビアを呼び寄せている。鎧をどこかにかくしているのだろうか。見渡した限りでは、あの巨大な鎧はない。

 

「遅くなった。そっちは何か変わったことはなかったか?」

「うん。何もなかったよ。何か遭っても、わたしがやっつけちゃうんだから!!」


 と、その場で拳を突きつける。自分よりも小さい子が、戦う姿を見たのは久しぶりだ。

 そんな姿が可愛らしくなって、思わず頭を撫でる。


「えへへ」

「それで、王妃は?」

「お母様なら」

「ここに居ます」


 後ろにあったいわばの洞窟の中から、一人の女性が姿を現す。シャリオをそのまま大人にしたような美人。おそらく綺麗な装飾があったのであろうドレスは、まるでボロボロの布切れで作ったかのようなものとなっていた。

 髪の毛だけは、綺麗なままでとても洞窟で暮らしていた人とは思えない。シャリオもそうだが、おそらく髪の毛だけは女の大事なものだと近くにある川で洗っていたのであろう。


「初めまして、ガオザ王国の王妃リオーネ=D=ガオザ様。我輩は、シルビア=シュヴァルフです」

「これはご丁寧にありがとうございます。ですが、わたくしはもう王妃ではありません。もうガオザ王国は……滅んでしまったのですから」


 少し配慮が足りなかったか、と反省しつつもシルビアは頭を上げて会話を続ける。


「申し訳ありません。……逃げたと聞いていましたが、まさかこちら側に居たとは」


 ガオザからガゼムラまでは馬車を使っても確実に七日以上はかかる。リオーネ達が、馬車を使っていたのかは不明。

 護衛の兵士達も居ないようだが、二人の外見を見ればいったいどれだけ大変だったのかがわかる。元々痩せていたのだろうが、どう見ても栄養不足のようだ。


「はい。実は、シャリオが纏っていた鎧のおかげで、ここまでくることができました。最初は、城の兵士達が護ってくれていたのですが……」


 二人を護って倒れた、ということだろう。


「そう、だったのですか。……それで、シャリオが纏っていた鎧はいったい?」

「もらった!!」

「貰った? 誰から?」

「知らないおじさん。君には、これを操れるほどの力があるーって」


 それは大丈夫なのだろうか? 知らない人からものを貰ってはいけない、ついて行ってはいけないというのは親からの教えだ。生きるか死ぬか。なによりも大事な母親を護らなければならない。まだ小さいなりにも、なんとかしたいとい気持ちがあったのだろう。

 後で、鎧に害がないか調べる必要があるが、今は。


「二人は、これからどうするつもりだったのであるか?」

「うーん、そういうことは考えてなかった。だって、今は捕まらないようにーって必死だったから」

「交流のある王家や貴族に助けを求めようにも、どこもかなり距離があり、いつ辿り着けるか……」


 さすがに徒歩で行くのは無理がある。冒険者や旅慣れをしている者ならともかく、彼女達には長旅は無理がある。なによりも先ほどの山賊達のように何度も襲われることだろう。

 シャリオが持っている鎧があるとはいえ、現状を考えると誰かがすぐ保護するのが最善。

 とはいえ、今回にいたっては、シルビアにできることはあまりない。こうして助けたのはいいが、これからどうする? 


「おー、さすがシルビアたん! あたしよりも先に二人を保護しちゃってるなんて!!」

「ナナエ?」


 悩んでいる中、ナナエが空間魔術にて姿を現す。


「あなたは?」

「初めまして、リオーネさん。あたしは、冒険者育成学校ボルトリンで生徒会長を務めているナナエ=ミヤモトと言います。本日は、特務によりあなた達の保護するため参上しました」


 ナナエにしては、とても丁寧な言葉遣いで一礼をする。これは、嬉しいタイミングだ。特務を申請しているのが何者なのかシルビアは知らないが、これで彼女達は安心だろう。


「わたくし達を受け入れてくれるのですか?」

「もっちろーん!! さあ! ボルトリンへいこー!!」

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