第二十二話「待ち遠しい」
「いやぁ、ダンジョン楽しかったなぁ!」
「お前は、罠にかかってただけだろ! 助けるこっちの身にもなれって!」
「というかあなた自分から罠に突っ込んでなかった? あんなの上のダンジョンじゃ確実に命落とすよ?」
「わ、わかってるって!!」
ダンジョンが解禁してから、早くも一週間。
生徒達の熱はまだまだ冷めない。
教師達もダンジョンの解禁の成果が出ていると今まで以上に授業へ力を入れている。ただ、ダンジョン解禁のおかげだけじゃない。
多くの生徒や教師経ちはダンジョン解禁の次に期待している。
今から一週間後にあるイベント。
一組と二組から二人ずつ選ばれ戦う。
選ばれるのは、戦士コースと術士コースのもっとも優秀な成績を収めた者達だ。
共に冒険者になるため励んできた仲間同士だが、時には戦わねばならない。なによりも、冒険に出るということは危険と隣り合わせになるということだ。
そんな時、力なきものは容赦無用で命を落ちていく。
知識と共に強さもなくてはならない。それを示す場のひとつが、今度行われるクラス対抗バトルだ。
「悔しいです! いえ! まあ見えていた未来なんですけど!! とりあえずおめでとうございます!! シルビア!!」
すでに、クラス対抗バトルに出る四人は決定していた。
戦士コース、一組からはクェイス。二組からシルビアとなっている。生徒達は残念がっていたが、二人ならば納得とエールを送っていた。
次に術士コースから、一組オルカ。二組ピアナが選ばれた。
ピアナは誰もが納得したが、オルカについては誰もが疑問を覚えた。彼は、校則違反を起こし、授業もあまり真面目に受けていないのにも関わらず選ばれたのはおかしいと。
誰もがどうしてなのかと教師に聞いたが、選んだ理由を聞いた瞬間に術士コースの誰もが口を閉ざした。
この選抜が行われる前に行われたコース別の総合試験。
その結果によれば、トップはピアナで、次はオルカとなっていたのだ。授業などは不真面目だが、実力は確かな者だと知らしめたのだ。
その時は、術士コースの全員が驚いていた。今までの不真面目さは、実力を隠すためのものだったのかと。生徒だけじゃない、教師も素直に驚いていた。
これは、育てればすごい冒険者になると。
「それに、まさかあの人が選ばれるとは。やればできる人だったんですね」
「校則違反をしてからだよね。なんだか、落ち着きも出て」
「一緒に居た二人もそうですよね。あれ以来大人しくなったというか、静かになったというか」
それは、誰もが感じている。入学当時から、どこか子供っぽいところがあり真面目に授業を受ける気があるのかと言われていた。
それが、どうだ。
拘束違反を犯してから、まるで反省したように大人しくなった。ただ授業に関しては、今までと変わらずあまり真面目ではなかった。
「どちらにしろ、彼は選ばれた。これは教師の評価によるもの。これを気に、授業も真面目にやってくれればいいのであるが」
「そうですね。ところで、シルビア」
「なんであるか?」
「もしクェイスと戦うことになったら、迷わず殴り飛ばしてください」
なんともストレートに物騒なことを言う。
しかし、それは誰もが思っていたことらしい。原因は、入学式の時の一言だろう。今でこそ、クェイスは主席にも関わらずちょっと馬鹿なところがある男という認識になっている。
言うことは、上から目線。
だが、仲間思いで困っていればすぐ助けてくれる。
だが、シルビアのことになると敵意むき出しというか、見る目が危ないというか。そんなこともあり、ユネはこんなことを言うのだろう。
「もちろん手加減するつもりはないのである。彼は、主席だ。手加減などしていたら、こっちがやられる恐れがある」
「しかも、総合試験のこともあるからあっちもかなり本腰入れてくるかも……」
総合試験の時、トップを取ったのはクェイスではなくシルビアだった。勉学のほうは負けていたが、今回は戦士コースでやってきたことを教師に見せ付けることだ。
クェイスは術士としてもかなりのものだが、戦士としてならばシルビアのほうが一枚上手。それが、証明されたことでクェイスは、シルビアへ更にライバル心を燃やすことになっただろう。
「そういうことならば、こちらとしても嬉しいこと」
「ど、どういうこと?」
「相手が本気の本気で来るのであれば、我輩も更に本気になれるということだ」
「その気持ちはわかります。やはり相手が本気じゃないと、こっちも本気が出ませんよね」
そういうものなのかな? とミミルは首を傾げる。
「ですが、先輩に聞いたところ。毎年、違うコース同士が戦ってきたらしいです」
つまりそれは、戦士コースと術士コースの生徒が戦うということになる。毎年のことならば、クェイスと戦うという可能性は低くなったかもしれない。
「となると、我輩はオルカかピアナと戦うことになるかもしれないということか……」
「でも、戦士と術士じゃ戦い方がまったく違うから実力差によっては一歩的になっちゃうんじゃ」
「そういうことも考慮してのことだと思います。もし、戦士の冒険者が術士と遭遇したとします。その場合、戦士はどうするか。術士はどうするか。それを学ぶためだとユネは考えています」
いつも戦士同士や術士同士で戦えるものじゃない。ここは学校だからこそ、コースに分かれて戦士同士、術士同士で競い学ぶことができる。
が、冒険者となり一歩外へと出てしまえば、術士なのに戦士の集団に襲われてしまうこともありえる。
逆もまたしかり。
バランスのいいパーティーを組んだとしても、先に戦士だけがやられてしまうことだってあるのだ。
「どちらにしろ、我輩は我輩の戦いをするまで。相手が魔術で遠距離から攻撃をしてきたとしても、工夫次第で圧倒できるのである」
「昔だったら、戦士と術士で戦った場合圧倒的に戦士のほうが有利でしたからね」
昔の術士は、魔術を発動する際に魔力を練り上げてから呪文詠唱をしなければならなかった。その大きな隙を、戦士につかれやられる。
しかし、今の術士は魔力を練り上げ、魔術名を宣言するだけで発動できる簡易なものとなった。
発動速度は格段に上がったことで、戦士と戦っても圧倒されることはそうはない。
昔はどうあれ、今となっては術士も多少の格闘技はできる。戦士ほどではないが、接近された時の回避方法などを教え込まれているのだ。
「術士コースの友達から聞いた話だけど、ピアナちゃんの魔術は、誰よりも発動速度がすごいみたいだよ」
「確か、一度の発動で二十もの初級の攻撃魔術を発動したらしいですね」
「ほう。それは、すごい」
ピアナは十四歳だと聞く。あの歳で、初級とはいえ攻撃魔術を一度に二十も発動できるのはよほどの才能がない限り無理な話だ。
やはり彼女は口だけじゃない。
それだけの才能と実力を兼ね備えている。
「対して、オルカは未知数ですが。ピアナの次に成績がよかったことから、相当実力をつけていると考えていいでしょう」
「ふむ。そうであるなら、もっともっと楽しみが増えて我輩もテンションが上がるというもの!」
「シルビアちゃん。見た事の無いテンションだ……」
それほど楽しみなのだろうと無邪気なシルビアを見て、二人は苦笑した。




