第二十四話「ナナエの叫び」
「校内の見回り終わりました! 異常はどこにもありません!!」
夕日が沈もうとする時間帯。
ボルトリンの生徒会室では、役員達が会長達に報告をしていた。
「よし。ご苦労」
「続いて、王都の見回り終わりました! 異常はどこにもありません!!」
当然、校内の見回りだけではなく王都の見回りも続けている。今回は、まだ王都へ侵入したと思われる怪しい連中が捕まっていない。
これだけ総動員しても捕まらないとなると、相当隠密に長けているのだろう。
「ご苦労。今日は、これであがっていい。明日からは、一年のクラス対抗バトルだ。それまでゆっくり休んで置くように」
しかし、明日は一年のクラス対抗バトルがある。今回は、早めに休み。明日の警備に力を入れることにする。
「はい! それじゃあ、失礼します! 生徒会長! 副会長!!」
「はいはーい。ご苦労さまねー」
ゆるゆるな返答だが、役員達は嬉しそうに敬礼する。
「は、はい!!」
「失礼します!!」
ある意味、ナナエはアイドル的な存在だ。あの愛くるしい性格に加え、生徒会長という役どころ。彼女から挨拶してもらえるだけで役員達は嬉しいのだ。
それも男子だけではなく、女子にも人気がある。
「会長。挨拶ぐらい真面目に言ってください」
「えー、いいじゃーん。役員達も、これでいいって言うんだからー」
役員達がよくとも、副会長であるマイキーはどうしても気になってまう。
「それよりさー、明日楽しみだねーマイキーくん」
「クラス対抗バトルのことですか? 懐かしいですねぇ。あの時の会長を思い出すと……今とあまり変わってませんね」
「えー! あたしだって、十分成長したよー!」
「体や能力はともかく、他は全然成長してませんよ」
一年の頃から一緒に居るからこそわかる。彼女は、体と能力以外は全然成長していない。所謂、子供のままなのだ。
「なにをー!!」
「言われたくなければ、もうちょっと大人になってください」
「ぶー! じゃあいいもーん! 子供のままでー!! あーあ、早くシルビアたんの戦う姿みたいなー!!」
あれだけ否定しておいて結局子供のままでいいと、気持ちをシルビアへと切り替える。
「……どこで撮ってきたんですか、その写真」
「え? シルビアたんに直接頼んで撮ったんだけど?」
機械工学が生んだもののひとつ。人や風景などを一瞬にして絵にしてしまう道具らしく、異世界では当たり前のものとして存在する。
異世界出身であるナナエは、ついにきた! とばかりにいたるところでカメラを手に動いている。
「会長。仕事してください」
「してます! した後で撮りに行ったから問題なしです!! ……あれ?」
生徒会室での日常的な会話をしていると、開いている窓から鳩が入ってくる。
その鳩を見た瞬間、ナナエは絶望した顔へと変わる。
「会長」
止まっている鳩から離れるナナエに代わり、マイキーが近づいてく。
「いや」
「会長」
「いや」
嫌がるナナエから視線を外し、鳩に触れる。
すると、鳩はぽふんっと白い煙となって消え、一枚の紙になった。マイキーは、その紙に書かれた内容を確認し、もう一度ナナエへ声をかける。
「……特務です」
「知ってる。だからいや」
「しかし、これは」
「だって、そうなると絶対明日のクラス対抗バトルに間に合わないじゃん! いやったらいやー!! シルビアたんの試合みたいのー!!」
無常に響き渡るナナエの叫び。
しかし、特務は仕方ない。
そう、特務は……ナナエがやるべきことなのだから。
・・・・・☆
中央大陸の奥地にある廃城。
ここは、一万年前に内乱が起き、それっきりだ。ここの城主は、王族ゆえに下々を見下すのが使命だと言い張って、平民を連れ込んでは見世物にして命を弄んでいたそうだ。
それを見かねた騎士団の副団長が、率先して内乱を起こした。
団長は城主と組んで、好き勝手していたらしい。
内乱が起きてからは、内乱を起こした元副団長が町を治めるリーダー的な存在となっている。
忌むべき白は、いつまでもそんな過去を忘れないようにとあえて残しておいたのだが。それが裏目に出てしまったようだ。
城主側の残党が謎の力を身につけて戻ってきた。
元副団長も、腕に自信がある者達を集って討伐へ向かったのだが、全然敵わなかった。
このままでは、またあの悪夢が。
そう思った元副団長は、とある者に特務として依頼した。
「はっはっは!! このままいけば、またこの城は俺達の物になるぜ!!」
残党のリーダーを勤めるのは、城主を見捨てて我先にと逃げた元団長のヴドーだった。服装はもう騎士とはいえない。袖を切って、肩を出した上着に膝などに穴が空いたズボン。
どこから見ても、不良か山賊のような格好だ。
「さすが、ヴドー団長!」
「おいおい、今の俺は団長じゃねぇんだぞ? それに、この結果はあの方から授かった力のおかげだ」
「最初はただのやべぇ奴かと思ったけど、まさかマジでこうなるとはな」
赤く照りのあるりんごを齧りながら部下達はにやにやと笑う。
「しかしヴドーさん。体は大丈夫なんすか? あの力は本物ってのは認めますけど。使ってて体に負担とかねぇんすか?」
「今のところねぇな。ま、この力さえあればこの町は俺のものだ!」
「ヴドーさんなら、国さえも手に入れることだってできますよ!」
「おうよ!! んじゃまあ、さっそく抵抗してる邪魔な奴らを」
「そこまでだよ!!」
さっそく抵抗している者達を殲滅しようと立ち上がったところで、どこからともなく女の子の声が響き渡る。
「だ、誰だ!?」
「町の奴らか!?」
周りを見渡すもどこにもいない。
いったいどこに居るんだと探し回っていると。
「煌く太陽! その光を背に、正義を執行するプリティな戦士!!」
なにやら口上をぺらぺらと述べている。
「な、なんだ?」
「お、おい! あそこ!!」
声の主は、ステンドグラスが張られていた場所に立っていた。そこから差し込む太陽の日差しを背に、なにやらポーズを取っている。
顔だけを隠すような半月型の仮面を被り、長い漆黒のツインテールが風で揺れていた。
フリルが多い鮮やかな色をした服装は、この廃城にはまったく合っていない。
「ジャッジメント仮面! ここに参上!! さあ、あなた達に下す判決は……鉄拳制裁だよ!!」
「……なに言ってんだあのガキ」
「ふざけんな!! ガキの遊びに付き合ってるほど暇じゃねぇんだ!!」
完全に子供の遊びだと思ったヴドー達は、呆れながら無視し、その場から去ろうとする。
「待ちなさい!!」
「うおっ!?」
だが、ジャッジメント仮面に移動を遮る。
「だからなんな―――ぐおはっ!?」
「え?」
邪魔なので、無理矢理にでも退けようと手を伸ばすが、先にジャッジメント仮面から手を出した。
いや、拳を叩きつけた。
豪快に吹っ飛ばされた部下の一人は、壁に激しくぶつかり気絶する。
「お、お前いきなり何を!?」
「鉄拳制裁!!」
「ぐほっ!?」
「てめえ!!」
「更に鉄拳制裁!!」
「ぎゃあ!?」
「まだまだ鉄拳制裁ぃ!!!」
「あああああっ!?」
次々に、その小さな拳で倒されていく部下達を見てヴドーは呆気にとられ、硬直していた。
「この仮面野郎が!!」
ハッと我に帰ったヴドーは、体から黒い靄のようなものを出現させる。
しかし、いち早く気づいたジャッジメント仮面は。
「輝け!! あたしの正義の太陽!!」
黒い靄が完全に出る前に、ものすごく輝いた。
まるで空で輝く太陽の如く。
「な、なんだこの光は……!? ぐおおおおおっ!?」
あっという間に光に包み込まれ、ヴドーは気づけば気絶していた。
「ふいー。さっきのはなんだか危ない予感したから輝いたけど、正解だったみたいだねぇ」
仕事が終わったとばかりに、仮面を外し素顔を晒す。
「まだ仕事は終わってませんよ。仮面は外さないでください。どこに残党が潜んでいるかわからないんですから」
「大丈夫大丈夫! ざっと見回ったけど、ここに居るので最後だよ。マイキーくん」
ナナエだった。
更に出てきた男も、仮面を被って正体をわからないようにしているが、ナナエのせいで被っている意味をなくした。
深いため息を漏らしながら、マイキーは仮面を外しナナエの代わりにヴドー達を縄で縛っていく。
「他のところに居た残党はあたしが縛っておいたから、後は連れて行くだけだね!」
「ですね。お疲れ様です、会長。今日はいつも以上にやる気でしたね」
「あったりまえじゃん!! だって、今日はクラス対抗バトルだよ! ぶっちゃけ、特務は他の人にしてほしかったよ!! なんでこのタイミングなんだー! 絶対嫌がらせだぁ!! あのクソババア!!」
「会長。言葉が汚いですよ。仕方ありませんよ。他の人達も、同じく別の特務だったようですから」
ヴドー達を縄で縛っている間、ナナエは八つ当たりをするかのように地団太を踏んでいた。そして、全員を縛り終わると。
「さあ! 学校に戻るよ!!」
「ですが、今から戻ってもギリギリ間に合わないと思いますが」
ボルトリンがあるのは中央大陸の中心。今現在ナナエが居るには、東側の端っこも端っこ。特務の依頼が届いてから、すぐこっちに来て半日。
現在は、翌日の朝九時頃。
クラス対抗バトルは、昼休みが終わった後に始まることになっている。つまり全力で戻ったとしても、もしかしたら終わっている可能性が高い。
「間に合う!! というか間に合わせるのぉ!! ほら、さっさと行くよ!!」
「待ってください。今、拘束したことを報告しますから」
「我慢できなーい!!」
「ちょっ! 会長ー!!」




