第六話「今後の予定は?」
「ん? 【女神石】が輝いてる?」
ナナエとのクエストを終えて、捕らえたコグド達を王都の兵士達に預けた。彼らは、そこから罪人達が集う島へと送られるか、そのまま王都の収容所に送られるかを決められる。
罪が重いほど、罪人の島へ送られる可能性が高くなるだろう。
一仕事終えたシルビア達は、それぞれの部屋へと帰還。
ナナエは、生徒会の仕事があるということでマイキーに捕まってしまった。
「女神様からの連絡か」
部屋に戻ってきたシルビアが見たのは【女神石】が入っている木箱から赤い光が漏れていた。
あれ以来、光の色によって意味を成すようになった。
青い色だと、連絡しても大丈夫。
赤い色だと、ディアナから何かしらの連絡が残されている。そして、緊急事態があった場合は【女神石】を通さず、直接シルビアへと念話で伝えることになっている。
「いったい何なのだろうか」
さっそく部屋の鍵を閉めて、ディアナからの連絡を聞くことにした。【女神石】は宙に浮き、ディアナの全身が映し出される。
《お久しぶりです、シルビアさん。実はあれから色々とナナエさんのことを調べていたのですが。調べれば調べるほどすごい人でした》
「ふむ……」
《まず、彼女は空間魔術を扱えるようで、それにより神々のところまで自ら訪れたそうなんです》
それはシルビアも自分の目で見てきたところだ。だが、神々の居る場所へといけるほどとは驚きだ。空間魔術は、大きく分けて二つの用途に使用できる。
ひとつは、空間を捻じ曲げること。これを使うことにより、何もないところから物を取り出したり、仕舞ったりすることができる。必要最低限の物で冒険するのは、ベテランの冒険者ではあるが、やはり物は多いほうがいい。
空間魔術を使うことができれば、より多くの物を持っていけ、色々と便利になるだろう。
そして、もうひとつは転移。
空間を操ることで、別の場所から移動することができる。馬車などで何日もかかるような場所でも、五分とかからずに行けるため、運び屋などをやっている術士も居る。
だが、そんな空間転移を使っても簡単には神々の領域まで行けるとは思えない。
《こっちにナナエさんを送ってきた女神に聞いたところ、彼女のことはずっと前から注目していて、色々と話したところ意気投合。同じ趣味を持つ者同士として、友としての絆が生まれたとのことです》
(まさか女神と友達になるとは……それに、同じ趣味と言うと、地球の娯楽関係だろうか?)
《次は……え? ちょ、ちょっと待ってください! もう休憩終わりですか!?》
なにやら急に慌しくなった。これは、前にも見たことがある光景だ。またシルビアには聞こえないが、ディアナは誰かと話している様子。
どうやら、休憩中にわざわざ連絡をしてくれたようだ。
《だって、あの仕事が終わったらしばらくは……え? 担当がストライキ? 今代わりができるのはわたくしだけ? そ、そんなぁ!?》
どうやら何かの仕事を担当していた者がいないため、代わりをディアナにしてもらおうという話らしい。しばらく、口論になっていたがディアナは深いため息を漏らし、こちらへと向き直す。
《申し訳ありません……急な用事ができたため、今回はこれにて失礼させていただきます。ま、またお時間があったら! それでは!!》
こうして【女神石】は輝きを失い、箱の中へと落ちる。
「女神様の声が聞けるのは嬉しいが、無理はしないでほしいであるな」
ディアナの体のことを気遣いつつ、シルビアはユネ達が遊びに来るのを待つため紅茶を入れることにした。
・・・・・☆
「んー! この間のクエストは気持ちよかったわね!!」
ナナエと共にクエストを受けた日から、数日。
毎朝のトレーニングの中、ピアナが背伸びをしながら呟く。ナナエとB+のクエストをやったことは、五人だけしか知らない。
いくら生徒会長と一緒と言えど、一年の時からB+のクエストをやるなどありえない。
ただ冒険者育成学校の生徒がギルドでのクエストをやる場合は、全て学校側に情報が入るはずだ。
ならば、今回のことも必ず伝わっている。
それなのに、何も連絡がない。
以前他の冒険者育成学校の一年が実力に見合っていないクエストをやってしまい、大怪我をしてしまったことがある。
それが学校に伝わり、生徒は厳重注意を受けた事例がある。
別に校則違反を犯しているわけではない。実力ある先輩やギルドに所属している冒険者が共にいれば、ランクが上のクエストを受けてもいいことにはなっているのだから。
「ですね! B+と聞いて少し不安でしたが、なんとかなるものですね!」
「あら? いつも自信たっぷりなユネから意外な言葉を聞けたわね。もしかして、内心怖かったのかしら?」
トレーニングをする前の柔軟体操をしている中、ユネの背中を押していたピアナがにやにやと笑みを浮かべながら言う。
「べ、別にそうじゃないです! ほら! B+なんて二年の先輩方でも容易にできないクエストですから」
「やっぱり怖かったんじゃない。素直になりなさいよ」
「ピアナだけには言われたくないです!!」
「ど、どういう意味よ!?」
二人はかなり仲が良くなっていた。そんないつも見ているようなやり取りを、シルビアとミミルは微笑ましそうに見詰めている。
喧嘩をしているように見えるが、仲の良さを物語っている言い争いなのだ。
「と、ところで皆」
「どうした?」
「もうすぐ長期休みに入るけど、どうするの?」
二人に言い争いをしているのを、なんとか止めようとミミルが別の話題を切り出す。それは、これからある学生にとって嬉しい長期休みのことだ。
残り一ヶ月は切っているため、学生達もかなりそわそわしている。
よく遠くから学校へと通っている生徒達は、長期休みになると実家に帰るのがほとんどだ。長い間、親から離れて暮らしているのだ。
当然といえば当然だ。
「私は、帰らないわ! 家出しているんだからね!!」
「だ、だよねぇ。シルビアちゃんは?」
「我輩か? もちろん帰るつもりではある。父上殿も母上殿も、毎週の手紙の返事には、早く会いたいと最後に書いてくるほどなのでな」
「そう……やっぱり帰るのね」
シルビアの帰る宣言に、ピアナは明らかに寂しそうな表情を浮かべる。それを見逃さなかったシルビアは、少し考えこんな提案を持ち出した。
「ピアナ。どうだ? その時、我輩の家に遊びに来るというのは?」
「え!? し、シルビアの実家に?」
先ほどまで寂しそうにしていたピアナが一瞬にして明るくなってしまう。が、すぐ冷静になって咳払いをした。
「どうして、そんな提案を?」
「我輩の友達を紹介するためだ。それに、ピアナは実家に帰らないのであろう? ならば、こういう時でも友達を家に誘ってみたいと思ったのである」
「そ、そう……」
そんな真っ直ぐな言葉に、心打たれたようでユネの背中を押すのをすっかり止めてしまい、しばらく青空を見上げる。
「じゃあ、行ってあげても……いいわよ」
「素直じゃないですねー」
「う、うっさい!!」
「いた!? いたたた!? そ、それ以上はいきませんって……!!」
照れ隠しをするように、ピアナは力いっぱいユネの背中を押す。いくら体の柔らかいユネでも、限界というものがある。
「まったく」
「ふいぃ……。あっ、ではユネもお邪魔していいですかね?」
「はあ!? な、なんであなたも!?」
「別にピアナには言ってません。ユネは、シルビアに言っているんですー!」
「何よその言い方!?」
さっきのこともあり、ユネはピアナに対して若干冷たい態度をとる。ピアナもピアナでさっきのはやり過ぎたと思っているのか、強く言い返せないようだ。
柔軟体操を終えたシルビアは、その場に立ち上がり、ユネの提案に改めて問いかける。
「ユネは実家に帰らなくてもいいのであるか?」
「いやー、それがですねー。親に、卒業するまで帰ってくるなーって言われているんですよ」
これはかなりの衝撃な事実だ。まさか、親と喧嘩でもしているのだろうか? と心配しつつシルビアは、再度問いかける。
「ど、どういう意味であるか?」
「あっ、別に喧嘩をしているわけじゃないですよ? ただボルトリンに入学したのなら、立派な冒険者になってから帰って来いって。よほど嬉しかったんですねぇ。嬉し泣きをしながら、言ってくれたんですよ」
「えへへ。実は、私も」
どうやら二人の親は、それほど期待をしているのだろう。確かに、ボルトリンは全世界にある冒険者育成学校の中でも、かなりの有名校だ。
入れればそれだけで、その生徒はかなりの優秀だと認識される。
二人の親の気持ちは、誰もが共感できることだろう。
「そういうことだったのか」
「はい。なので、長期休みを機に、シルビアの実家へ遊びに行きたいんです」
「だけど、大丈夫かな? シルビアちゃんの実家って貴族街にあるんでしょ? 私達みたいな田舎者が行って大丈夫かな?」
おそらく貴族ばかりが住んでいるところなので、不安なのだろう。
そんなミミルに、ピアナが安心させるように告げる。
「いい? 別に貴族街って言っても、平民だめ! 田舎者だめ! なんてことはないわ。まあ、平民嫌いの貴族も結構居るけど」
「それに、我輩が一緒なのだ。不敬な輩は、我輩がどうにかしてやるのである!」
「こ、心強い……!」
「貴族街ですかぁ。いやぁ、今から楽しみですねぇ」
「とはいえ、我輩の実家があるのはここから馬車でも二日はかかる場所にある。準備はしっかりするように」
《はーい!》
長期休みの予定も決まったところで、シルビア達はさっそくトレーニングを再開するのだった。




