第十一話「ダンジョンへ」
「……」
ユネの過去を聞いたシルビア達は、懸ける言葉がすぐ出てこなかった。しかし、ユネが俯いたところでシルビアが先陣を切る。
「ユネ」
「はい?」
「まず、話してくれてありがとう。君の抱えているものが聞けてよかった」
そして、ユネへと歩み寄りそっと抱きしめた。
「だから、もうひとりで抱え込もうとするな。今は、我輩達が居る。何かあれば我輩達を頼るのだ」
「で、ですが―――ひうっ!?」
「ですが、じゃないわよ。馬鹿」
何事かと、視線を下に向ける。
どうやらピアナが、ユネのお腹の肉を抓っていたようだ。
「な、何をするんですか!?」
「弱気なあんたを元気付けてあげたのよ」
「どこの世界にお腹の肉を引っ張って元気付ける人が」
「ここに居るじゃない。まあ、そんな細かいことなんて気にするんじゃないわよ」
と、ピアナはユネと同じく木に寄りかかる。
「確かに、ドラゴンの力なんて私達からしたらとんでもない力。いつもみたいにやってやるわよ! って気軽には言えないわ」
ですよね……とユネは苦笑する。
が、ピアナは拳を握り締め、叫ぶ。
「だけどね! 友達が困っているならやってやるわよ! どんなに傷ついてもね!! わかった!? わかったなら、私達を受け入れなさい!!」
「ピアナ……」
決して視線を合わせない。見上げているその顔は、赤くユネに見せられたものじゃないと思っているのだろう。
ならばと、シルビアが続く。
「ピアナの言う通りである。我輩達は、友達。助け合うのは当たり前のことだ。それとも、ユネは我輩達に助けられるのは、いやか?」
「そんなことは……ず、ずるいですよ。そんな言い方……」
「ずるくない。我輩達は本当のことを言っているだけ。だからユネも、本心を吐き出していいのだ。それを真正面から我輩達が受け止めるのである」
より一層強く、それでいて優しく抱きしめるシルビア。そっぽを向いていたピアナも、いまだ視線をこちらに向けないが、そのまま手を握ってくる。
「……本当に、いいんですか?」
「うむ」
「死んじゃう、かもしれないんですよ。ユネの傍に居たら」
「死ぬもんですか。まだ冒険者になってないのに」
「これからもいっぱい迷惑をかけちゃいますよ」
「君と友達になってから、迷惑と思ったことなどないが?」
「ユネは、普通の人間じゃ、ないんですよ?」
「あら? この世界には普通じゃない人間なんていっぱい居るけど? 例えば、シルビアとか」
「あははは! 返す言葉もない」
「それから、それから……」
言葉を重ねる毎に、ユネは涙を流す。
何を言っても、自分を受け入れてくれる最高の友達の優しさに。
「何を言っても、我輩達は君を見捨てたりしないのである」
「シルビアの言う通りよ。もう諦めちゃいなさい」
「……はい……諦め、ます……ありがとう、ございます……!!」
・・・・・☆
「さあ! 今日は張り切っていきますよ! なんてたってダンジョンに潜るんですからね!!」
「ありゃりゃ? 今日のユネちゃんは、いつもより一味違うねぇ。なんだか、昨日までの無理な元気が嘘のようだよ」
「ぎくっ!? き、気づいていたんですか?」
「あら? あたしが美少女の変化に気づかないとでも思ったのかにゃあ? ねえねえ? 昨日は三人で何をしてたの? もしかしてゆりゆりしてたの?」
「ゆりゆりってなんですか!? べ、別に疚しいことなんてしてませんよ!」
ユネやミミルの体調もすっかり元通りになり、シルビア達は次にドラゴンの情報があるであろう場所へとやってきていた。
グオット村から少し離れたところにあるダンジョンへの入り口。
ここにもドラゴンの情報があるとミミルは睨んでいた。家に残っていた書物を読み漁っていたら、ダンジョンは今から数百年から存在していたと記されていたのだ。
しかも、ダンジョンの入り口には、ドラゴンを模った紋章が刻まれている。これで何もないとは言わせない。必ずドラゴンについての情報がある。
「えっと、副会長。お休みのところ来てくださりありがとうございます」
ダンジョンに入る前に、ミミルは深くマイキーへと頭を下げた。今回ダンジョンに潜るということで、学校の許可を得る必要があった。
そして、条件として二年か三年の生徒を二人から三人同行するとなった。しかしながら、今は長期休み。ほとんどの生徒達は実家に帰っている。一人は、ナナエで決まっていたが、後一人か二人は必要だった。そこで、ナナエが連れて来たのがマイキーだったのだ。
「お気になさらず。これも、副会長としての責務。それに、会長命令でもありますので」
「そだぞー! マイキーくんは、あたしに逆らえないのだー!!」
「それは場合によります」
「えー……」
「ともかく。ダンジョンに入るのは良いですが、戻ってきた際には報告書を提出してもらいますので」
シルビア達は、まだ学生。
冒険者見習いなため、ダンジョンなどに挑戦した際には報告書を提出しなければならない。適当な報告、嘘は通用しない。
今回は、生徒会長に、副会長が同行するのだ。
「わかりました。……ユネちゃん」
「はい?」
さっそくダンジョンへと潜ろうとした時だった。ミミルは、ユネのことが心配で一度声をかけた。
「もう、大丈夫なの?」
「はい!! もう何があろうとユネは大丈夫です! ユネには最高の友達がついていますから!」
ミミルの肩を抱き、シルビア達に視線を向ける。それを聞いたミミルは、嬉しそうに安堵の笑顔を作る。
「うんうん。美しき友情はよきかな……」
「ねえ、早く早く! 早くダンジョンに入ろうよ!!」
「まったく、あの子はダンジョンってものをなんだと思ってるのかしら」
一人、眼を輝かせシルビア達を急かしているシャリオを見てピアナは眉を顰める。ダンジョンに入ると言ってから、シャリオのテンションがだだ上がりなのだ。
まるで遠足にでも行く子供かのように、はしゃいでいる。
「まあよいでないか。それに、ピアナも内心ではわくわくしているのではないか?」
「な、なによいきなり」
「ですよね。だって、授業以外でダンジョンに入るのはこれが始めてですもんね。ユネもわくわくしてます!!」
「えへへ、実は私も」
「むろん、我輩もだ」
流れ的に自分も言わなくちゃならないの!? とピアナは一瞬悩み。
「わ、私も楽しみよ!!」
叫んだ。そんなやり取りもほどほどに、シルビア達はダンジョンへと潜入していく。学校の地下にあったのは、ダンジョンへと転移する転移陣。
しかし、本来のダンジョンは入り口から入るもの。そこから地下へと下りていき、様々な罠を、魔物との戦いを突破し、最深部へと辿り着く。
授業では、途中で帰還していたが、今回はドラゴンの情報を得るまで探すつもりでいる。そのため最深部まで下りることも考慮している。
「さすがに、入ってすぐ見つかるってことはないわよね?」
ランタンで辺りを照らしながら、一本道の壁を探す。まだ入り口付近のため何もないはずだが……それでも何かないかと探してしまう。
「あっ!」
「なにかあったの!?」
シャリオが何かを発見したのか、その場にしゃがみこんでいた。
「見て! うさぎさんみたいな形をした石だよ!!」
「おー、これは確かにうさぎに似ているな」
「わー、すごいもの発見したねぇ、シャリオちゃん」
「……そうね」
さすがに、入り口付近には何もなかった。見つけたといえば、うさぎの形をした石ひとつだけだった。




