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第十三話「封印されし」

 どうやら左が正しい道だったようだ。魔物の襲撃があったが、特に命を落とすようなことはなかった。

 その後も順調に第一階層、第二階層と進んで行き、大型の魔物と遭遇した。

 所謂、階層ボスである。


「おー、これが階層ボスというやつですか」

「第一階層にはいなかったけど、どういうこと?」


 目の前に居るのは、一本角を生やした牛のような魔物。五メートルはあるであろう巨体に、隆々とした筋肉。右手には石でできた斧を持っている。

 目は充血しているのか、それとも元からそういう色なのか……赤く染まっている。


「階層ボスと言っても、全部の階層に居るわけじゃないんだよ。これはダンジョン共通だよ」


 階層ボスが目の前に居るというのに、のん気に説明をするナナエ。

 しかも、背中を向けている。

 階層ボスは、動く。シルビア達よりも何倍も大きい斧を振り上げた。


「ほい」


 しかし、ナナエは振り向くこともなく指一本で止めた。純粋な筋力ではない。空間を捻じ曲げ、階層ボスの背後へと繋げたのだ。

 止められると思っていなかった階層ボスの斧は、そのままの勢いで自分に刺さった。


「わー、痛そう」

「やっぱり凄過ぎる……自分の攻撃がまさか自分に当たるなんて思わないよね」


 自分が攻撃しなくとも、相手の攻撃を相手の傍に空間を繋げることでダメージを与えられる。戦士が攻撃を受け流すという次元ではない。

 相手の攻撃を相手にぶつける。空間を操れるナナエにしかできない戦い方だ。


「さあ! 相手が怯んだ今がチャンス! 皆かかれー!!」

「おー!!」

「やったります!!」


 背中への突然の痛みに、思わず武器を放してしまう階層ボス。すると、まだ空間が繋がっていたため斧は背中に刺さったままになってしまった。

 そんな怯んだ階層ボスへと、シルビア達が一斉に飛び掛る。

 殴られ、蹴られ、魔法を食らい、階層ボスは成すすべなく消滅する。


「いやー、これだけの戦力だと階層ボスが可哀想だねぇ」

「ですね。彼女達の力は、すでに一年のトップと言っても良いでしょう」

「お? 副会長がそこまで言うなら、間違いないね」


 階層ボスを倒すと、今まで硬く閉ざされていた扉が自動で開く。

 その先に何が待っているのか、このわくわく感がダンジョンの醍醐味のひとつと言えよう。

 

「あれ? なにか落ちてる」

「なんですか?」


 さっそく奥へと進もうとしたところで、ミミルが床に何かが落ちていることに気づく。ユネも一緒に落ちているものを確認しに行ったところ。


「ドラゴンの石版?」

「なんでしょうね、これ」

「あぐっ!?」


 とりあえずこのまま持っていこうと思った刹那。

 ミミルの目が疼き出す。

 

「ミミル!?」

 

 そして、共鳴するかのように石版が輝き出し、一瞬にしてユネをも巻き込み……どこかへ転移してしまった。


「なっ!?」

「ユネ! ミミル!!」

「会長! これは」

「うん……あたしでも、気づかないほどの転移の力……これって」


 ナナエでも気づかなかった転移術。

 転移する前に、ミミルの目が反応したということは、やはりドラゴンに関係する場所へと転移した、と考えるべきか。

 どちらにしろ、今は二人を探し出さなければならない。シルビア達は、急ぎダンジョンの奥へと進んでいく。




・・・・・★




「あ、あれ? ここは」

「いたたた……もしかして、私達だけどこかに飛ばされちゃった?」


 謎の力によって転移したユネとミミル。

 回りを見渡すと、先ほどのダンジョンとは違い土の壁に囲まれている。まるで洞窟の中のような光景が広がっていた。

 薄暗く、壁に埋まっている光る石の灯りだけで照らされている。


「この石版が原因ですね」

「うん。後、シュガリエが反応した。ということは、ここに」

「ドラゴンに関しての情報がある、というわけですか」


 そう言って、ユネは自分の内にあるドラゴンの力を考える。今はミミルの力とシュガリエの力で封印しているとはいえ、それも徐々に弱まっている。

 石碑で見た光景を見た瞬間、それが一気に弱まったのを感じた。

 もし、このままドラゴンに関しての情報、または力に触れたら……。


(大丈夫……大丈夫です……もうあの時のユネじゃないんですから!)

「ユネちゃん?」

「さあ、行きましょう。どうやら道はひとつしかないようですから」


 覗き込むミミルを心配させまいと、笑顔を作り手を引く。

 通路の壁は普通じゃなかった。

 マナが壁を伝って、ユネ達が向かっている方向へと吸い寄せられている。幻想的な光景ではあるが、何か嫌な予感がする。


「ミミル。なにか感じますか?」

「……うん。この先に何かが居る」


 ユネでもわかる。この先には、先ほど戦った階層ボスよりも異質な力を持っている何かが待ち受けている。

 気のせいか、体全体が震えている。いや、体の中のドラゴンが反応している? 


「正直、二人だけでこの先に居るのとは戦いたくないですね」

「私も。でも、私の中のシュガリエが行きたがってる。この先に居る何かに会いたがってる」

「まあ、だからこそ転移した、のかもしれませんね」


 そう考えると、この先に居るのは。


「この扉の向こうに」


 辿り着いたのは、ドラゴンの画が刻まれた巨大な扉。

 その中へと、マナが吸い込まれているようだ。

 ここまで来れば、嫌でも感じる。

 扉の向こうに居る何かが、自分達を誘っているということに。互いに、心の準備を終えたことを確認し合い、同時に扉へ手を触れる。


「……あの石像だね」

「はい。なんて禍々しいオーラなんでしょうか……」


 扉の中にあったのは、二首のドラゴンの石像だった。禍々しいオーラが漏れ、石像の口の中にマナが吸い込まれている。

 

『懐かしい来客が来たようだな』

『ああ、本当に懐かしい。だが、面白い格好だな』

「なっ!? しゃ、喋った!?」


 部屋に入った瞬間、声が響き渡る。一瞬、誰が? と首を傾げたが、すぐに誰なのかを理解した。

 喋っているのは、マナを吸い込んでいるドラゴンの石像だ。


『我等が、ここに封印されてどれくらいが経っただろう』

『ああ、長かった。本当に長かった』

『来る日も来る日も、復活のためにマナを吸い込み続けたのは』

『いつの日か、我等を封印した憎き白龍を殺すため』

「それって、まさか」


 構えた時には、石像に皹が入っていた。

 漏れ出していたオーラは、一気に噴出し……爆発する。


『さあ、復活の時だ』

『ああ、復活の時だ。そして、丁度良いところに憎き白龍が居る』

『なんて素晴らしい日か。運命が我等に復讐しろと告げているようだ』


 溢れ出した濃い紫色の煙。

 それが毒だと察したミミルは、すぐに巫女の力で結界を展開する。そして、煙の中から姿を現したのは、巨大な生物。

 紫色の鱗に覆われた二首のドラゴン。ギョロリと二人を見詰める四つの瞳からははっきりとした殺意が感じられる。


「まさか、ドラゴンの情報ではなく。本物のドラゴンに遭遇するなんて」

「でも……わかる。シュガリエが教えてくれてる。彼らは、邪悪に染まったドラゴン。かつてシュガリエが封印した世界を滅ぼさんとした一体……毒双龍コカライン」

『そう。我等は、かつて白龍シュガリエに封印された』

『だが、そのシュガリエの力はいまや弱き人間に宿った』

『それにより、封印の力が弱まり、我等は予定よりも早く復活することができたのだ』


 つまり、ここへ導かれたのはコカラインの封印が弱まっていることにシュガリエが気づいたから? ミミルは今一度シュガリエへと呼びかけるが、反応がない。

 

『予定では、シュガリエを葬るはずだったが』

『良いだろう。宿主たる人間ごとあの世へ送ってやろうではないか』

「そうはさせません! 何をしようとミミルがユネが護ります!!」

『……ほう。これはまた懐かしい』

『まさか人間。貴様、オーフィンの転生体か?』


 やはり気づかれた。いや、だからなんだっていうんだ。ユネは、負けじとコカラインを睨みつける。


「だったら、何だって言うんですか?」

『まだ完全には目覚めてはいないようだ』

『ならば、復活する前に葬るとしよう。奴に復活は我等にとって障害でしかない』


 来る。二人だけでどこまでやれるかはわからない。相手はドラゴン。それもかつてシュガリエが撃退するのではなく、封印したドラゴンだ。

 封印するしかなかった。

 そう考えると、二人だけでは勝てる気がしない。


「……ユネちゃん」

「……はい」


 だけど、ここで引くわけにはいかない。もし、勝てないのだとしても時間稼ぎはしてやる。自分達は二人で戦っているのではない。

 きっと……必ず、シルビア達が来てくれる。

 それまでは、自分達にできることをやるまで。


『死ぬがよい! かつての同胞達よ!!』

『できるならば、昔のように戦いたかったが……仕方あるまい!!』

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