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第一話「転生」

(……ん? もう転生をしたのであろうか?)


 ボルトバにとってはほんの一瞬の出来事のように感じた。だが、ディアナの力で無事新たな生を受けて転生できたようだ。体が、少し重いように感じる。

 瞼も若干開くのに時間がかかった。


「あっ! ほら、あなた。目を開けたわよ!」

「本当か!? おぉ……なんて可愛いんだ。ほらー、パパでちゅよー」


 やっと瞼を開くことができ、最初に視界に入ったのは若い男女。どうやら、言動から考えるにボルトバの親のようだ。

 身なりを見る限り、貴族だろう。我が子がかなり可愛いのかもう顔の筋肉がゆるゆるのゆるっゆるである。


(ふむ。これも女神様の計らいか。我輩は、とても裕福な家庭の子に生まれたようであるな)


 ボルトバとしての子供時代は、裕福とは言えないが幸せな家庭だったことを今でも覚えている。父親は木こりで、母親は祖父母ととも農家をしつつ、学校の教師をしていた。自然の中で、自由にのびのびよ過ごしたことで身体能力は高く、父親の木こりも手伝っていたので腕力もかなりのものだった。

 冒険者となったのは、親に贅沢とまではいかないにしろ裕福な生活をしてほしいと思ったからだった。その結果、最終的に冒険者のトップや英雄とまで言われるまでになったのだが。


(今回は、勝手が違うか。貴族ゆえに、何もかもが違うであろう。……さて、今はいったい何年なのだろう?)


 などと、赤ちゃんだがボルトバとしての知識や記憶があるために母親に抱きかかえられながらも、今後について色々と思考している。

 しかし、父親から発せられた何気ない一言で思考が止まった。


「いやぁ、それにしても本当に可愛いな! 俺の”娘”は!!」

(……娘?)


 どうやら、ボルトバの第二の人生は女の子であったようだ。




・・・・・☆




「申し訳ありません!!!」


 ボルトバが新たな生を受け、五年が経ったところで女神ディアナが顕現し、ものすごい勢いで頭を下げてきた。

 

「いやいや、お気になさらず女神様。これでも、何不自由なく生活はできていますよ?」


 白銀のツインテールが良く似合う可愛い見た目からは、不釣合いな喋り方で頭を下げているディアナに言うボルトバ……いや、今はシルビアか。シルビアの家庭は父親が騎士として名を上げたことにより成り上がったようなのだ。


 そして、シルビアが住んでいるところは貴族街と呼ばれる貴族達の家が密集しているところだ。なので、周りは皆貴族ばかり。

 なのでシルビアの家族のような成り上がり貴族はいないので、若干仲間はずれのような態度をよくとられている。とはいえ、父母共にあまり気にしていないようなのでシルビアも気にはしていない。


「ですが」


 ディアナが気にしているのは、シルビアの性別についてだ。転生する際に、突然の次元干渉により少しずれが生じたらしく、本来男で転生するはずが女になってしまったとのこと。だったら、ディアナのせいではないとシルビアは何度も宥めているのだが、一向に頭を上げてくれない。


「それに、我輩の記憶と能力までそのままにして転生させてくれたではないですか」


 性別は女であったが、記憶と共にボルトバの頃の能力や身体能力までもおまけで転生してくれたことに、シルビアは深く感謝している。

 それに気づいたのは、丁度立てるようになった頃からだ。

 親も、やっと立ったばかりなのに、軽快に動く我が子を見て驚愕していたほどにすごかった。

 その時は、父親カインの騎士としての遺伝子がちゃんと引き継がれたのよ! と母親ルカが断言していたのだが、この身体能力はボルトバのものだと直感できた。


「こんなわたくしを許してくださるのですか?」

「許すもなのにも、感謝こそしていますが。あなたを恨んだことなど一度もありませんが?」


 最大の笑顔を見せると、ディアナは子供のように大粒の涙を流し、シルビアに抱きついた。


「ありがとうございます! ありがとうございます……!」

「はっはっはっは。女神様は、泣き虫なのですな」

「すみません……! すみません……!!」


 ようやく落ち着いたところで、涙を拭い笑顔を向ける。


「それでは、わたくしはこれで失礼致しますが。何かを困りごとがおありになるようでしたら、わたくしを頼ってください。なんでもしますから!!」

「それは心強いです。ですが、女神様のお手を煩わせないように我輩も努力していきますゆえ」

「さすが、伝説の冒険者さんですね」


 今は、ボルトバが死んでから八十年後だった。性別の件について、すぐに気づいたディアナが喋ることができないシルビアに対して、謝罪をしつつもこの世界のことを詳しく教えてくれた。自分で立てるようになり、すぐ歴史書を確認したところ、ボルトバは本当に歴史に残る英雄として称えられていたのだ。


「シルビアー? シルビアー? どこー?」

「む? 母上殿が来たようだ」

「では、お元気で。またお暇ができたら、会いに参ります」

「あまり無理をなさらずに」

「はい。では」


 丁寧に、頭を下げ光の粒子となって消えた後、入れ違うようにルカが姿を現す。シルビアと同じく白銀の長い髪の毛を揺らし、娘の姿を見つけると真っ先に飛びついてくる。


「もう! どこに行ってたのー?」

「すみません、母上殿。ちょっと小鳥達と会話をしていました」

「あら? それは素敵ねぇ。私も一緒にいいかしら?」

「はい、共にやりましょうぞ、母上殿」

「ふふ。相変わらず不思議な喋り方ねぇ。でも、お母さん嫌いじゃないわよ?」


 第二の人生、女の子になったのもあり喋り方などを変えようかと思ったが、試しに親の前で喋ってみれば簡単に受け入れてくれた。

 さすがは、女神様が選んだ親だとその温かさにほっこりとするシルビアだった。




・・・・・☆




「父上殿。母上殿。少々お話があるのですが。よろしいですかな?」

「あら? シルビア。どうかしたの?」

「お? まさか、恋の話か!?」

「まあ、あなたったら。シルビアにはまだ早いですよ。私の勘だと、学業についてですよ」


 シルビアとして生を受けてから早十年が経ったとある日。シルビアは、カインとルカを真剣な表情で呼び出した。カインは全然的外れな予想をしたが、ルカの鋭い発言にシルビアはさすが母上殿と微笑みながら切り出す。


「行きたい学校があるのです」

「ほう? それはどこなんだ?」


 今まで、家庭教師に頼んで勉強をしていた。貴族だけが通うことができる学校があるのだが、学費がとんでもないのだ。カインは貴族とはいえ、騎士からの成り上がりだ。他の貴族と違いほいほいと大金を出すことはできない。

 なによりも、シルビア自身が親には申し訳なかったと思いながら断っていた。そんなシルビアが、自分から入りたいという学校があると言い出してきた。親として、カインとルカは親身に話を聞くことにした。


「ここです」


 と、テーブルの真ん中に一枚のパンフレットが置かれる。そのパンフレットに載っている学校には二人も見覚えが会った。もしかすると、最初に進めた貴族だけが通う学校よりも入学が難しいところかもしれない。

 

「ここって」

「はい。冒険者達を育成する学校……ボルトリンです」


 今となっては、世界中で冒険者になりたいという者達が日に日に増えている。自由に世界を冒険したり、クエストを受けて魔物と戦い、素材を採取する。普通に暮らしていたら味わえない刺激があると。しかも、その多くが世の中の怖さを知らない若者達。


 ただ刺激を求めて、楽しそうだからという理由で冒険に出て命を落としてしまったのでは家族が悲しむうえに命が無駄となる。そうならないために設立されたのが、冒険者育成学校ボルトリンだ。ここで冒険者としての知識と戦闘を学び、卒業できた者達は晴れて冒険者と堂々と名乗れる。


 それに加え、学校のほうからギルドへ加入できるようにと推薦してもくれる。まだボルトバとして生きていたあの時代には数えるほどのギルドしかなかったが、八十年以上も経った現在では数え切れないほどのギルドが設立されている。冒険者達の多くは、有名なギルドに入るという目標もあるぐらい冒険者達にとってギルドは学校よりも入りたいところなのだ。


「なるほど。ボルトリンか……」

「確かにあそこは、入ることができれば援助金も入るけど」


 二人が心配するのも無理はない。ボルトリンは、冒険者を目指す者達を育てる学校。当然そこへ通うということは冒険者になりたいと言っているようなもの。

 冒険者になれば、命の危険と隣り合わせになるのは明白。親からすれば、大事な子供をわざわざ危険な目に遭わせるようなことはしないだろう。


「ここがどんなところかわかっていて言っているのか? シルビア」


 一人の親として、そして人々の命を護る騎士としてカインは問いかける。


「もちろんです、父上殿」

「ここは、冒険者を育てる学校。当然冒険者になるということは命の危険がある。だから、入学試験として試験官と戦って合格ラインに達しなくちゃならない。これも知ったうえで言っているのか?」


 ボルトリンに入学するには、ただ金を払えばいいだけじゃない。入学するには、入学試験にて試験官と戦い規定の合格ラインへ達しなければならない。そのため、ある程度の実力がなければ入ることができないのだ。そんな試験方法のためか、入学する者達の年齢はバラバラ。十代の中に二十代が混ざっているのは当たり前の学校。


 だが、年齢など関係ない。他の学校と違い冒険者に本気でなりたい者達を支援するために設立したのがボルトリン。実力と覚悟があれば、子供だろうと中年だろうと冒険者としてのなんたるかを本気で教えるのがボルトリンなのだ。

 だが……シルビアの年齢で入学することができた者はいない。若くても十二歳が最低年齢だろう。そもそも、親が子供の入学を断固として認めないのがほとんどなために若い世代が少ないというのが現実だ。


「はい。本気です。ですが、言葉だけではなんとでも言えます。ですので、今から我輩の強さを証明したいと思います」


 強さの証明。それを二人に見せ付けるために、家の中庭へと三人で出て行く。カインには、訓練用の木刀を持たせ、シルビアは拳を構え対峙する。そんな様子をルカがあわあわと心配するに見守っていた。


「し、シルビア。こんなことしなくても」


 当然のことだが、ルカはシルビアのことを喧嘩などしない優しい子だと思っている。そのため、これから始まる戦いをどうしても止めたいようだ。


「母上殿。ご心配ありません。我輩が、どれだけ強いのかを見せるだけ。……父上殿! 本気で打ち込んできてください!!」

「……本気、なんだな」


 我が子の本気の眼差しに応えるように、木刀を握る手に力を込めた。それを見た瞬間、ルカは止めに入ろうとするも。


「いくぞ! シルビア!!」


 止めるよりも先に、優しい父から戦う父へと変わったカインが飛び出す。


「だめよ! あなた!!」


 迫り来るカインと対峙するシルビアの体格差は、誰もがわかるほど違い過ぎる。身長も二倍以上はあろうかというところから振り下ろされる木刀。木刀とはいえ、本気で当たれば命を奪うことだってできる。


「シルビア!!!」


 当たってしまう。カインも一瞬止めようかと思ったようだが。


「―――え?」


 瞬きすら許されない一瞬のできごとだった。気づけば、カインは仰向けに倒れており、シルビアはカインが握っていた木刀を持って可愛らしい笑顔を作っていた。

 カインは、本気で打ち込んだはずだった。娘に当たりそうだったので、止めようと一瞬思ったが、それでも途中までは本気だった。何が起こったのか二人はまだ理解していないが、理解できることがひとつはある。


「父上殿、母上殿。我輩は、絶対ボルトリンに入学し、お二人に恩返しをしてみせます」


 シルビアは、強いということだ。

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