第二話「模擬試合にて」
おそらく本日中に二話目を投稿するかもです。
冒険者育成学校ボルトリン。
世界中から、冒険者となるため入学者が集まってくる。だが、その入学レベルは非常に高く、他の学校と違って金を払って試験に合格するまでは同じだ。
ただ、その試験というのが試験官と模擬試合をして、規定の合格ラインに到達しないといけない。
ボルトリンは中央大陸の王都ガゼムラにあり、寮もあり遠くから通う者達への配慮もある。
そして、ボルトリンに入学することができれば援助金も入ってくる。援助金は、入学者の成績によって変化し、よりいい成績をとることができればそれだけ援助金も高額のものとなる。
他にも冒険者に必要な道具なども無料で配られる。冒険者として、ダンジョンなどにも潜ることがあるので学校から出ることも多いだろう。
もちろん校内での授業もあり、冒険者としての知識だけではなく一般学も教えている。冒険者になるための学校とはいえ、一般の勉学をないがしろにすることはないようだ。
「おー、王都ガゼムラ……懐かしい。何も変わっていない」
そんなガゼムラにシルビアは、ボルトリンの入学試験を受けるために母親のルカと共に馬車に乗って訪れていた。カインは、騎士としての務めがあると一緒に来ることでができなかったが。シルビアの実力を知ってから、心配はいらないと笑顔で見送ったのだ。
「あら? シルビア。王都に来たのは、初めてじゃ」
(む、これは失言だったか……ボルトバとしては久しぶりだが、シルビアとしては初めてであった。なんとか誤魔化さなくて)
自然と口から漏れてしまった失言をなんとか誤魔化そうと頭の中で高速思考する。
「い、いやはやそうでありますな母上殿。いやはや、王都に来る夢を以前見たことがあるゆえ。現実と混合してしまいました」
「あらあら。そんなに王都に来るのが楽しみだったのねぇ。もう! シルビア可愛い!!」
なんとか誤魔化せたようで、シルビアの言い分を信じて抱き寄せるルカ。
「あ、あはははは」
母の腕の中で、冷や汗を流しながら乾いた声で笑うシルビアだった。
それから、数分の時が経ち。
ボルトリンに到着したシルビアは、パンフレットで見たよりも立派な外観におーと声を漏らす。王城よりは小さいにしろほぼそれに近い大きさと広さ、それを囲む外壁と鉄の門には術式が刻まれていた。
おそらく強化系のものと、侵入者用の防犯魔法だろう。
「ようこそ! 冒険者育成学校ボルトリンへ!」
門の前では、シルビアと同じくボルトリンに入学せんとやってきた者達へと在校生と思わしき人物達が、パンフレットのようなものと番号が刻まれたバッジのようなものを配っていた。シルビアも自分の分を貰おうと近づいていくと。
「ようこそ! って、ん?」
最初はパンフレット共にバッジを配ろうとした男だったが、シルビアを見るなりすぐ動きを止める。
「お嬢ちゃん。もしかして迷子かな?」
どうやら迷子と思われたようだ。確かに、シルビアぐらいの年齢と身長の女の子が入学してくるなどそうはない。そのため在校生もそう思ってしまうのは無理もないというもの。
しかし、シルビアは自信満々に手を出して、入学試験を受けに来た旨を伝える。
「いや。我輩は、入学試験を受けにきたのである。それは、試験を受ける者へ配るバッジであるか? ならば、我輩にも配って欲しいのだが」
「え? あ、っと入学?」
小さく可愛らしい女の子とは思えない喋り方にも驚いているようだが、一番はやはり入学試験を受けに来たという事実を受け入れられていない様子。近くで同じくバッジを配っていた他の在校生達も、驚いた様子でシルビアを見ていた。
「そうである。あ、いやそうです。我輩も、冒険者を目指す身。ここで冒険者としてのなんたるかを学びたいのです先輩殿」
相手を落ち着かせるために、敬語を慌てて使い始めるが、それでも最初に話しかけた在校生は微妙な反応しかできないようだ。
ついには、シルビアと同じ試験生も何事かと何人か立ち止まってしまう始末。
「あの、娘にバッジを渡しては頂けないでしょうか? 後ろも大分詰まっているようですし」
このままではまずいと思ったルカが、優しく微笑みながら固まっている在校生へと現状を伝えながら、シルビアにバッジを渡すように伝えると、ようやく現実に意識が戻ったかのようにパンフレットとバッジを渡してくれた。
「我輩は、百三番であるか」
「さあ、行きましょうシルビア。すみません、お騒がせしてしまって」
在校生達にも、試験生やその親にも頭を下げ、門を潜っていくシルビアとルカ。
「お、おい。マジか?」
「え? 迷子、じゃないよね?」
「バッジを持ってるし、マジなんじゃねぇの?」
やはり校内に入ってもシルビアは目立ってしまうようだ。周りを見渡せば、同じくバッジを持った少年少女や少し大人びた男女などが集結していた。傍から見れば、シルビアは明らかに目立っている。
「……やはり、我輩ぐらいの者はいないようですね」
「大丈夫かしら。い、イジメとかに遭わないかしら?」
校内での突き刺さる視線から、ルカはイジメに遭わないかと終始シルビアにべったりと張り付いていたが、試験開始の時間になったことで保護者同伴はできないと言われ、渋々離れていった。
『受験生の皆さん! ようこそ、ボルトリンへ!! 私は試験官長のリューゼだ!!』
広々とした試験会場に集まった試験生へと声を拡大魔法で拡大させ自己紹介を始める一人の男。どうやら試験官長のようだ。
つまり、全ての試験官の長。体は細く、薄緑色の髪の毛もかなり長く、ゴムで一本に纏めてあり、白衣を身に纏っている。どう見ても戦う試験官達の長とは思えない容姿だ。
『これから行うのは、ボルトリンへ入学できるかどうかの模擬試合!! そこで、試験官と戦いこちらが定めた合格ラインに到達したものだけが、入学することができる!! あっ、勉強もあったっけな。まあそっちは私には関係ないからいいとしよう』
良い訳がないだろと、誰もが心の中で突っ込んだだろう。当然シルビアもそれは教育者としてどうなのかと見詰めていた。
『誰もが私の発言に疑問を思ったことだろう! だが! 心配するな! 気が向いたら私も協力を惜しまない所存だ!!』
気が向いたらという言葉がかなり引っかかるが、他の試験官達の様子を伺うといつものことだと言わんばかりに薄ら笑い。
『さて、挨拶もこれぐらいにして。さっそく模擬試合の説明を始める!! ルールはいたって簡単!! 私達が用意した試験官と三分間の試合をするだけだ! 勝ち負けは関係ない。例え、負けたとしても試験官がその者の才能を認めた場合合格ということもあるのだ!! なので全然気負いしなくてもいいのだよ!! では、私はこれからもろもろの事情があり退場するが、皆の者! 頑張りたまえ!!』
試験官長なのに、ただ説明をしただけで退場してしまう。これには受験生達も大丈夫なのだろうかと心配になっている。
「では、試験官長の話の通り。これから模擬試合を開始します。戦うフィールドは全部で十あり、各々に試験官が一人ずつ配置しています。呼ばれた番号順に各試験官について行って下さい。ではまず」
それから各試験官に試験生達はついていき、模擬試合は始まった。自分の試合が来るまでの待ち時間は、他の模擬試合を観戦していた。
もちろんシルビアもそうしている。
三分は若干長いように思えるが、実際にやると一瞬のような時間だ。しかも、中には張り切りすぎて魔法を暴発させてしまったり、壁へ突っ込んで気絶して早々に試合が終わることもしばしば。
そうして時間が着々と過ぎていき、シルビアの出番となった。
待っている最中も多くの視線を集めていたが、こうしてフィールドに立つと更に目立ってしまう。試験官も、シルビアが入って来たときに驚いていたが、すぐ笑顔を作り話しかけてくる。
「君のような子が、入学試験を受けに来るなんて久しぶりだな」
「うむ。我輩も早く冒険者になりたいと思っていまして。ちゃんと父上殿と母上殿の許可を得て、試験を受けに参った次第です、試験官殿」
「はっはっはっは。特徴的な喋り方をするんだね。相手が小さな女の子でも、これは冒険者になるための第一歩。試験官として、君の実力を確かめさせてもらうよ」
「手加減など無用です。我輩も、本気で挑みますので」
静かに腰を落とし、構えた刹那。シルビアの雰囲気が変わった。試験官は、それを感じ取り一歩下がるも、ぐっと堪え木刀を構える。受験生達の多くは、あんな小さな子が勝てるはずがないと馬鹿にしている者や、大丈夫かな? と心配そうに観戦している。
「では、これより受験番号百三番の模擬試合を開始します!! 制限時間は三分!! 模擬試合……開始!!」
審判を勤めるもう一人の試験官の合図と同時に、シルビアは飛び出す。観戦している受験生達は、いい飛び出しだと見ていたが、それもすぐに口が塞がらない事態に変わった。
「なっ!?」
反撃をせんと、木刀を振り下ろした試験官がいつの間にか宙を待っていたのだ。試験官自身も、視界が急に反転していることに気づいた時は、回転しながら壁へと豪快にぶつかり、背中に激しい衝撃が襲う。
「……」
「審判殿」
明らかに試験官は気絶している。これ以上の試合は無理のため、模擬試合はこれで終了だ。そこで、いつまでも判定を下さない審判へと声をかけた。
「あっ……と。も、模擬試合終了!! 受験番号百三番の勝利です!!」
「うむ。では、我輩はこれで失礼するである」
静寂に包まれる中、涼しい表情でフィールドから去っていくシルビアを多くの受験生が見ていた。自分は夢でも見ているのか? と。
「やん! さすがシルビア!! ハグしてあげる! ハグ!!」
ただ一人大喜びでシルビアに抱きついているルカ。我が子の可愛さとその中にあるかっこよさに感激しているようだ。
「母上殿。まだ合格はしておりません。喜ぶのはまだ早いです」
などと言いつつも、嬉しそうに笑顔を作る。
「大丈夫よ。シルビアなら、合格間違いないわ! あっ! ごめんなさい。ちょっとお話してきていいかしら? お友達が居たのよ」
「構いません。我輩は、このまま他の試験生の試合を見ていますゆえ」
「ありがとうシルビア! 帰りには、おいしいスイーツを食べに行きましょうね!!」
どこまでもテンションが高いルカは、帰りにスイーツを食べることを約束して、友達のところへと足早に去っていく。
一人になったシルビアは、さっそく模擬試合を観戦しようと動こうとしたが。
「あ、あの!!」
「む?」
後ろから声をかけられ止まる。振り向くと、シルビアと同じか少し上ぐらいの少女が恥ずかしそうに立っていた。
髪は長く、控えめで大人しそうな雰囲気があるが、右目を眼帯で隠している。怪我でもしているのだろうか? だが、何より目が行くのは大きな胸だ。小さい体に似合わず、かなり大きめだ。
服の上からでもわかるほど、膨らんでいる。
「えっと……その!」
「うむ」
何かを言いたそうにしているが、中々言葉が出てこない。あまり急いでいないシルビアは、少女がちゃんと発言するまで、静かに待っているとようやく搾り出した言葉に首を傾げる。
「お」
「お?」
「おっぱい!!!」
「……おっぱい?」
それはつまり、自分の胸のことを言っているのか。それともシルビアのことを言っているのか。さすがのシルビアでも、少女が何を言いたいのか理解できないで居ると、ハッと我に帰った少女は元から赤かった顔が更に赤くなり、そのままは逃げるように走り出した。
「変わった子であるな」