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第二十六話「寝起きに侵略者」

「……蒼海の姫? お姫様なの?」

「うむ!」


 シルビアの手の上でドヤ顔を決めている小さな小さな女の子。

 ウミネール・ハイン・アティネス一世。その名には、聞き覚えがある。歴史書を読み込んでいる者ならば、誰だって一度は目にしたことがあるはずの名だ。

 

 自由自在に、海を泳ぎ、どんな魚達とも会話ができ、支配できる。

 今から数千年前に存在していたと言われる【神海族】だ。水中ならばドラゴンをも凌駕すると言われていた種族だが、数がドラゴン以上に少なく、その頃いた【神海族】はウミネールだけだった。


「本当にあのウミネール・ハイン・アティネス一世殿なのか? 【神海族】の」

「その! ウミネール・ハイン・アティネス一世じゃ!!」

「ちょっとちょっと、どうしたの? 棺桶が開いたみたいだけど……って、なによこのちっこいの」

「ちっこいとは無礼でじゃな!! わしは、このサイズが最大なのじゃ!!」


 いつまでも戻ってこないことを心配して、ついにピアナ達も建造物の中へと入ってくる。


「皆! 失礼なこと言っちゃだめだよ! お姫様なんだから!」

「姫? この小さいのが?」

「お姫様だったら、シャリオちゃんもそうだよね」

「なぬ!? うぬも姫なのか? ……そう言われると、へんてこな衣服からは考えられない気品さ。そして、滲み出る【王の魔力】を感じるのじゃ」


 へんてこな衣服はまあ置いておくとして。

 見ただけで、シャリオに【王の魔力】があることを見抜くとは驚きだ。やはり、彼女も【王の魔力】の所持者だからだろう。

 歴史書にも記載されていたが、ウミネールは【王の魔力】の持ち主なのだ。


「えへへ。でも、わたしは元お姫様なんだよ」

「ほう? では、わしと同じじゃな。うぬらの格好を見る限り、時間が相当経ったと考えられる。それに、わしが眠っていた棺桶の腐敗具合から……数千年は経っておるじゃろう」

「数千年って……あなたは何者なんですか?」


 そういえば、まだピアナ達にはウミネールの正体を明かしていなかった。そこで、シルビアは軽く彼女のことを伝えると。


「ええ!? あのウミネール・ハイン・アティネス一世なんですか!? あれって、本の中の存在だったんじゃ」

「う、うん。絵本にもなってるしね」

「ほう? わしを題材にした本とな。それは是非とも読んでみたいものじゃ」


 案の定、信じられないものを見たかのような反応だった。ウミネールは、歴史書だけではなく、絵本にもなっているほど有名だ。

 子供から大人まで、一度は聞く名前。

 まさか、本物が自分達の目の前に現れるなど誰が想像できただろうか。むろん、シルビアも想像できなかった。


「そ、それでそのウミネール様がどうしてこんな海底で寝ていたのよ」


 さすがのピアナも相手が大昔の姫ということもあり、緊張している様子。

 

「侵略に飽きたから、長い眠りにつこうと考えたのじゃよ」

「し、侵略に飽きたって……」

「いやー、蒼海の姫は考えがすごいねー。あっ、ぷにぷにしていいかな?」

「ふっ、よかろう。特別にわしの頬を―――ふにゃっ!?」


 頬ではなく、腹や胸を容赦なく触っていくナナエ。相手が、大昔の侵略の姫だとしてもぶれない。ウミネールも予想外の行動だったようで、可愛らしい声を出してしまった。


「ぐへへへ。この肌触り……水の中なのに、スーツ越しなのにいいものですなぁ」

「なななななにをしておるのじゃ!? わしが許したのは、頬ー――ひゃうあっ!?」

「……ふう。後は、このまま地上にお持ち帰りしてから楽しむとしよう」

「大丈夫であるか?」

「まさか、ここまで容赦なく触ってくるとは思って、いなかった……のじゃ」

「あっ、力尽きた」

 

 このままで話を聞けない。スーツの魔力残量も徐々に少なくなってきていることを考えると、ナナエの言う通り、お持ち帰りをしないとゆっくり話を聞けないかもしれない。

 ウミネールと会話ができるなど、貴重も貴重。

 このまま別れるのは惜しい。


「ウミネール殿。我輩としては、まだお話したいことがあるゆえ、ひとまずは地上に……む?」


 地響きだ。突然の地響きがシルビア達を襲う。だが、ただの地響きなのか? そんなことを考えていると、ウミネールがハッと気がつく。


「なにか……なにかを忘れているような」

「なにかって、なんですか?」

「重要なことじゃないでしょうね」

「うむぅ……なんじゃったかのぉ。この揺れに関係することだと思うのじゃが……」


 まだ揺れる。揺れに揺れ、揺れまくる。これは本当に地面が揺れているのか? これは、違うなにかが揺れているように感じる。


「おお! 思い出したのじゃ!」

「それで、なにを忘れてたの? お姫様」

「うむ。実は、わしが眠っているこの空間は、わしが作り上げた結界なのじゃが」


 やはり不思議な力による結界だったようだ。


「わしが深い眠りにつけるようにと張ったのじゃ。つまり、わしが起きればその役目も終えて、力が弱まってしまう」

「と、なると?」

「この揺れはおそらく」


 ひょっこり、建造物の中から頭を出し、外の様子を確認すると。


「奴らのせいじゃな」

「あれって……」


 結界の中にうじゃうじゃと侵入してきたのは、ここへ来る前に一戦交えたあの魚人だった。それも二匹や三匹ではない。

 十、いや二十? それ以上? ともかく次々に魚人達が結界内へと侵入し、最後に入ってきたのは、明らかに魚人達のリーダーであろう魚人だった。


「ギョッギョッギョッギョッ!! ついに、結界内へと入ることができたぞ!! さあ、探せ!! あのウミネール・ハイン・アティネス一世が残した宝を!! 必ずこの中にあるはずだ! 根こそぎだ!!」

「ギョギョッ!!」


 完全に、物取り集団だ。おそらくここを見つけ、ウミネールに関係するところだということを掴んだまではいいが、結界が強力過ぎてなかなか入れなかった。

 が、ついに入ることができたので張り切って宝探しをしようということだろう。


「あれ? そういえば、私達は普通に入ってこれたけど、どうして?」

「結界が張られていたんですよね?」

「それは邪な心がなかったからじゃろう。ここに入れる者達は、奴らのような邪悪な心を持たなければするっと入ってこれるのじゃ」


 だからこそ、ただただ悠然を泳いでいる魚達はこの中で泳いでいられるということか。


「ところで、宝なんてあるの? ミーちゃん」

「そんなものはない。わしは、宝集めなぞしなかったからの。というかなんじゃ、ミーちゃんとは」

「可愛いでしょ?」

「そうじゃの……仕方あるまい。特別に許してやろうぞ」

「ははー! さすがウミネール様! 海のように広い心に感服致しましたー!」

「ふっふっふ。苦しゅうない。わしは、優しいからの」


 確かに、優しいのは確かだろう。さっきあれほど失礼なことをしたナナエに愛称を勝手に付けられたのにそれを許している。

 よほど心の広い人物でなければ、さっきの行為を忘れずに愛称をつけることなど許さないだろう。


「それで? ウミネール様。あいつらどうする?」

「放っておけ、と言いたいところじゃが……」


 一度、周囲を見渡しウミネールは小さく笑う。


「美しいこの場所を荒らす不届き者へと制裁を下さねばなるまい。蒼海の姫としての」

「そういうことなら、付き合おうのである」

「よいのか? 相手は魚人じゃぞ? 地上ならともかく水中で奴らとやりあうのはちときついぞ?」


 心配はいらないと、シルビアは拳を握り締める。


「我輩達も、それなりに強い」

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