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第十九話「闇への誘い」

「くそっ! くそっ!! あー!! むかつく!!」


 自分の短髪をものすごい勢いで掻きながら、オルカ=ブヴィオは怒り狂っていた。

 その苛立ちの理由は、つるんでいる少年達は理解していた。裏路地に集まり、辺りに置いてある木箱やガラクタなどを八つ当たりのように蹴っている。


「はあ、やっぱり凡人は貴族に見下されるだけなのかね」


 と、垂れ目の少年エブルが呟くと八つ当たりをしていた短髪の少年がものすごい剣幕で睨む。


「凡人だからなんなんだよ! 貴族だからなんだっていうんだ!! 同じ人間だろ!? なのに……なのに!!」


 また嫌な過去を思い出し、更にレンガの壁に拳を打ち付ける。

 壁は壊れなかったが、壊す勢いだったことは確かだ。


「けど、貴族は裕福な暮らしをして、能力もあるのは確かだぜ? あのピアナって奴の力見ただろ?」

「そ、それは……!」


 オールバックの少年ダイの言葉に言い返そうとするも、言葉が出てこない。

 しばらくの沈黙の後、再びオルカは口を開ける。


「だったら、お前らは貴族に馬鹿にされたままでいいのか!? 俺達は、何のためにボルトリンに入学したんだよ!!」


 確かに、自分達はあのボルトリンに入学できたとあって、調子に乗っていた。それが、校則違反に至るまでに。

 だが、自分達の目的を忘れたわけじゃない。

 オルカは、拳を握り締め語り続ける。


「あいつらを……貴族の奴らを逆に見返してやるためだろ!? 凡人だって、お前達と一緒に人だって!! 才能だけじゃないって!!」


 貴族がなんだ。凡人がなんだ。自分達は、同じ人だ。命をある生物だ。

 才能がないからって馬鹿にされるなんておかしい。

 絶対見返してやると。

 三人でそう誓って、三人でボルトリンに入学することができた。これで、自分達の目標が近づいたと。ひとつの部屋に集まって夜通し大喜びしたのを今でも覚えている。


「お前達は、それを忘れたのか!?」

「わ、忘れてねぇけど」

「あのピアナって奴の力、尋常じゃねぇぞ? それにほら、シルビアって奴も」

「……あいつか」


 シルビアも貴族だということはオルカ達は知っている。だが、シルビアのことは別に気にしていない。素直にすごいと思っている。

 いや、正確にはシルビアの父親だ。

 カインは、最初から貴族じゃなかった。どこにでもいる田舎の村の生まれで、騎士として活躍したことで貴族の位を貰った。

 いわば、オルカ達にとっては憧れの存在。彼のように、強くなってどこまでも成り上がるのだと。


「あいつもすげぇよなぁ、あれで十歳だぜ?」

「俺の妹よりも年下なんだよなぁ……」


 シルビアの実力は、試験の時にしっかり目にしていた。主席のクェイスもすごかったが、あの小さな体で試験官を一撃粉砕したのだから。

 さすがはカインの娘だと感心しながらも、負けてられないとライバル心を抱いていた。


「……あぁ! やめだ! やめだ!! おい! 今から飯食いに行くぞ!!」


 腹を満たせば少しはこのイライラも治まるだろうと思ったオルカは、足早に歩き出す。二人は慌てて追いかけるが、すぐに立ち止まった。

 

「なんだお前」


 それはオルカの目の前に怪しいフードを被った人が立ちふさがったからだ。

 

「けっけっけ。随分とイライラしているようだねぇ、少年」


 なんだ老婆かと、オルカはため息を漏らす。


「ばあさんには関係ないだろ。俺達、今から飯食いに行くから邪魔しないでくれ」


 無視してそのまま老婆の横を通りすぎようとするが。


「力が欲しくないかい?」

「なんだと?」


 老婆の言葉に再び足が止まった。


「あんたは、どうやら貴族に深い憎しみを持っているようだね」

「……聞いてたのか」

「いやいや、聞かずともわしにはわかるんだよ。あんたの心には深い深い闇がある。その闇からわしはどんなことがあったのかを知ることができるんだよ」


 何を言っているんだ? とオルカは老婆を睨むが、エブルとダイが不気味がりながら叫ぶ。


「お、オルカ! なんだかそいつやべぇ雰囲気するぜ」

「あ、ああ。さっさと飯食いに行こうぜ!!」


 だが、オルカは動かなかった。まるで、老婆の言葉に縛られるとうかのように。無理やりにでも連れて行こうと二人も考えたが、なぜか動けない。

 老婆の言葉に自然と耳を傾けてしまう。


「ほうほうほう……あんた、貴族に生活をめちゃくちゃにされたんだねぇ」

「なっ!?」

「ただ靴を汚されただけで、平民には払えないような高額なお金を要求されて。払えないとわかれば、代わりにと家の家具などを奪っていく」

「お、お前なんでそれを」


 このことはオルカ自身とエブル、ダイ、そして故郷の皆しか知らないことだ。この王都にそのことを知る者などいないはずなのにどうしてと、目を見開く。


「けっけっけっけ。言っただろ? わしは、心の闇からどんなことがあったのかを知ることができるって。……ふむ。しかも、貴族の子供達に魔術の練習台になれと動く的にされた。おやおやこれはひどいねぇ。本当に人間なのかい?」


 未だに怪しく笑いながら、老婆はオルカの右腕を突然掴み袖を捲くる。


「な、なにしやがる!?」


 振り払おうとするが、老婆は謎の力で離れなかった。

 いったい老婆のどこにこれほどの力があるんだ? 


「これが、その時の傷跡だね」


 捲くられた袖の下から、複数の火傷や傷跡が出てきた。オルカにとっては、あまり見たくない忌むべきものだ。


「なあ、少年」

「な、なんだよ」


 やっと離してくれた老婆から距離を取って、傷跡を隠すオルカ。

 だが、まだ老婆は話があるようで口を閉ざさない。


「もう一度聞くよ。力が欲しくはないかい? 貴族を……憎き奴らを屈服させる力を」


 老婆の掌から突然現れる黒き球体。

 それはまるで生きているかのように、黒い靄がうねうねと動いていてかなり不気味だ。

 しかし、なぜかその球体から目が離せない。


「そこの二人も、どうだい? わしは、あんた達のような可哀想な子達の味方なんだ。怖がらなくてもいいんだよ。さあ」


 まるで、吸い込まれるようにエブルとダイが近づいてくる。

 明らかに様子が変だ。

 オルカが二人を止めようと、老婆と二人の間に立った。


「おい! お前達! どうしたんだ!?」


 問いかけるも二人にはまるで声が聞こえていない様子。これは、あの黒い球体にせいに違いない。そう思ったオルカは老婆にいい加減にしろと言ってやるため振り返った。


「ぐああ!?」

「けっけっけっけ。さあ、あんた達の心の闇を解放するんだよ」


 無理やり黒い球体を体に押し込まれてしまった。

 拒絶しようとするも、そんなもの関係ないと完全に体へと溶け込んでいく。


「ぐ、ああ……!!」


 苦しい。体が軋む。熱い。

 立ってられず、膝を崩すオルカの脳内には、小さい頃の記憶が噴水のように噴出してきた。

 親が貴族に踏みつけられている姿。

 家のものを奪われていく光景。

 複数の魔術が自分に向かって飛んでくる恐怖。

 そして、湧き上がる憎しみがどんどん膨れ上がってくる。それが頂点に達した時、オルカは悲痛な叫びを響かせた。


「アアアアアアアアアアアアッ!!!」

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