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第二十七話「敗北の理由」

(まったく隙がない。最初は、わざと隙を作っていたってことね。味なことをしてくれるわ……)


 フィールド内を、歩き回りながらなんとかクェイスの隙を見て、攻撃を加えようよしていたピアナだったが、中々隙をみせない。

 だが、このままただ様子を見ているだけじゃ何も始まらない。

 制限時間も、残り七分となっている。


(これ以上長引かせていたら……無理矢理にでもいくしかないわね。クェイスも、私が攻めてくるのを待っているみたいだし)


 クェイスから攻めてくる気配は微塵もない。

 今度も、ピアナから攻めてくるのを待っているようだ。


「おらー! いつまで様子見をしているつもりだ! 一年!!」

「さっさと戦え! 時間がなくなってるぞ!!」

(うるさい先輩ね……ただ闇雲に突っ込むだけじゃ、勝てない相手なのよ)


 せっかく攻めようとしたのに、後ろで見ていた二年生の野次で出遅れた。だが、すぐに気持ちを落ち着かせ魔力を練り上げる。


「《フレア・フィールド》」

「ほう」


 炎がフィールドへと広がる。

 まるで、戦いが終わるまで逃がさないとばかりに円形のフィールドを囲む。


「いくわよ」

「俺はいつでも準備万端だ。攻めて来い」

「言われなくとも!」


 これはピアナの決意の炎か。轟々と燃え上がる赤き炎を見て、クェイスは楽しそうに笑みを浮かべる。


「おい、また突っ込んだぞ!」

「あいつ、術士ってこと忘れてんじゃねぇか?」


 もちろん自分が術士だということは忘れていない。そもそも術士が遠距離からの攻撃だけしかできないなど時代遅れだ。

 時代は、どこまでも進化していくのだ。


「《エア・ブースト》!!」


 風の鎧を身に纏い、華麗なステップにとて相手を翻弄していく。


「いい動きだ。だが、見えているぞ!!」

「くっ!?」


 最初の魔力ブーストによる突撃に匹敵する速さだったが、それでもクェイスは余裕でピアナを捉える。

 目の前に現れたクェイスに、一瞬驚いたピアナだったが、すぐに対応してみせた。

 

「これで!!」

「む?」


 何をするかと思いきや、フィールドを囲んでいた炎が身に纏っていた風に吸い込まれる。


「いい作戦だったが、回避すれば焼かれるのはお前だ」


 四方八方から襲い掛かる炎だったが、クェイスは余裕で回避する。このままでは、身を焼かれるのは炎を発動したピアナ自身だ。


「自分で出した炎に焼かれるはずがないでしょ! 《スパイラル》!!」


 炎がピアナの身を包む前に、風を操り、今度は炎の渦を生み出す。

 

「まだよ!! 絶対逃がさないんだから!! 《フレア・ウォール》!!」


 後方へと飛んだクェイスを逃がさないと、まだ残っていたフィールドの炎を壁を作り上げる。

 前方には炎の竜巻。 

 後方には炎の壁。


「さあ、逃げ場なんてないわよ!! 焼かれなさい!!」


 これはさすがにクェイスもただではすまないだろう。闘技場内の半数がそう思った刹那。


「あまい!!」


 迫り来る炎をクェイスは、簡単に弾いた。

 しかも、その弾いた方法は。


「ま、魔力だけで……!」


 本気で攻撃したはずの魔術を、魔力だけで弾いたのだ。あまり魔力を込められていない魔術は、確かに魔力で弾くことはできる。しかし、ピアナの魔術は濃い魔力を込めた魔術。

 それを戦士コースであるクェイスが魔力のみで弾くなど誰が予想したか。


「その歳で【複合魔術】を扱えるとは驚いたぞ」

「驚いたのはこっちのほうよ。その【複合魔術】を戦士コースのくせに、魔力で弾くなんて……」


 正直術士としてのプライドに傷がついてしまった。主席ゆえに、魔術のほうも早々なものだとは聞いていたが、まさかここまでのものとは。

 ちなみに【複合魔術】とは、魔術同士を複合させた技術のいる魔術だ。ピアナの場合は、炎の攻撃魔術と風の攻撃魔術を複合させた炎の竜巻がそうだと言えよう。


 これは、大人でも相当苦労する。

 それを十四歳という若さで、完璧に発動させた。これには、観戦していた冒険者達も素直に感心していた。


(決まったと思ったのに……このままじゃだめ。このままじゃ)


 と、ピアナはまたクェイスから視線を外す。

 

(またか)


 それをクェイス自身も見逃さなかった。


「次はこっちから行くぞ、ピアナ!!」

「くっ!?」


 さっきまで受けの体勢だったクェイスが、ついに自分から攻めてくる。戦士コースとはいえ、彼は術士並みの魔力と持ち、魔術を使えるだろう。

 いったいどんな攻め方をするのか、まったく予想ができない。


(どっち。どっちなの……!)


 本来ならば、戦士コースゆえに接近戦を仕掛けてくると用意に予想できる。だが、クェイスの場合はそれが難しい。

 

「どこを見ている?」

「なっ!?」


 信じられないことが起こった。正面にクェイスが居るはずなのに、背後から声が聞こえた。

 

「あぐっ!?」

「なんとかダメージを最小限に抑えたか」


 信じられない光景だったが、なんとか体を捻り、ダメージを抑えた。


「どういう、ことなの。確かに、あなたは」

「残像ってやつだ。そこに居るのは、俺であって俺じゃない」


 再び正面に居たはずのクェイスを確認したところ、徐々に消えていく。

 

(残像が残るほどの速さで、動いたって事か。つぅ……! 女の子でも容赦ないわね)


 最小限に抑えたつもりだったが、脇腹の痛みは尋常ではない。魔力の鎧を纏っていたのにも関わらず、それをも突き抜けてダメージが入ってしまった。

 いくら鍛えようとも、いくら鎧を纏おうとも、男と女ではやはり体格や筋力に差がある。それを思い知らされた瞬間だった。


「この程度で、降参をするとかはないよな? まだ制限時間は五分もあるんだ。俺を最後まで楽しませてみろ!!」

「言われ、なくとも……!」


 脇腹の痛みに堪えながら、ピアナは立ち上がる。


「その調子だ。じゃあ、これを受けてみるか!!」


 いったい何をするつもりだ。行動する毎に、驚かせるクェイスに誰もが注目する。

 

「……嘘」


 クェイスの魔力が一気に膨れ上がる。その魔力量に、さすがのピアナも恐怖を覚えてしまった。


「なんだあのデタラメな魔力!?」

「あれで本当に戦士コースなのか!?」

(だめ。怖がってちゃだめ……! 私は勝つのよ。勝って、証明してみせるんだ! そうよ。主席であるこいつに勝つからこそ意味があるのよ!!)


 なんとか恐怖を抑え付け、対抗せんと魔力を練り上げた。

 しかし。


「遅い」

「―――かはっ!?」


 まただ。また残像に騙され、死角からの攻撃を受けてしまった。

 それも、まともに。

 これにはさすがのピアナも意識が飛んでしまうほどだった。


「決まったな」


 倒れるピアナを、クェイスはそっと抱きとめ、そのままゆっくり下ろす。


「……ピアナさん? ピアナさん?」


 タイミングを見計らって、シーニは倒れているピアナへ何度か声をかけながら体を揺する。


(こんな、ところで……!)


 完全には意識は飛んでいないようだが、それでも飛びかけているのは間違いない。


「カウント五で立ち上がれなければ、この勝負クェイスくんの勝ちにします」

(そんな! た、立たなくちゃ……立って、勝負を!)


 シーニの宣言から、フィールドの上に魔力で生成された数字が浮かび上がる。

 五、四と徐々に時が刻まれていく。

 

「まだ……私、は……」


 なんとか立ち上がろうと、体全体に力を入れる。

 

「……ピアナさん」


 間に合わなかった。

 無常にもカウントはゼロとなり、試合の終了を告げる音が闘技場内に響き渡る。


「負け、た?」


 湧き上がる歓声の中、ぺたりとその場に座り込むピアナ。


「確かに、俺はお前に勝った。だが、俺は素直に喜べていない。むしろ不機嫌だ。どうしてかわかるか?」

「え?」

「わからないなら、教えてやる。お前が戦っていたのは、誰だ? お前が見るべき相手は? 戦う相手がまったく違う相手に意識を向けていては、誰でも不機嫌になる!! わかったか!!」

「……」

「これがお前の無様な姿の原因だ。……ではな」

「く、クェイスくん!?」


 クェイスが去った後、ピアナはまるで抜け殻のようにゆらりと立ち上がる。


「ピアナさん。大丈夫ですか?」

「……はい」


 一応返事はしたが、それでもどこか一人にはさせられない雰囲気がある。

 大丈夫だろうかと、ピアナを見送った後、シーニは審判兼司会の仕事を真っ当することにした。

 

『そ、それでは! 十分の休憩を挟んでから第二試合を開始したいと思います!! 次の試合は』

(負けた。負けられなかったのに!)


 クェイスからの突き刺さる言葉と、負けた悔しさでピアナは涙が溢れ出てきた。

 どうしても負けられなかった。

 強敵であるクェイスを倒してこそ。


「よう」

「……なによ。今、あなたなんかに構ってるほど暇じゃないのよ」


 フィールドから出て、控え室前を通ろうとすると、壁に寄りかかったオルカが待っていた。恥ずかしいところを見られてしまった。

 すぐ涙を拭い、いつもの強気な態度でオルカを睨む。

 

「そう言うなよ。俺は、お前に用事があるんだからさ」

「用事? なによ、まさか弱りきった私を慰めて好感度でも上げようってわけ? 生憎だけど、私は―――なっ!?」


 視界が揺らぐ。

 意識が、飛んでいく。まだクェイスから受けたダメージが残っているから? 最初はそう思ったピアナだったが、すぐに違うと判断できた。

 この纏わりつくような気持ち悪い感覚。

 

「あなた……なに、を……」


 それが、目の前のオルカから感じ取れた。

 

「復讐だよ」


 その言葉を最後に、ピアナの意識は完全に失った。

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