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第三十一話「ようやく」

 ピアナ=ルーンは、幼い頃から才能があったが、自信がなかった。それは三歳の頃だった。最初に魔力を使って魔術を使ったが、暴発。

 それが影響してか、魔術を使うのも怖くなり、自信がなくなってしまった。ルーン家から今まで才能がない術士など一度も出なかった。ピアナも立派にルーンの血を受け継いでいると親は、ひとまずピアナのことは誤魔化し続けながらも、様子を見ていた。

 だが、それから数年ピアナは修行にも身が入らず、ただただ年月だけが経っていくだけでなにも変わらない。親も、ピアナをそろそろ見限ろうとしていた頃。

 貴族同士が集まるパーティーで、とある少女に出会った。


「やめ、やめてよ……」

「何がやめてだよ」

「そうよ。ルーン家なんでしょ? あなた。だったら、魔術で反撃してみなさいよ!」


 同じ術士の家系の子供達が、ピアナを囲んで髪の毛を引っ張り、魔力をぶつけたりと集団で虐めていた。

 ルーン家は術士の家系の中でも、トップに立つ。

 崇拝されているが、妬まれていたりもする。

 そんな中、あのルーン家に落ちこぼれが出たという噂がどこからか漏れてしまったようだ。


「ううぅ……」

「んだよ、反撃してこねぇのかよ」

「噂通りの落ちこぼれね。ただ魔力をぶつけられただけで、泣くなんて」


 ピアナの才能があれば、同い年の魔力や魔術など簡単に防ぐことができる。それなのに、ピアナは三歳の頃の暴発が怖くて、魔力すら練ることができなくなっていた。

 周りには誰もいない。

 このまま虐め続けてやると、子供達が笑みを浮かべた刹那。


「まったく。何をやっているのであるか」

「なっ!?」


 いったい何が起こったのか。一人の男の子が投げ飛ばされ、噴水へと落下した。


「大丈夫であるか?」

「え?」


 そして、気づいた時にはピアナに手を差し伸べる者の姿があった。この場に居る誰よりも小さく可憐な白銀のツインテールが似合う幼女。

 髪の毛に良く似合い純白のドレスを身に纏い、ピアナの乱れた髪の毛を手櫛でだが直していた。


「だ、誰だお前!!」

「どこから現れたのよ!!」

「どこからでもいいであろう。それよりも、君達。虐めはよくないのである。それも無抵抗な者に、集団でなど」


 明らかに、容姿は五歳以下。

 ドレスもどこか背伸びをしているかのように大きめだ。普通ならば、睨まれてもそんな姿も可愛いと思うだろう。

 だが、彼女の睨みは違った。まるで、時間が停止しているかのように動けない。


「お仕置きである」

「あでっ!?」

「きゃっ!?」

「ひゃっ!?」

「うおっ!?」


 そんな子供達に、幼女は眼にも留まらない速さでデコピンを一撃ずつ与える。よほど威力があったのか、全員が一斉に尻餅をついてしまう。


「これ以上彼女を虐めるようならば、もっときついお仕置きをするが……」


 より力のある睨みだ。

 子供達は、さっきの一撃も相まって、恐怖で一斉に逃げて行ってしまう。静かになったところで、幼女はピアナに手を差し伸べる。


「立てるか?」

「う、うん……」


 自分よりも小さいのに、勇敢で強い。どうやったらこんなにも強くなれるんだろう。ピアナは自然とそう思ってしまっていた。


「我輩はシルビア=シュヴァルフだ。君は?」

「……な」

「ん?」

「……アナ」

「ほう。アナであるか」

「あっ、ちが……」


 ピアナにとって彼女はとても眩しい存在に見えている。そのため、うまく言葉を発言することができなかった。

 

「では、アナ。ここから離れよう。またあの者達が虐めに来るかもしれない」


 小さい手だ。そして、小さい背中だ。

 それなのに、こんなにも力強く感じるのはどうしてだろう? 彼女に出会ってから、ピアナは考えさせられるばかりだ。


(私もこの子みたいに……)


 そう思ったピアナは、シルビアから手を離し立ち止まる。


「どうした?」


 突然立ち止まったピアナにシルビアは首を傾げる。


「……」

「本当にどうした? まさか、足を怪我して」

「ち、違うの! ……ねえ、あなたはどうしてそんなに強いの?」

「強い? うーむ。そうであるなぁ……日々のトレーニングを欠かさず、己を信じる。それが強さの秘訣のひとつであろうな」

(己を……信じる)


 それは今のピアナにはないものだ。三歳の頃の暴発による恐怖で、自信をなくし、自分の力を信じられなくなった。いくら才能があると言われようとも、あの時の暴発がまた起こるんじゃないと思うと怖くてトレーニングにも身が入らない。

 

(私も自分の力を信じて……ちゃんとトレーニングを積み重ねれば、この子みたいに)

「君は、強くなりたいのであるか?」

「私は……」


 強くなりたい。シルビアのように。

 自分よりも小さい彼女がこれだけ強くなれるんだ。才能がある自分が、努力を続ければきっと。

 

「うん。強くなりたい。誰よりも強く。誰にも負けないぐらいに」

「それはいい心がけなのである。我輩も、君に負けないようより努力を続けよう!」

「……だ、だからね。その私が強くなったら」

「強くなったら?」

「――――に!」




・・・・・☆




「……寝ちゃってたみたいね」

「そのようであるな」

「わひゃ!? ししししシルビア!?」


 ピアナが指定した場所は、学校の屋上。そこの貯水タンクがある場所でピアナは眠っていた。シルビアは、あまりにも気持ちよく眠っているため起きるまで待っていた。

 急にシルビアが視界に入ったためピアナは驚きのあまり後方へと下がっていく。


「おっと」

「わわっ!?」

 

 あまりの勢いだったため、落下しそうになるもシルビアが手を取って阻止する。


「大丈夫か?」

「え、ええ。大丈夫よ」


 いきなり恥ずかしいところを見せてしまったピアナは頬を赤く染めながら咳払いする。


「それで、今日はどういう用なのであるか?」

「……写真は見たわよね?」

「うむ」

「思い出した?」


 まだ視線を合わせることなく、恥ずかしそうに問いかけてくる。そんなピアナに、シルビアは力強くしっかりと首を縦に振った。


「思い出した。というか、聞いた名前と知っている姿、性格が違い過ぎて。あの時の少女がピアナだったとは思わなかったのである」

「そ、そりゃあ。あの時の約束から何年も経ってるし。いつまでも弱虫でなんていられないから……」

「あれからずっと約束通り強くなろうとしていたのだな」

「ええ……でも、結局約束は、守れなかった。だって、クェイスに負けちゃったんだから」


 今だったら、どうしてピアナがあそこまで強くなろうとしていたのか。どうして、あの時誘いを断ったのかがわかる。


「待て待て。約束は、強くなったらだったはずだが」

「確かにそうだけど、クェイスに負けたのは事実よ。私は、あなたと約束してから一度だって負けたことがなかったわ。そして、クェイスとの試合が丁度百回目の試合だったの」

「……なるほど。百連勝したらと自分で決めていたのか」

「身勝手かもしれないけど。これぐらいしないとあなたにはつりあわないと思ったから」


 しばらく会話をせず共に青空を見上げ続ける。

 そして、沈黙を破ったのはシルビアだった。


「さて、ピアナ。友達になろう!!」

「ええええ!? そそそそんないきなり……だって、約束が」

「もうそんなもの関係ないのである。さあ、あの時の続きだ。手を」


 雰囲気などどうでもいいとばかりに強引に友達になると手を差し伸べる。


「それとも我輩と友達になりたくないのであるか?」

「な、なりたい!!」

「では、握るのである。さあっ」

「うぅ……」


 友達にはなりたい。しかし、約束を守れなかった自分が友達になっていいのだろうか。ピアナは、どうしていいかわからず、シルビアの手を握ることができないでいた。

 いつまでも握ってこないのをじれったく思ったのか。

 シルビアは空いている手で、無理矢理ピアナの手を引く。


「これで友達! であるな!!」

「よ、よろしく」


 シルビアの強引さに若干押されながらも、ピアナは見せた事の無い笑みを浮かべがっちりと手を握った。


「よし! これで一件落着ですね!!」

「わっ!? ゆ、ユネ!? あ、あなたいつからそこに」


 いい雰囲気で終わるかと思いきや、梯子を上りにゅきっと顔を出すユネ。


「最初からそこに居たぞ? 気づいていなかったのであるか?」

「き、気づいてたなら言ってよ!?」

「もう、ユネちゃん。静かに見守るって言ったのにぃ」

「す、すみません。友情が生まれた瞬間を見たら、つい興奮してしまって」

「み、ミミルまで」


 当然ピアナも気づいていたものだと思っていたシルビアだったが、どうやらまったく気づいていなかったようだ。二人は、気づかれないようにこっそりついて来ていたが、シルビアの気配察知能力は尋常ではないため屋上に来る前から気づいていたのだ。


「まあよいではないか。そうだ、三人とも。今から我輩の部屋に遊びに来て欲しい。ピアナと友達になった記念として、共に甘い菓子を作ろうではないか!」

「え? お菓子を?」

「うむ。母上殿の教えで、菓子作りは昔からやっているゆえ自信がある」

「いいですね。お菓子作りならユネも自信があります!」

「ならば、行こう!! 時間は有限! 夕食が入るぐらいは胃袋を空けるように!!」

「ちょ、ちょっと!?」


 よほど菓子が好きなのか。シルビアはピアナを、ユネはミミルの手を引いて屋上から出て行く。


「わ、私お菓子作りしたことないんだけど」


 手を引かれながら移動する最中、ピアナが言う。

 

「心配はない。共に作ろう、と言ったではないか。我輩が……いいや、我輩達が教えるのである」

「そうですよ。ピアナ! これは友達同士の始めての共同作業です!! ミミルも張り切っていきますよー!!」

「う、うん!」

「いつの間にか、二人も友達になってるし……まあでも」


 素直に嬉しいと思うピアナだった。


(……なにか忘れているような気がするが。なんだっただろうか?)


 結局オルカとの約束を思い出したのは、菓子の生地を焼成する瞬間だった。

そんなこんなで、第一章が終わりました。

わりと真面目な雰囲気だった一章でしたが。

第二章は、明るくテンション高めな感じにしようと考えています。


では、第二章をお楽しみに!

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