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第十六話「術士として」

「むぅ……」

「珍しく悩んでますね。ピアナのことですか?」

「うむ。彼女は、いったい何をしたいのか……よくわからないのである」


 あれから数日が経つが、シルビアは未だに悩んでいる。いったい、ピアナはどうしたいのか。ライバル宣言したというのに、ただただ見詰めているばかりで、勝負などを仕掛けようとしてこない。

 今は敵の情報を集めている最中、なのだろうか?

 そう考えれば、彼女の行動も納得がいくのだが……と。


「悩み中だったり?」

「悩み? どうして、そう思うのであるか?」

「だってほら。ライバルって言っちゃったから、どうやって話しかけようか迷ってるんだと思う」


 そう考えるならば、あの態度にも説明がつく。

 こちらを見ながら、なにやら考え事をしていた素振りが時々あった。

 

「そうか。そういうことなら、あちらから話しかけてくるまで待つことにするのである」

「そのほうがいいですね。さて、そろそろお昼に……む? この音は」


 そろそろ食堂に到着しようとしていたところで、何かが弾ける音が響いた。

 まさかと思い、三人は音がする方へと足を進める。


「……やっぱり」


 案の定、またあの男子生徒達は魔術を撃ち合っていた。そこは、校内の裏で森となっている場所だ。授業などで訪れる場所だが、当然校内。

 校則第三条に引っかかる。

 手の甲を確認したところ、許可印はない。

 

「あの人達。また校則違反を……!」

「せ、先生に報告したほうが」

「ですね。ユネが行ってきます。その間、二人は彼らを見張っててください」


 そう言うと、ユネは一目散に走り出す。

 

「あっ、シルビアちゃん。あそこ」

「あれは」


 ユネと入れ違うように誰かがやってくる。

 真っ直ぐ男子生徒達へと向かっていく。


「ちょっとあなた達」


 ピアナだ。相手が男子で、三人だろうと臆している様子がない。

 あの時の言葉と、彼女の性格を考えれば、注意をしに向かったのだろう。


「げっ!? お、お前はピアナ!」

「厄介な奴に見つかっちまったなぁ……」


 どうやら彼らにとってピアナは苦手な存在のようだ。

 

「子供じゃないんだから、そういうのは止めなさい。同じ術士コースとして恥ずかしいんだけど?」

「そういうのって。こっちはただ特訓をしていただけだぜ?」

「学校の授業だけじゃ、絶対強くなれないって」

「なあ、ここは見逃してくれよ。同じ術士コースの仲間じゃねぇか」

「馬鹿じゃないの? さっきのどこが特訓だっていうの? どう見ても遊んでいるようにしか見えなかったんだけど。それに、あなた達みたいなのが仲間なんて一瞬たりとも思ったこともないわ」


 挑発するように、ため息を漏らすピアナ。

 さすがの男子生徒達も、これにはイラつきを覚えた様子だ。


「前から、お前のその態度にむかついていたんだよなぁ」

「ああ。お前、家出したんだってな。てことは、貴族を辞めたってことか?」

「そうなるけど? それがどうかしたのかしら」

「その上から見下した態度! 貴族っぽさが抜けてない証拠だぜ!! 貴族ってのは、人を見下すのが仕事みたいなもんだからな!!」


 異様な怒りだ。いったい彼らと貴族の間に何があったのだろうか? あの怒気は普通じゃない。ピアナもそれを感じ取ったのか、先ほどまでの態度から一変し、相手を観察するように見つめる。


「思い出したただけでむかつくぜ!」


 そんな怒りに呼応するように、魔力が一気に沸き上がり、男子生徒の周りに炎の球体が四個ほど出現する。


「も、もしかして」

「ピアナに向けて撃つ気だ」

「と、止めなくちゃ!」

「いや、待て」

「え?」


 止めようと物陰から出て行くミミルをシルビアが止める。

 それと同時に、男子生徒はピアナ向けて魔術を放つ。


「くたばれ!!!」

「……ふん。あなた達にいったい何があったのかは知らないけど」


 迫り来る攻撃に、ピアナは避ける素振りも見せず、立ち尽くしている。

 

「全ての貴族が同じだと思わないでよね」


 刹那。

 青き壁が、攻撃を弾いた。


「なっ!?」

「お、お前!! 人に校則違反だとか言っておきながら、魔術を使ってんじゃねぇか!!」

「これは、魔術じゃないわ。ただの……魔力の壁よ」


 ピアナの言っていることは嘘じゃない。あれは、ただの魔力による壁だ。魔術は魔力により生み出されたエネルギー集合体。

 ならば、同じ魔力で防ぐ事だって可能だ。

 しかし、魔力で防ぐと簡単に言うが、普通の魔力と違って、魔術は魔力を練り上げてそれを攻撃へと変換したもの。相当な魔力量でなければ防ぐのは難しいだろう。


「校則では、魔術、武器の使用を禁ずよ。どこにも魔力を使っちゃだめなんて書いてないわ」

「そ、そんなの屁理屈だ!!」

「屁理屈じゃないわ。先生も言っていたでしょ? 精神統一のトレーニングは術士にとって欠かせないものだって。あなた達の魔術には全然魔力が込められていない。修練が足りない証拠よ。そうやって魔術で遊んでいる場合があったら、少しでも魔力の強化に力を入れることね」


 戦士コースでも同じようなことを言われていたのをシルビアは思い出す。武器の使用や決闘などは、許可がなければだめだが、ランニングなどの体力作り、筋力トレーニングは大丈夫だと。

 基礎的なトレーニングは、積み重ねれば必ず己のためになる。

 術士でないシルビアにだって、ピアナの魔力の壁を見ればどれだけ修練を積んだのかがわかる。口だけじゃない。彼女は、立派な術士となるため相当な努力をしているようだ。


「こ、このぉ!! お、お前達!!」

「調子に乗るなよ!」

「俺達を怒らせたこと後悔させてやるぜ!!」


 今度は、三人がかりでピアナに攻撃をしようと魔力を練り上げている。さすがに、三人がかりは見過ごせないとシルビアが立ち上がったところで。


「お待たせしました!!」


 教師を呼びに言ったユネが戻ってきた。


「たく、なんで俺が」


 どうやら呼んできたのはタダイチだったようだ。いつもみたいに、めんどくさそうな雰囲気だが男子生徒達を見て、ずかずかと近づいていく。


「お前達か。校則違反をしている生徒は。その魔術で、女子生徒に何をしようってんだ?」


 すでに魔術は放たれようとしていた。対して、ピアナは魔力も練り上げていない、魔術も発動していない。言わば無防備だ。

 なにより傍から見れば、男子生徒達がピアナを寄ってたかって攻撃をしようとしているように見える。


「ち、違うんです先生。俺達はただ」


 なにか言い訳をしようとする男子生徒達だったが、何も思いつかず黙ってしまう。

 

「まあ、詳しい事情は生徒指導室で聞いてやる。おら、さっさと行くぞ」

「おわっ!?」

「な、なんだこれ!?」

「腕が!?」


 機械の腕を男子生徒達に突きつけたと思いきや、バシュッ! と発射する音と共に腕が伸びた。

 どうやらワイヤーのようなものが男子生徒達を拘束したようだ。

 まさか腕の中にそんなものが入っているなどシルビア達は考えもしなかった。


「んじゃま、報告ご苦労さん。それと、ピアナだったな」

「はい」

「お前は、魔術を使ったりしてないんだな?」

「当たり前です」

「……わかった。おら、さっさと歩け」


 ピアナの言葉を信じ、拘束した男子生徒達を連れて行くタダイチ。

 一瞬、男子生徒の一人がピアナを睨んだようだが、すぐ校内へと姿を消す。


「はあ……これで少しはまじめになってくれればいいんだけど」

「見事なものだった。あれだけの魔力の壁は、相当な修練を積まないとできないことだ」

「ししし、シルビア!?」

「む? 気づいていなかったのであるか?」

「さっきから隣に居ましたよね?」

「う、うん」


 どうやら、慌てようから考えるに本当にシルビアに気づいていなかったようだ。


「ええっと……わ、私用事があるからこれで!!」


 そして、また逃げるようにシルビアから離れて行った。


「ふむ。まだ時間がかかりそう、ということであるか? あの反応は」

「そういうことですね。さあ、ユネ達も行きましょう。早くしないと昼休みが終わってしまいます!」

「そういえば、私達お昼を食べに行く途中だったね……」

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