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第五話「断罪少女の拳」

「……弱いわね」

「な、なんだと!? たかが学生風情が!!」

「そのたかが学生風情に、もう半分も勢力を削られているんだけど。これで、実力差を理解できないのかしら?」


 討伐クエストで、とある森へと訪れていたシルビア達は、二手に分かれていた。シルビアとナナエは、本元を。ユネ、ミミル、ピアナの三人は周囲の残党兵達を。

 さっそく戦闘になり、数分が経った今、兵力は半分になっていた。

 

「くっ! 最近の学生はどうなってるんだ!」

「余所見はいけませんよ」

「ごはぁ!?」


 ピアナのことを見ていた他の兵士は、背後からユネに強烈な蹴りを受け木に叩きつけられる。


「この!」

「させない!! 《アース・ロック》!!」


 攻撃を終えた隙を見て、ユネへと攻撃を仕掛ける兵士だったが、ミミルのサポートもあり阻止させる。

 周囲の木が伸びて、体の自由を奪ったのだ。


「さすがミミル! 信じてましたよ!! せりゃあ!!」

「げはっ!?」


 そこへすかさず回し蹴りで吹き飛ばす。兵士は顔面から木の叩きつけられ、気を失う。

 

「さすが幼馴染ってところね。さて、私も少し本気でいこうかしらね!!」

「なんだと!」


 残りも少なくなってきたが、油断はできない。ピアナは、一気に片付けてシルビア達のところへと駆けつけようと魔力を高める。

 その学生とは思えない魔力量に、兵士は怯んでしまう。


「二人とも!! 伏せなさい!!」

「え?」

「伏せろって、ちょっ!?」


 いったい何をするつもりなのかと、二人が振り返るとピアナと対峙していた兵士が岩の柱に押されこちらに接近してくるではないか。

 ギリギリのところ伏せて、回避し顔を上げると。


「ふう……こんなものね」


 木の陰に隠れていた兵士達へと正確に岩の柱をぶつけていた。これほどまでに、岩の柱を操作するのは至難の業。

 あれから更に成長していることが、すぐにわかる光景だった。

 ただ、ユネは言いたかった。


「なんでこっちに飛ばしたんですか!? 危うく当たるところでしたよ!?」


 縦ラインに居たとはいえ、さすがに今の危なかった。あれだけの威力だ。いくら魔力壁を張っていても、衝撃は相当なものだっただろう。

 それは、鎧を身に纏った兵士が皆、気絶していることからわかる。


「だから、伏せなさいって言ったじゃない!」

「伏せる事の無いように、別方向に吹き飛ばすことだってできたんじゃないですか!?」

「めんどくさかったのよ!!」

「めんどくさって……いくら心の広いユネでも怒りますよー!! むきー!!」

「なによ!! 倒したんだからいいじゃない!! 喧嘩を売るって言うなら買うわよ!!」

「上等ですよー!!」

「ゆ、ユネちゃん! ピアナちゃん! 落ち着いてー!!」


 その後、シルビアとナナエのところへと向かうのは数分ほど喧嘩をしてからになった。




・・・・・☆




「決まった……!」


 悪党の統括であるコグドを見つけ、シルビアはナナエに言われるがままにやった。やるからには全力でと思いやったのだが、シルビアは冷静に感極まっているナナエに問いかけた。


「ナナ。変身する意味は?」

「かっこいいじゃん!!」


 ディアナからの話である程度の地球の知識を持ったシルビアは、ナナエの言葉になるほどと頷く。地球には、変身ヒーローものと言って、世界を侵略せんとする悪党から主人公が不思議な力によって姿を変えて戦う物語があるらしい。

 ちなみに、今の二人は名前を若干変えて呼び合っている。正体を隠したほうがそれっぽい! とナナエが言っていた。地球での創作物では、正体を隠さないことも結構あるようだ。


「まあ、この変身にも色々と意味があるんだよ。この変身は、二人でやらないと意味がなくてね? 変身することで、意思疎通ができたり、二人の特徴なんかが共有できたり、他に色々と!」

「ふむふむ」

「試しにやってみよう! 今、あたしがシルにしようとしていることを頭で考えるから答えてね」

「よかろう」


 意思疎通というものを試すため、ナナエは頭の中で今からシルビアにすることを考える。

 すると。


(シルビアたんとハグハグしたいおー)


 よくわからない言語だが、抱きつきたいと思っているようだ。


「それは、今はやめておこう。敵が下で待っているのでな」

「だよねー。うん! あたし我慢する! 我慢した分、一杯ハグをすればいいだけだし! さあ! 待たせたね! 悪党達!! 律儀に待っていてくれるなんて、悪党の鏡だよ!!」

「ふざけんな!! そんなところに簡単にいけるかよ!! てめぇらが、こっちに来いやぁ!!」


 ごもっともな言葉だ。現在シルビア達が居るところは、少なくとも常人の跳躍力では到底いけない高さだ。


(それにしても、ここは元があるようだな。そうでないと、ここまでの建物を短い期間で作るなど不可能だ)


 ガオザが落ちたのは、今から一週間半ほど前。

 そして、現在居るのが石造りの三階建ての建物。彼らが作ったのは、三階の部分だけだろう。そこだけが、木造りなのが何よりの証拠だ。

 

「さあ、いくよ!! シル!!」

「うむ! ゆくぞナナ!!」


 さっそく正義の鉄拳制裁を与えるべく、迷いなく飛び降りる二人。コグド達は、嘘だろ!? と驚いていたが、難なく着地する。

 二人にとっては三階から飛び降りるなど、どうということはないのだ。

 

「ちっ! お前ら! そいつらをやれ!!」

「は、はい!!」


 登場時からの変な言動に、変な行動。

 犯罪者側である兵士達も、さすがに関わりたくないような様子だった。しかし、コグドには逆らえないようで、兵士達は二人へと突撃する。


「まずは一人!!」


 兵士は二人。

 先に槍で攻撃してきた兵士から、ナナエが容赦のない右拳を叩きつける。よほどの威力があったのか、何本もの木を薙ぎ倒しながら吹き飛んでいく。


「なっ!?」


 一緒に突撃したはずの兵士が、あまりの光景に思わず静止してしまう。が、シルビアは待ってくれない。兵士が気づいた時には、地面に叩きつけられていた。

 一瞬にして、兵士二人を倒したことでコグドは表情を変える。


「てめぇら、ただの変態じゃねぇようだな」

「変態?」

「我輩達のどこに変態の要素があるのだ?」


 変態と言われるが、自分にはそんな要素どこにあるのだと首を傾げる。


「仕方ねぇ。俺が付き合ってやるよ!!」

「お断りします」

「はあ?」


 やる気を出したところへ、ナナエからの急な拒否。これには、コグドは眉を顰めるしかなかった。


「あたし、あなたみたいな人好きじゃないんだよね。付き合うなら、美少女がいい」

「その付き合うじゃねぇよ!! 戦いに付き合ってやるって意味だよ!!」

「おー、そういう意味だったんだね。いやぁ、いきなり付き合ってやるとか言うから、びっくりしちゃったよー。正義のヒロインとして、悪党と付き合うなんて禁断のあれだからねー」

「何言ってんだこいつ」


 もはやナナエのペースだ。コグドがやる気をそがれたように頭を掻いている。


(今気づいたが。これって、ナナエから誘われていたことでは?)


 口ではクエストを一緒にやることになっているが、普通にやるならばこんな可愛らしい衣装に着替える必要はなかった。

 今更気づいても、遅いのでこのままナナエに付き合うつもりだ。

 おそらくナナエとしては、これをきっかけに了承してくれないかな? とでも思っているんだろう。


「シル! ここは二人に合体技で倒しちゃうよ!!」

「合体技?」


 そんなものがあるのかとシルビアは驚く。


「んなことさせるかよ!!」


 言動はおかしいが、やばい奴らだと認識したであろうコグドは、自慢の左拳でシルビアへと攻撃を仕掛ける。ここは、彼の左拳を知っている者ならば回避を選択する。

 だが、シルビアはその場で構え。


「ふん!!」

「なにぃ!? お、俺の左拳を!?」


 小さな右拳が追突する。

 コグドは拳が鍛え上げられ、何度も打ちつけたのであろうとわかるほどごついが。シルビアの拳は、全然鍛えていないんじゃないかと思うほど真っ白で、尚且つ小さい。

 普通ならば、シルビアぐらいの拳がまともにコグドの拳と追突すれば砕けてしまう。

 が、シルビアの拳は砕けなかった。


「ぐ、あああっ!?」


 逆に、コグドの左拳がダメージを受ける。痛みで、怯んだところにナナエはチャンスだと感じ背後へと回り込み膨大な魔力の波動にて上空へと吹き飛ばす。


「シル! 決めるよ!」


 意思疎通により、いったい何をやるのかと理解したシルビアはナナエに合わせて手をかざす。


《クロスパワー! チェーン!!》


 魔力とはまた違う不思議な力により、空中へと吹き飛ばされたコグドが空間から現れた鎖で拘束される。


「正義の光が!!」

「全ての罪を浄化する!!」


 そして、その不思議な力を拳に宿らせ跳躍。

 

「お、おい! なにを!?」


 急接近してくる二人に、コグドは怯えた様子で叫ぶも。


《ジャッジメントォ! スクリューアッパー!!!》

「ごはああっ!?」


 容赦のない攻撃が、コグドの腹部を襲う。拘束していた鎖も千切れ、回転しながら空の彼方まで吹き飛んでいった。


「……ナナ。彼は大丈夫なのか?」


 さすがにやりすぎたんじゃないかと思ったシルビアは、ナナエに問いかける。


「大丈夫! 本来は体の骨が砕けそうな一撃だけど。不思議パワーで、気絶程度の衝撃になってる! はず!!」

「はず? それで、彼の行方は?」


 いつまで経っても落ちてこないコグドはどこまで飛んだのかと。真上に吹き飛ばしたはずなので、そろそろ落ちてくる頃。

 しかし、全然落ちてくる気配がない。


「彼なら……ほいっと」


 手をかざすと、魔力の塊が生まれ弾ける。そこには、先ほど空の彼方まで吹き飛ばされたコグドが姿を現したではないか。


「空間魔術か?」

「そんなものだね。今回のクエストは彼を含めた悪者を撃退し、捕らえよって内容だからね。さっそく縛っちゃおー」


 空間魔術は、扱いが難しく会得している者も少ない魔術のひとつ。それをこうも簡単に扱って見せるナナエは本当に何者なのだろうか? 

 魔力の縄でコグドを縛っている彼女を見ながら、シルビアは改めて思考する。


「おーい!! 二人ともー! もう終わっちゃいましたかー!?」

「あっ、ユネちゃん達だ。おーい! もう終わっちゃったぞー!!」


 そこへ、別行動をしていたユネ達が駆けつけてきた。どうやらあちらも終わったようだ。


(……まあ、後でもいいだろう)


 ただでさせ、付き合いは短いため情報が少ない。今考えても、あまり理解することはできないだろうと判断したシルビアは、倒した兵士達を縛ることにした。

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