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第三話「仮面のマスター」

「さあ! さあ!! シルビアたん! お返事は!?」

「もう少し待って欲しいのである」

「わかったー」


 これがあの時の話があってから、毎日一回はするやり取りである。

 教室で。

 廊下で。

 更衣室で。

 部屋で。

 もはやいい返事を貰うまで何度だって諦めないという勢いで問いかけてくる。そんな日が一週間ほど続き、ついにナナエがシルビアだけではなく仲良し四人組を呼び出した。


「気をつけなさい。何をされるかわからないわ」

「そんなに警戒しなくてもいいんじゃないかな?」

「なに言ってるの! 油断していたらなにをされるかわからないわよ!! この前だって、着替え中に襲われかけたんだから……あれで生徒会長なんだから、この学校どうなってるんだか」


 完全にナナエを不審者と認識しているピアナは、警戒心高めだ。

 

「じゃあ、なんでついてきてるんですか?」


 ユネの言うように、警戒するほどならば来ないはず。


「し、シルビアを護る為よ! あんな変態に友達を汚されたくないわ!!」

「素晴らしい友情ですねぇ」

「と、当然よ……」


 まだ素直さが足りないが、最初の時と比べれば友達としてシルビアを大事に思っているようだ。


「ところで、シルビア。いったいどういう用件なのか聞いていますか?」

「いや。だが、集合場所でなんとなく予想はつく」

「確かにそうだよね。あっ、ナナエさんだ」


 今回、四人はナナエととある場所で落ち合うことになっている。学校から離れ、王都の中央地区にあるギルドの前。

 そこに集合することになっていた。

 王都ガゼムラは、王城を中心とした円形状の街。そんな王城の近くには、四大ギルドに数えられるギルド【アジェスタ】がある。

 

 王都内には、いくつものギルドがあるが【アジェスタ】はボルトバが作った最初のギルドとして、何十年も前から残り続けている。

 とはいえ、最初の頃よりも外装は大分変わっていた。

 

(あの時は、木材で作っていたが……今となっては大分ごつくなってしまったな)


 外装は木材からレンガへと変わっており、増築もされている。最初の頃は、シンプルなデザインだったが、部屋がいくつか足されているようだ。

 どこか顔のような形をしているが、それは増築された両側の部屋のせいだろう。


(ここのギルドマスターは……我輩であるが、今は誰なのだろうか?)

「シルビアたーん! どうしたのー?」

「ちょっと!! シルビアから離れなさいよ!! この変態!!」


 考え事をしているシルビアに、抱きつくナナエと引き剥がそうと必死になっているピアナ。

 それを微笑ましそうに見詰めているユネとミミル。

 そんなことを世界最古のギルド前でやっていると、中から仮面を被った怪しい人物が出てくる。


「おやおや。なにやら微笑ましい光景が私の目の前に」

「な、なんですか!? あの怪しい人は!?」

「ゆ、ユネちゃん! 失礼だよ!」

「ですが、どう見ても怪しいじゃないですか!? ミミルだって、怖いからユネの後ろに隠れているんじゃないんですか?」


 顔を覆う仮面は、笑顔。

 更に被っている帽子が奇妙だ。若干縦に長く、天辺には星がついている。最初は男かと思ったが、誰が見ても大きいとわかる胸を見て、男性ではないと判断させる。

 しかし、黒いマントが良く似合う男ものの服を着ている。そういう趣味なのだろうか。それとも、あれが普段着なのか。ともかくもう一度言うが、怪しい人物である。

 

「ははは。まあ、この格好を見れば初めての人は怪しいと思うのは当然だよ。だが、諸事情であまり素顔を晒すわけにはいけないんだ。私の名は、アンノーカ。以後お見知りおきを、お嬢さん方。それと、久しぶりだねナナエちゃん。どういう風の吹き回しかな? 君は、あまりギルドのクエストを受けに来ない子だったのに。それとも、お嬢さん方との集合場所にここを選んだだけなのかな?」


 どうやらナナエとは知り合いのようだ。怪しい格好をしているが、態度や喋り方から紳士的な性格をしている。

 

「りょうほー」

「それはそれは。ということは、そちらのお嬢さん方と?」

「そうだよ。四人とも、優秀な子達だからね! あっ、紹介が遅れたけど。この子が、あたしのお気に入りのシルビアたん!」

「よろしく」

「そして、ユネちゃん、ミミルちゃん、ピアナちゃんと続きます!! ボルトリンの仲良し四人組です!!」

「私達はおまけ扱いなのね……」

「ま、まあまあ」


 ちゃんと紹介してほしかったようで、ユネとピアナは若干不機嫌そうにナナエを睨む。

 

「ほう。ナナエちゃんに気に入られるなんて、すごいじゃないか。だが、いくら優秀と言えどナナエちゃんのクエストとなると」

「大丈夫だって! もう、心配性だなー」

「それはそうだとも。これでも、ここのギルドマスターだからね」

「え? ギルド、マスター……?」


 アンノーカにとっては当たり前かのような言葉に、ナナエ以外の四人は驚く。

 只者ではないとは思っていたが、まさかここのギルドマスターだったと誰が思うか。確かに、ギルドから出てきたが、普通に冒険者かと思っていた。

 

「ほらー、やっぱりこういう反応になるー。その格好やめたら?」

「だから言っているじゃないか。素顔を晒すわけにはいかないと。っと、そろそろ私は失礼するよ。これから色々と忙しいのでね。クエストを受けるならば、頑張ってくれ。ギルドマスターとして、未来の冒険者達を応援しているよ。では!」


 やはり、ギルドマスターともなれば忙しいのか。まるで逃げているんじゃないかと思うほどの、速度で走り去っていく。

 あんな格好で街中を走ると、色々と目立ちそうだ。

 

「私、心配になってきたわ。他のギルドマスターもあんな感じなんじゃないかって」

「私もです。それも、まさか世界最古のギルドのギルドマスターが……あんな」


 ずっと【アジェスタ】のギルドマスターは謎だった。ギルドに所属している冒険者のほとんども知らないという謎の存在。

 そのギルドマスターをどうやらナナエは知っていたようだ。

 先ほどの紹介から、別に隠しているわけではないようだが……いや、それともナナエの知り合いということで特別に正体を明かしたのだろうか。


「で、でもほら! 帝都にあるギルド【サイオウ】のギルドマスターは、かっこいい人で有名だよ!」


 王都と並ぶ大都市である帝都にあるギルド【サイオウ】は【アジェスタ】と同じく四大ギルドに数えられるほど有名だ。

 そのギルドマスターを務めるジオ=マクウェルは、誰もが認める剣の才がある冒険者。先ほどのアンノーカと違って、積極的に表世界で活躍しているため知名度はすごい。その容姿も相まって【サイオウ】に入りたいという女性冒険者達が多い。


「まあ、アンノーカは特別だからね。でも、ああ見えて色々と才能はあるんだよ?」

「そうですね。あんな格好をしているから、色々とすごそうですね」

「そうね。曲芸とか得意そうね」

「ふ、二人とも!」

「あはははは!! シルビアたんは、アンノーカのことどー思う?」


 ユネやピアナが散々ないいようなので、ナナエはシルビアがなんというか楽しみにしているようだ。


「……まあ、格好が怪しくともギルドのことを考えてくれているならば、我輩はよしとする」

「おー、さすがシルビアたん。言うことが違うねー。……さて! そろそろギルドに入ろうか! 今回のクエストはすごいぞー! なんてたって、今の君達じゃ絶対受けることができないB+だからね!!」


 B+のランクは、一年では絶対受けることができないランク。いくらトップ寮の生徒だったとしても、入学してまもない時期になんて今まで事例がないほどだ。

 いや、二年になったとしても簡単に受けられるかどうかもわからない。

 

「我輩達も受けられるのであるか?」

「大丈夫だよ。生徒会長のあたしが一緒だったらね! これでもAランククエストも受けたことがあるから、あたし」

「それで、クエスト内容は?」

「単純にして明白! 悪党退治だよ!!」


 簡単に言うが、悪党退治と言えどB+ということを忘れず、シルビア達はナナエと共にギルドへと入っていくのだった。

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