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第十七話「ダンジョン解禁」

 校則違反をした男子生徒達は、厳重な注意だけで済んだようだ。

 術士コースの生徒に聞いたところ、前よりは大人しくなったとのこと。それでも、時々ピアナのことを睨んでいるそうだ。

 本人は、さほど気にしていないようだが……。


「そろそろ皆さんがこのボルトリンに入学して一ヶ月になります。その間、皆さんは多くのことを学び成長しているのを先生達は知ってます。そこで、来週からはついにダンジョンでの授業が解禁されます」

「マジか!」

「やったぜ!!」

「つ、ついにダンジョン……ちょっと怖いけど、楽しみ!」


 考え事をしていると、シーニの言葉で二組みの生徒達が歓喜の声を上げる。

 それもそのはずだ。

 今までダンジョンでの授業があると言っておきながら、全然ダンジョンへ潜る気配がなかったのだ。それがついに解禁ともなれば、喜ぶのも頷ける。


「ダンジョンは、休み明けになります。その間に、しっかりと体調管理と準備をしてくださいね。では、出席を取ります。呼ばれたら、返事をしてください」


 シーニも大分クラスに馴染んでいるようで、最初の自信の無さがなくなっている。

 ほどなくホームルームが終わり、シーニが教室から出て行くと生徒達は一斉に騒ぎ出す。

 もちろん休み明けのダンジョンについて話題で盛り上がっているのだ。


「盛り上がっていますね」


 自分の席から皆の様子を伺っていると、ユネとミミルが近づいてくる。


「ようやくダンジョンに潜れるのである。皆の喜びは頷ける。二人は、どうなのだ?」

「そりゃあ、楽しみですよ。ダンジョンは本や噂程度でしか知りませんからね」

「私も、同じかな。故郷の近くの山にあるって噂は聞いていたけど……」

「誰も近づきませんでしたね。遠くから来た冒険者達は、力試しとかお宝目当てで時々来ていましたけど」


 ダンジョンとは、誰もが知っている不思議な空間が広がる場所。

 いったいいつどこで出現したのか。

 誰が生み出しているのか。

 古い文献によれば、まだ人という種族が生まれていない時からあったとか。だが、本当にそうなのか? と問われれば学者達も完全に肯定することはできないという。


 もしかすれば、ダンジョンとは神々が生み出している試練の場なのかもしれない。

 ダンジョンには、多くの罠があり、魔物だって無限かもしれないほど出現する。

 そして、多くの罠と魔物達を退け、辿り着いた先には……宝がある。それも、ダンジョンでしか手に入らないようなものだ。

 

「えっと、学校にあるのってダンジョンに転移する転移陣があるだけなんだよね?」

「そう聞いている。いったいどんなダンジョンなのかは、謎。行って見ないことにはわからないのである」

「学校にあるぐらいですから、初心者用みたいなダンジョンなんでしょうか? さすがに、高難易度のダンジョンになんて行かないと思いますし……」


 詳細については、まだ数日はある。

 さすがに休日前には、教師から詳しい話があるだろう。


「であるな。とりあえず、今は次の授業のため移動をしよう」

「んー! 最初からコース別授業なんてテンション上がりますねぇ!!」


 他の生徒達も、廊下を移動しながらダンジョンについての話題を盛り上がっていた。

 それは更衣室の中でもそうだ。

 ダンジョンの話題は、しばらく続いた。




・・・・・☆




「ふう。たくっ、やっと採点が終わったか。あー、めんどくさかった」


 赤ペンを置き、肩を機械の手で揉むタダイチ。

 すると、横からシーニがコーヒーが入ったカップをテーブルに置いた。


「お疲れ様です、先輩」

「シーニよ。今は、同じ教師同士だ。先輩は止めろ」


 と、コーヒーを口に運びながら呟く。

 タダイチとシーニはボルトリンの卒業生。そして、先輩後輩同士だった。当時、二人のことを知っている者達はまさか二人が教師になるなど思ってもいなかった。

 もちろん二人が学生だった頃、教師をしていた者達もそうだ。


 タダイチは、昔からめんどくさがり屋で、頻繁に授業を休んでいた。

 シーニも昔から後ろ向きな性格で、いつも人の後ろをついていくように、あまり目立たずな生活を送っていた。

 そんな二人が、教える側になった。いったいどういう経緯があってここの教師になったのか。タダイチは、ここの居心地がよかったと言っていたが、どうも適当に言っているように思えた。

 対して、シーニは自分を変えるためだと昔の思い出を挟みながら語った。


「す、すみません。あっ、そういえばせ……タダイチ先生聞きましたよ。校則違反をした生徒のこと」

「あー、そのことか。ありゃあ、別に俺がやろうと思ってやったことじゃねぇよ。ユネの奴が、俺を無理やり引っ張って行ったんだ」


 タダイチは思い出す。あの時は、丁度弁当を食べようと場所探しをしていた時だった。

 なにか焦った様子で近づいてくるユネに、こっちに来てください! と強引に腕を引っ張られたのだ。

 

「その後、生徒への厳重注意とかでせっかく昼休みが潰れちまって。ゆっくり弁当すら食べられなかったんだよ……はあ。素直に食堂で食べてちゃあ、よかったぜ」

「それで、生徒達は?」

「大人しいもんだぜ。けど、ああいう奴らは一度の注意じゃ止まらねぇ。今は大人しいが、また何かやらかすかもなぁ」


 やれやれと再びカップを手に持ち、ため息を漏らす。


「それじゃあまた注意を」

「あー、そりゃあどうだろうな。確かに、俺達教師は悪いことをした生徒を注意して、正しい方向へ導くのも仕事だ。けど、それでも簡単にいかない時もあるってことを覚えておけ。シーニ先生」


 タダイチは聞いた。生徒指導室で、男子生徒達がどうしてあんなことをしたのか。どうして、ピアナを攻撃しようとしていたのか。

 聞いた話によると、ピアナの態度にイラッとしたからと言っていたが、ただそれだけじゃないと感じた。


「そ、それでも生徒を正しい道に導くのが教師ですから!」

「おー、おー、健気だな」

「タダイチ先生も、めんどくさいからって見て見ぬふりとかやめてくださいよ?」

「わーってるよ。それよりも、いいのか?」

「何がですか?」


 わかっていないシーニに、タダイチは時計を指出す。


「お前、次授業あるだろ?」

「そそそ、そうでしたぁ! えっと、それじゃあ失礼します!!」


 ようやく理解したシーニは、慌てて職員室から出て行く。


「頑張れよー。……相変わらず抜けてるな、あいつは」


 教師になって変わらない後輩を見て、小さく笑みを浮かべ自分の作業を再開した。

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