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第二十六話「ピアナ対クェイス」

『皆! 待たせたな!! この俺!! クェイス=ファストがきたぞ!!!』

「あ、あのクェイスくん。そういうのはちょっと」

『すまない! シーニ女史!! だが、こういうのは派手な口上が大事だと思ってな!! なにせ、俺は一年の代表に選ばれた一人! 二年、三年の先輩やわざわざこの場に来てくれた有名ギルドの冒険者方に知ってもらうため必要なことだ!!』


 クラス対抗バトルは軽い挨拶を済ませ、さっそく第一試合が始まろうとしていた。審判と司会を務めるのはシーニだったが、クェイスがまた困らせるようなことをする。

 これも何度目かと、一年は見慣れた光景のように見詰めていた。


『ピアナ! お前もどうだ!?』

「……やらない。さっさと試合を始めるわよ」

『おっと、そうだった。では、シーニ女史。審判を頼むぞ』

「う、うん」


 やっとクェイスの暴走が止まったところで、シーニは一呼吸置いて口を開ける。


『それでは、これよりクラス対抗バトルを開始します。第一試合は、一年一組から戦士コースクェイス=ファストくん。一年二組から術士コースピアナ=ルーンさん』


 選手の紹介が終わると闘技場内は歓声で湧く。

 ボルトリンの全校生徒に、各ギルドから訪れている冒険者達で、空いている席はほとんどない。円状の闘技場の中央には、審判のシーニに、選手の二人しかいない。

 普通に見た感じは、ただの土で埋められたフィールドだが、衝撃吸収と対魔法の防壁が張られている。

 当然だが、観戦席を守るように同じ防壁が張られている。

 

『制限時間は十分ですが、どちらかが気絶するか、降参する。それか、審判である私がこれ以上の試合続行は危険だと判断したら終了となります』


 だが、これはあくまでも選ばれた一年の実力を見るもの。

 そう簡単には試合が終わることは無い。

 

『両者。準備はいいですか?』

「大丈夫だ!」

「こっちもです」


 二人の返事を聞いて、シーニは再び口を開ける。


『では、二人とも位置についてください』


 距離をとり、互いに睨み合う。

 その空気を感じ取った観客達は、合わせるように静まった。


『第一試合。開始です!!』


 ついに始まったクラス対抗バトル。試合開始と同時に、シーニはフィールドから離れ、防壁が張られている審判用の観戦室へと後退。

 すぐに激突するかと思われたが、二人ともその場から一歩も動いていない。

 闘技場内も、いつ動くんだと静まり返ったままだ。


「先攻は譲るぞ、ピアナ」

 

 体よりも先に口が動くクェイス。どうやら、ピアナに先攻を譲るそうだ。

 おそらく挑発のつもりなのだろう。

 どんな攻撃でも、自分は受けて立つと。


「そういうことなら……遠慮なくいくわよ」


 その挑発にピアナはあえてのった。だが、静かに内で闘志を燃やしながら、魔力を練り上げる。ついに始まると、二人の変化に闘技場内も少しずつざわついていく。

 いったいどう動くのか。

 ピアナは術士のため遠距離から魔術を放つ。普通ならば、誰でもそう考えるだろう。

 しかし、まったく予想外の動きをした。


「嘘だろ!?」

「突っ込んだ!?」


 ピアナの大胆な突撃に、闘技場内が一斉にざわつく。ただ突っ込んだわけじゃない。魔力を足から一気に爆発するように噴出させ、戦士も顔負けなダッシュ力を生み出した。

 まるで瞬間移動でもしたかのように、クェイスとの距離を詰める。


「ほう。術士で、こんなに距離詰めるとは」

「びっくりしたでしょ? まあでも」


 が、すぐに後ろへと飛んだ。


「おいおい。なにを」


 突っ込んだと思ったら、すぐ後退。いったい何をしたかったんだと誰もが思った刹那。


「あ、あれを見ろ!! クェイスの周りに!」


 いったいいつ発動したのか。気づけば、炎や氷の槍がクェイスの周りを囲んでいた。数にして、四十は超えるだろうか。

 完全に不意を疲れたであろうクェイスへ容赦なく降り注ぐ。

 派手な爆発が起こり、砂煙が舞う中、ピアナはどうだと言わんばかりに立ち上がる。


「距離を詰めたのは、格闘技で挑むためじゃないんだけど」


 これはさすがのクェイスでもただではすまないだろう。

 自信あり気に見詰めるピアナだったが。


「なるほど。ダッシュと同時にまず炎の槍。俺との距離を詰めた時に氷の槍を。そして最後に、発射。この短い時間でこれほどのことをやり遂げるとは。俺でなければやられていただろうな」

「……はあ。あなたも口だけじゃないってことね。さすがは主席」


 砂煙が徐々になくなり、クェイスが姿を現す。

 少しの傷跡があると思っていたが、まったくの無傷だ。自信があったピアナは、主席の力というものを思い知らされ、眉を顰める。


「ま、マジで? お前、見えたか?」

「い、いや。あの一瞬で、そんなことをやっていたのか?」

「てか、クェイスもクェイスですげぇよな。それを一瞬で見抜いて、無傷で防いだんだからよ」

「いつも口うるさいけど。やっぱり主席なのね」


 まだ始まったばかりだが。先ほどの攻防で二人の評価が一気に上がっただろう。

 だが、二人はこの程度では満足していない様子。むしろ、先ほどの攻防で更に闘志に火が点いたと言えよう。


「さあ、どうした! ピアナ!! お前の力はその程度か!!」

「うるさいわね。挑発しなくても、今すぐに見せてあげるわよ。今度は簡単に防げないような攻撃をね。……行くわよ」

「ん?」


 一瞬、どこかへと視線を送ったのをクェイスは見逃さなかった。いったい誰を見ていたのかと、送った先を確認したところ。


(なるほど)


 誰を見ていたのかはっきりわかった。ピアナの視線の先は一年が座っている場所。彼女ほどの実力者が戦いの中で、見るような一年は一人しか居ない。

 

「その余裕。一気に崩す!!」

「やれるものならやってみろ! ここで負けていては、俺の最強道は潰える!!」




・・・・・☆




「あの一瞬で、あれほどのことをやるなんて。さすがピアナですね。というか、さっきこっちを見ていませんでした?」

「それは我輩も感じていた。試合中に余所見は感心しないのである」


 そういうことじゃないような、とユネは首を傾げる。

 あれは、明らかにシルビアのことを見ていた。

 それぐらいはユネにだって理解できる。シルビアも、自分への視線だと気づいているはずだが。その意味を理解できていない様子だ。


「……まあ、それはそれとして。今の二人は様子見ってところですね」


 シルビアが変なところで鈍いのは、これまでの付き合いでユネもミミルもわかっている。今更追求したところですぐには変わらないだろう。

 ならば、今は目の前の試合を楽しむのが先決だと視線をフィールドへと戻す。


 最初の時のように、二人は互いに様子を見るように見詰め合っている。

 円形のフィールドを距離をとって、歩き回っている。

 またこの緊迫感か。

 闘技場内の生徒達は、じっと見詰めている者達や、次はいったいどんな闘いをするんだろうと予想している者達で分かれていた。


「おいおい。いつになった動くんだ?」

「さっきの威勢はどこにいったんだよ!」

「さっさと戦えー!!」


 中には少数だが、野次を飛ばす者達も。

 丁度野次を飛ばす者達の近くに座っていたユネは、はあっとため息を漏らす。


「落ち着きのない人達ですね。この緊迫感を楽しむというのができないんでしょうか」


 いくら二人が一年の中でも、トップの実力を持っていたとしても簡単には動くことはない。

 互いに違うコースに進み、学んできた。

 そのためまだ実力を全て知ったわけじゃない。未知数の相手にただ闇雲に突っ込んでいくのは、馬鹿のすることだ。

 とはいえ、クェイスは普通に突っ込んでいくと誰もが思っていただろう。


 自分は最強だ。

 未知数の相手でも、自分の実力ならば余裕で対応できると。

 だが、現実は違った。

 ピアナの攻撃を受けてから、スイッチが入ったように別人と化している。


「ピアナちゃん。勝てるかな?」

「どうでしょう。相手は、あのクェイスですからね。言動や行動はともかくとして。さっきの攻撃を無傷で防いだ。主席の実力は確かということです」

「だが、ピアナもあれで実力の全てを出したというわけではないはず。……そろそろ動くようだ」


 シルビアの言葉通り、ピアナが魔力を練り上げていた。クェイスも今度は迎え撃たんと構えていた。


(さあ、見せてもらうぞ。二人の実力を)

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