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第二十一話「まだ」

「まったく。こんな物静かなところはダンジョンじゃない! 俺が今まで潜ってきたダンジョンはな! もっと多くの魔物と罠が出てきた!!」

「はいはい。わかったから、静かに歩いてくれないか? クェイス」

「そうよ。ここは初心者用なんだから仕方ないじゃない」

「何を言う! 初心者用とはいえ、これでは!」

「相変わらずうるさい人ですね」


 シルビア達が潜った後、後半組となっていたユネ達がダンジョンへと潜っていた。ゴンのすぐ後ろを歩いているクェイスは、相変わらずうるさいが、どうやら生徒達はもう慣れたとばかりに笑いながら彼の相手をしている。

 そして、たまに魔物が出現すれば。


「邪魔だ!!」


 クェイスが早々と倒してくれるため、生徒達はただただ後ろからついて行くだけでダンジョンを探検できる。


「いいぞー! クェイスー!」

「さすが主席!!」

「当たり前だ!! この最強である俺についてくれば、お前達は安全!! おっと、そういえば話の途中だったな。いいか! ダンジョンというものはだな!!」


 おだてていれば、クェイスは上機嫌になる。

 利用しているようだが、これもひとつの友情。クェイスも頼りにされているため、悪い気分ではないようだ。

 そんな一組のやり取りをユネとミミルは、微笑ましそうに後ろから見ていた。


「一組は退屈しないでしょうね。彼のおかげで」

「入学式の時は、なんだか危ない人だと思ったけど。あの光景を見ると、ちょっとお馬鹿なお兄さんって感じだよね」

「ミミルも言うようになりましたね。……おや? なんだかこの壁に違和感がありますね」


 ユネとミミルは最後尾だったため立ち止まっても進行の邪魔にはならない。しかし、足を止めると列がどんどん進んでいく。

 早めに移動を再開したいが、どうしても壁が気になってしまうユネ。

 

「明らかに罠っぽいですね。ですが、本にはこういうものの先に隠し財産がある部屋へ繋がっているとか」

「ユネちゃん。皆が先に行っちゃうよ?」

「わ、わかってます。ですが、どうしても気になってですね」


 だが、ゴンが素通りしたということは、ここはあまり気にする場所ではないということ。

 こうして悩んでいる間にも刻々とゴン達は前へと進んでいる。

 早くしなければはぐれてしまう。


「そこには何もないわよ? あっても、空の宝箱ね」


 悩んでいるユネに、ピアナが壁の奥のことを教える。

 彼女は確か、先に進んでいたはず。

 わざわざ戻ってきたのか。


「そうなんですか?」

「ええ。サーチの魔術でわかっていたわ。ゴンさんは、こういうところに気づくかどうか試しいたのかもね」


 そう言われると、授業のようだと納得した二人。

 ただダンジョンを歩いているだけでは授業になっていないと思っていたが、自分でそういうことに気づくかどうか。

 そういう授業もあるのかと、壁から離れ足を進める。

 なんとかはぐれず列に戻ると、一瞬ゴンがこちらを見た。


「どうやら正解だったみたいね」

「他の人も気づいていたのかな?」

「クェイスは確実に気づいていたでしょうね。だって、あの壁を通り過ぎた辺りでため息ついてたから。たぶんあれって、宝箱を発見したけど中身がなかったからだと思うわ」


 そう言われると、ずっとうるさかったクェイスが一瞬静かになった。

 あれはそういう意味だったのか。

 

「……ところで、聞きたいことがあるのですが」

「なによ」

「シルビアのことですが」

「そ、それじゃ!!」


 先ほどまで足並みを揃えていたピアナがシルビアの話題になると、急に前に出る。


「ま、待って!」


 ユネが止めようとしたが、それよりも先にミミルがピアナの腕を掴んでしまう。


「は、離して!」

「ごめんね。でも、私。ううん、私達はどうしても気になってるの。シルビアちゃんの友達として」

「……」

「ミミルの言う通りです。それに、今のままだとあなた完全に不審者ですよ?」

「ふ、不審者!? わ、私が!?」


 ピアナにとって予想外に言葉だったのだろう。誰が見てもわかるほど、驚き、焦っている。


「そうですよ。傍から見たら、シルビアをストーカーしているようにしか見えません。シルビア自身は気にしていないようですけど」

「そ、そんなに怪しかったの私……」


 自覚はなかったようだ。


「ですから、もうそんなことをしないように、あなたにはどうしてシルビアを避けるのか。その理由を聞きたいんです」

「シルビアちゃんを嫌い、ってわけじゃないんだよね?」


 嫌いならば、あの時話しかけてくるはずがない。もし話しかけてきたとしても、もっとシルビアに嫌味を言っていたはずだ。だが、あの時ピアナが言ったのはライバル宣言。

 そのライバル宣言も、どこか無理矢理なところがあったと二人は感じていた。

 そこで二人が導き出した答えが。


「あなた、昔シルビアと会ったことがあるんじゃないですか?」


 シルビアとピアナの共通点は、貴族だということ。貴族ならば、貴族同士のパーティーなどで顔を合わせている可能性がある。シルビアは、覚えていないような反応だったが、ピアナはどうだろう。

 ユネの問いかけに、ピアナはしばらく黙る。

 

「あっ!? 何か踏んじまった!?」

「わー!? 落とし穴よ!!」

「何をしている!! そんな見え見えの罠を踏むとは!! 手を伸ばせ!!」

「わ、悪いクェイス」


 向こうでは、生徒が罠にかかってしまったようだ。何人かが落とし穴に落ちてしまったらしく、現在は救出作業が行われていた。

 これでしばらくは、進行は止まるだろう。

 

「……あなた達の言う通りよ。私は、五歳の時のパーティーでシルビアと会ったわ。もっとも、あの頃の私は今と全然違う見た目だったから、シルビアが覚えていないのは仕方ないけどね」

「やっぱり。それで、その時何があったんですか?」

「これはただ私のわがまま。シルビアは全然悪くないわ。そう……これは私自身の決意なのよ。だから」


 その時のピアナの表情は、見せた事の無い決意の意思を感じる瞳をしていた。そんな瞳を見てしまっては、二人はこれ以上何も追及できないと口を閉ざす。


「ふう。いいかお前達! 初心者用だったからただ落ちただけだが、もっと上のダンジョンでは一瞬にして命を落とすような罠があるんだ! 注意して進め!!」

「……それは、俺が言うことなんだが。まあいいか。クェイスの言う通りだ。お前達は、これから冒険者としてここ以外のダンジョンへと潜るだろう。その時は、一度かかっただけで命を通しかねない罠がある。もちろん魔物もな」


 生徒の救出も終わり、ゴンからの助言が下り、再び列が動き出す。


「わかりました。何があったのかは、これ以上は追求しません」

「でも、これだけは聞かせてピアナちゃん」

「なに?」

「シルビアちゃんとは」

「……ええ、友達になりたいと思ってるわ。それだけは、信じて。けど、今はなれない」


 それを聞いて安心したと、二人は笑う。

 

「あっ、このことはその……シルビアに言わないでよ!」


 さっきまでの真面目な雰囲気はどこへいったのか。


「言わないでよ!!!」


 同じことを二回言うほど、恥ずかしいのだろうか。更に、二人の間に何があったのか気になってしまうユネとミミルだった。

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