第十三話「とある休日の」
「んー!! 休日です! 休日ー!!」
「ユネちゃんったら、すごく嬉しそうだね」
「当たり前です。休日となれば……学校以外でトレーニングに行けますから!!」
「や、休もうよ」
ボルトリンの生徒になってから二回目の休日がきた。
ユネとミミルは、学生服から私服へと着替え、街に繰り出している。
ユネは、動きやすい薄い生地の半袖に、半ズボンとシンプルな服装だ。ユネにとってスカートはあまり好みではない。
蹴り技などを主体としているので、スカートだと下着が完全に見えてしまうからだ。
なので、いつも下には見えないようにとスパッツを穿いている。
対してミミルは、白いワンピースを着用。
ふんわりとしたスカートに、襟元のフリルが可愛らしさをかもし出している。
これは、田舎暮らしでおしゃれなどあまりしたことがなかった二人がシルビアと共に始めての休日に出かけて買ったもの。
シルビアは、二人よりは都会っ子だったため、色々とアドバイスをしてもらい悩みに悩んで選んだのだ。
「それにしても、シルビアどこに行ったんでしょうか?」
シルビアも誘おうと寮へ向かった二人だったが、すでに出かけた後だった。
寮長であるゴンに聞いたところ、朝早く出て行ったとのこと。
二人が尋ねたのは、大体朝の九時過ぎ。
休日ということもあり、若干遅めに訪ねたのが失敗だった。
「私達も、約束してなかったのが悪いと思うけど……あっ」
「どうしたんですか? ミミル」
考え事をしながら歩いていると、ミミルが立ち止まる。
どうしたのだと視線の先を見れば……シルビアを発見。
どうやら、とある民家の壁を直しているようだ。
ジャージ姿で、トントンと金槌で釘を打っている。
「ごめんなさいね。貴重な休日なんでしょ?」
「気にする必要はないのである。これも冒険者になるための経験。それに、いつまでも壁に穴が空いていては、大変であろう?」
「ふふ。小さいのにしっかりした子ね」
思わず物陰に隠れてしまった二人だったが、別に隠れる必要はなかった。
尾行しているでもない。
隠し事があるわけでもない。
「……なんか怪しい人が居ますね」
「う、うん」
自分達もよほど怪しい行動をしているが、もっと怪しい存在を発見した。
自分達よりも前の物陰に、サングラスにマスクで顔を隠し、メモ帳を片手にじっとシルビアを観察している人物。
服装や体系的に女性というのは明らか。これは、警備兵に通報したほうがいいだろうと判断した刹那。
「あっ」
二人も知っている人物が、現われどこかへと連行していく。
「さっきのって、副会長さん、だよね?」
「ええ。確か、マイキー先輩でしたね。さすがです。後輩に近づく不審者を誰よりも先に捕まえるなんて!」
副会長であんな後輩思いなのだ。
まだ出会っていない生徒会長とはどれだけ人ができた人物なのだろう。
早く会って見たいと思いつつ、物陰から出てシルビアへと話しかけに行く二人。
「シルビア。おはようございます」
「おはよう、シルビアちゃん」
「おお。二人であるか。どうしたのであるか?」
「シルビアこそ、何をしているんですか?」
「これは、ギルドの手伝いである。まだ我輩達は正式な冒険者ではないが、学校側の許可を得ることで、簡単なクエストならば受けることができるのである」
確かに、学校の校則にも書かれていたことだ。
だが、せっかくの休日を。それも朝早くからクエストに費やしているとは。
これは負けていられないと、ユネは学校へと駆け出していく。
「ゆ、ユネちゃん!?」
「ユネも学校の許可を貰い、クエストをやります!! 待っててください!! シルビアー!!!」
・・・・・☆
とある街中の裏路地にて、マイキーはサングラスにマスクで顔を隠した怪しい人物を捕まえた。
深いため息を漏らしながら、剥ぎ取るようにサングラスを取って、その素顔を露にさせた。
「会長……なにやってるんですか?」
「何って……観察?」
「明らかに不審者ですよ。その格好と行動は」
ナナエだった。反省をしているのかどうか、よくぞ見破ったぁ! みたいなリアクションをしているので、とりあえずメモ帳を没収するマイキー。
「違うよ! あたしはただシルビアたんの行動を観察していただけだよ!!」
「動物観察じゃないんですから。僕じゃなく、警備兵に見つかっていたら大変なことになっていましたよ?」
本当に見つけられてよかった安堵するマイキー。
いつもよりテンション高く先に出て行ったと思えば、まさかこんなことをしていたとは。
心配になって追いかけて正解だった。
「大丈夫だよ。ちゃんと警備兵には見つからないようにしてたから」
「ですが、うちの生徒には見つかってましたよ?」
「あー、そういえばそうだったね」
やはり気づいていたか。マイキーも、ナナエを見つけた時に、別の場所に隠れていた少女二人を確認した。
どうやらナナエとは違い、シルビアを尾行していたようには見えなかったため、先に彼女を捕らえたのだ
「よかったですよ。もし、これで変装をしていなかったらと思うと」
自分の通っている学校の生徒会長が不振な行動をしていたなんて噂になれば……。そう考えると、ナナエもナナエでちゃんと考えていたんだとサングラスにマスクを見詰める。
「さあ、会長。こんなことは止めて、仕事に戻りますよ」
校内での取り締まりはもちろんだが、こういう休日に生徒達に何かがあった時、すぐ対処できるようにと見回りをするのも生徒会の役目のひとつ。
街の警備は、全面的に警備兵達が取り締まってはいるが、生徒会もこうして毎日ではないが交代でやっている。
当然、生徒会のトップであるナナエやマイキーも。
「わかってるよー」
「……ところで、会長」
「なに?」
「まさかとは思いますが、今回の行動は初めて、ですよね?」
彼女のことだ。先週からすでにやっている可能性がある。
そう睨んだマイキーだったが。
「そんなことないよー。もう、疑い深いなぁ。マイキーくんは」
「まあ、それはこのメモ帳を……あれ?」
本当かどうかは没収したメモ帳を見れば明らかだと思ったマイキーだったが、気づけばそのメモ帳がなくなっていた。
ハッと、すぐナナエへと視線を向ける。
「さあ! 仕事にいくぞー!!」
予想通り、ナナエが持っていた。いったいいつ奪われたのかは、わからないが。さすがは生徒会長だと感心しつつ、飛び出したナナエを全力で追いかけていく。
「ちょっ!? なんでついてくるの!?」
「あなたが、また何かをしないか監視するためですよ!!」
「ついてこないでー!」
そんな逃走劇を、シルビアとミミルは見ていた。
「どうしたんだろ? マイキー先輩。誰かを追いかけていったみたいだけど」
「もしかすると、我輩をずっと観察していた者かもしれない」
と、金槌を振りながら答えるシルビア。
「気づいてたんだね」
「うむ。だが、害がなさそうだったので仕事が終わってからでも話しかけようと思っていたのであるが」
この時、シルビアとミミルはまだその追いかけられていた少女が生徒会長だったということをまだ知らない。そのためただの不審者という認識になるのも無理もないだろう。




