第十五話「校則違反」
本日二話目ですー。
「おらぁ!」
「なんのぉ!!」
「む? あれは」
そろそろ入学して一ヶ月が経とうとしていたとある昼時。
シーニに頼まれ次の授業で使うものをユネと一緒に運んでいた帰りだった。どこからともなく楽しげな男子生徒達の声が聞こえた。
なんだろうと、気になって見に行ったところ。
「くらえ!! 《ファイアボール》!!」
「おっとと!? やりやがったな!!」
明らかな校則違反をしている現場を目撃した。男子生徒三人。その内の二人が、ボールあて感覚で魔術を撃ち合っていた。
彼らには見覚えがある。
隣の一組の生徒だ。
戦士コースで見かけなかったということは、彼らは術士コースにいくことになったのだろう。
「なんて人達なんでしょう! あれって、明らかな校則違反じゃないですか!」
校則第三条。
正当な理由、許可なく魔術、武器の使用および決闘を禁ず。
ユネは、運んでいた荷物を足下に置きずかずかと男子生徒達に近づいていく。
「あなた達! 何をやっているんですか!!」
「は? 何って、見ればわかるだろ? 魔術の練習だよ」
「俺達は術士コースの生徒だぜ? 魔術の練習するなんて当たり前だろ」
などと当たり前のように言っているが、どう見ても校則違反だ。
その証拠に、彼らの手の甲には許可印がない。
教師の許可を貰っているのであれば、手の甲に許可の印が刻まれているはずだ。
許可印は、あるルールを決めて手の甲に刻む。そのルールを破った時は、すぐに許可印を刻んだ教師へと伝わり厳重な注意をされることになっている。
「ほう? ならば、許可印はどうしたのであるか? 許可印がないのならば、君達のしていることはただの校則違反であるぞ」
ユネに続きシルビアも男子生徒たちを注意する。
もっともな意見に、男子生徒達は一瞬戸惑ったが、すぐ口を開く。
「いっけねぇ。許可貰うの忘れてたぜ」
だが、その口から出てきたのは嘘だとすぐわかる言い訳だった。彼らの様子を見ていれば、わかること。彼らはただただ魔術を使うことを楽しんでいた。
力がある者にはよくあることだ。
早く自分の力を使いたい。どこまでのものなのか試したい。そういう身勝手な者達をどうにかするのもこの学校の存在意義でもある。
力があってもそれをコントロールできなければ意味がない。
いずれ力に溺れ、罪を犯してしまうことだろう。
そういう事例もあったのだ。
「ほう。そうだったか。では、これ以上魔術の練習をしたいのであれば、教師の許可を貰うことだ」
「わ、わかってるよ」
「行こうぜ!」
「あ、ああ」
そして、逃げるように男子生徒達は去っていく
「まったく。同じ一年として恥ずかしいです。しかも、あの人達は明らかに年上でしたね」
「であるな」
そもそもシルビアやユネ、ミミルが若過ぎる。十歳と十二歳で入学した彼女達は試験当時から注目されていた。彼女達以外の一年はそのほとんどが十五歳から二十歳だ。
最高でも二倍ほどの差がある。
「っと、そういえば荷物を運んでいる最中でした。急いで、向かいましょう!」
「だが、廊下は走るな、であるぞシルビア」
「わ、わかってますよ!」
・・・・・☆
「そんなことがあったんだね。怪我とかない?」
「ありませんよ。それに、あれぐらいの魔術なら、簡単に回避できますから!」
「だ、だよね。……でも、ちょっと心配になってきちゃった。そういう人が今後増えるかもって思うと」
ミミルの不安もわからなくもない。
今後も、力に溺れ校則違反をする生徒達が増えれば、他の生徒達も危ない目に遭ってしまう。
もちろんミミル自身もそうだ。もし、自分もそんな目に遭ったら想像してしまったのだろう。若干震えている。
「心配いりませんよ、ミミル。その時は、ユネがなんとかしますから!」
「我輩も居る。それに、ボルトリンに居る限りは教師や先輩方が護ってくれる」
二人の力強い言葉にミミルの震えは止まった。
すると。
「まったく。そういう奴らが居ると、同じ術士コースの私までも馬鹿だと思われちゃうから止めてほしいわね」
第三者の声が割り込んできた。
誰だと振り返る。
少女が不機嫌そうに腕組みをしていた。金色のツーサイドアップに、ルビーのような綺麗な瞳。どこかお嬢様な雰囲気がある。
貴族だろうが? 口ぶりから察するに、術士コースの生徒だろう。
「誰であるか?」
「ちょっ!? クラスメイトのことぐらい覚えておきなさいよ!! 同じ二組みの! ピアナ=ルーンよ!!」
「おー、そうであるな。すまない。我輩としたことが、クラスメイトの顔を覚えていないとは」
と、シルビアが素直に謝罪する。
「わ、わかればいいのよ」
もっと食いかかってくるかと思えば、謝罪ひとつで引き下がってくれた。ピアナは一度咳払いをし、また語り出す。
「あなた達が会った男子生徒達に覚えがあるわ。術士コースの授業でも、不真面目さで有名だからね」
「そうであったか。ところで、ピアナ=ルーンと言ったな」
「ええそうよ」
「もしや、あのルーン家か?」
「ええ。世界最古の術士の家系。ルーン家。それが私の実家よ」
ルーン家とは、誰もが知っている有名な名家だ。世界最古の術士と言われるアミレント=ルーン。その血族と言われているのが、ピアナの実家だ。
世界最古の術士の血族ということもあり、術士として優秀な子供達ばかりが生まれる。
中には、ルーン家の教えを乞おうと世界中から術士達が集まってくる。
だが、ルーン家はいかなる理由であろうと他人に教えることはないそうだ。
「あれ? そういえばルーン家って、自分達の魔術理論を絶対としていて、他人から習うことを拒否しているんじゃ……」
他人に教えないと同時に、他人から教わることも拒絶している。
ユネの疑問に、ピアナはあー、そのことと小さく笑みを浮かべた。
「家出したのよ!!」
「……わーお。まさかの展開にユネはびっくりです」
家出をしたというのに、この堂々とした態度はユネと違った自信の持ち主だとシルビアは感じた。
「私は、私の自由に生きたいの。そのためだったら、貴族から一般人にだってなるわ」
「す、すごいね」
自由に生きたいという発想はまさに冒険者に相応しい。ピアナがここに居るということは、彼女も冒険者になるために入学をしたのだろう。
しかも、ここは例え家出したものであろうとも試験に合格すれば、支援金が入るため生活に困ることはないのだ。
「そういうことなら、これから同じクラスメイトとして。いや友として、仲良くしていこう」
ピアナの考えに感心したシルビアは、握手のため手を差し出す。
「……か、勘違いしないでよ! あなたとはら、ライバルなの! 友達になんてならないわ!! そ、それじゃ!!」
一瞬、握手をする素振りを見せたピアナだったが、それを拒否しライバル宣言。
逃げるように去って行く彼女の後姿を見て、唖然とするシルビアだった。
「素直じゃないですねぇ」
「か、可愛い」
「え?」
「あっ、えっと……な、なんでもないよ! うん!」
その後、ピアナからの突き刺さるような視線を何度も感じることになった。
何か用事でもあるのかと、こちらから話しかけようとするも、なぜか逃げられてしまう。
しかも、ライバルだと宣言したのに、勝負を仕掛けてくる気配もなし。
いったい彼女は何をしようとしているのか。
シルビアには理解できなかった。




