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第十話「もう絶対」

久しぶりに二話投稿。

「ミミル。ここにはあまり来るなと言ったはずよ」

「だって、シュガリエ。ここでずーっと一人で居るなんて見過ごせないよ」

「いいのよ、ミミル。わたくしはもう何千年も一人で過ごしているのだから」

「それでも、ドラゴンの巫女として見過ごせないよ。ほら! お友達を連れてきたんだよ!」


 誰でも、あの巨大な存在に臆するはずだろう。しかし、ミミルは一切臆する様子もなく会話をしている。後ろでずっと見ていたユネは、ミミルに引かれ白龍の前に立つ。


「あなたは」

「……ユネ、です」


 視線を合わせることなく名前だけを告げるユネ。おそらく気づかれている。自分がかつて戦った滅龍オーフィンの転生体だと。

 ドラゴンの巫女たるミミルも気づいたのだ。

 同じドラゴンであり、友だったシュガリエが気づかないはずがない。


「そう。よろしくね、ユネ」

「は、はい」


 しかし、シュガリエは何も言わなかった。気づいていない? ……いや、そんなはずはない。絶対気づいている。気づいているうえで、何も言わない。

 もうあの戦いは終わった。

 もうあんなことは起こらない。オーフィンは、友によって命を奪われ、安らかに死した。それはやったシュガリエがよく理解しているはずだ。

 だからこそ、今はオーフィンとしてではなく、ユネという一人の少女として接している。


「あのね、シュガリエ。ユネちゃんは」

「わかっているわ。彼女からドラゴンの力を感じるから、わたくしの同胞だと思ったのね」


 やはり気づいている。

 ミミルはまだドラゴンの力が宿っているのだと思っているようだが、シュガリエは違うようだ。じっとユネを見詰めた後、天を仰ぐ。


「時々なら、ここに来てもいいわ。もちろん、二人一緒にね」

「うん! よかったね? ユネちゃん」

「……はい」


 そう言ってもらえるのは嬉しい。だが、ユネは心配だった。シュガリエと出会ったことで、オーフィンとしての力が突然覚醒しないかと。

 ユネが村人達から避けるようになったのは、それが原因だ。


 自分は普通の人間じゃない。この世を滅ぼそうとしたドラゴンの転生した姿。それゆえに、ドラゴンの力が眠っているとはいえその身にある。

 もう感覚で理解している。

 ドラゴンの力は……オーフィンの力はどのドラゴンの力よりも危険だ。ちょっとした力でも、村人達を消滅させてしまうほどに。


 だからこそ、本当は村から出て行くつもりだった。

 人がいない辺境にでも行くつもりだった。

 だけど、それができなかった。

 それはユネの心の弱さ。人間として、人の温もりが欲しかった。だからこそ、離れようとしても離れられなかった。


 いつか力が覚醒したら皆の命を奪ってしまうかもしれないのに。

 ミミルの時だってそうだ。

 しつこく付き纏われても、鬱陶しくは思わなかった。こんな自分のことを気にかけてくれて、本当は嬉しかった。

 友達と言ってくれて、泣きそうになった。


 ……だからこそ、悔いた。

 自分は本当に弱い存在だと。


 あれから何度もミミルと一緒にシュガリエのところへ赴いた。シュガリエは一切二人とは遊ばず、ただただ見守っているだけ。

 それでも、シュガリエに見守られていると不思議と安堵感があった。

 ユネもミミルと遊んでいるうちに、少しだが笑顔を取り戻してきた。

 そんな楽しい日々が……崩壊した。


「ああっ……ぐっあぁ……!!」

「ユネちゃん! ユネちゃん!!」

 

 ついにオーフィンの力が目覚めた。

 それもシュガリエの住処で。

 予想より早い。もっと先になるとユネは思っていた。それは転生体であるユネだからこそ、わかっていたこと。

 

(やっぱり……シュガリエのところに居るのが……原因……!)


 こんなにも早く覚醒したのは、おそらくシュガリエが影響している。同じドラゴンの力が干渉し合い、覚醒を早めてしまったのだろう。

 

「ユネちゃん!!」

「こ、ないで、ください……! もう、ユネは……力が……!」


 ユネを心配して駆け寄ろうとするミミルだったが、力の波動で吹き飛ばされてしまう。

 抑えられない。 

 これ以上はもう……。


「アアアアアアアアアアアッ!!!」


 ついに爆発した。

 ユネの内にあるオーフィンの力が表に出てしまった。


「そ、そんな……ユネ、ちゃん?」


 ミミルは自分の目を疑った。

 そこに居るのは、ユネであってユネではない存在。腕や足は鱗で覆われ、背中には翼、腰には尻尾。まるで、龍人。

 龍の特徴を持った人。亜人の中では、リザードマンがそう言われているが、ユネは違う。まるで、人間からドラゴンへと昇華しようとしているかのような。

 その途中の姿のように見える。


「暴走、したようね。ミミル、逃げなさい」

「で、でも!」

「今のあなたでは何もできない。ただ死にに行くようなもの」


 悠長に話している暇はない。

 暴走したユネが、跳びかかってきた。

 しかし、シュガリエの守護結界により弾かれる。


「ユネちゃん! お願い!! 目を覚まして!! ユネちゃん!!!」


 何度も何度も結界が壊れるまで、跳びかかってくる。

 そんなユネにミミルは呼びかけ続ける。

 聞こえるまで、何度も何度も……。


「ミミル、無駄よ。彼女はもうあなたの知っているユネではないの。オーフィンの力は強大。今のあなたでは彼の力を抑えることはできない」

「なにもできない……?」


 そんなことはない。自分はドラゴンの巫女。

 ドラゴンと心を通わせ、対話ができる力を持っている。なら、その力を今ここで。

 

「結界が破られるわ。さあ、早く」

「いや……絶対いやだ!!」

「ミミル!?」


 結界が破られたと同時に、ミミルは飛び出す。まだ完全に覚醒していないとはいえ、今のミミルが近づけばそれだけでその身が危ない。

 それが破滅の力。

 

「来ないで、シュガリエ!!!」


 動こうとしたシュガリエだったが、ミミルの聞いた事の無い大声に静止させえられる。


「ユネちゃん。聞こえる?」

「グアア……アァア……」


 ユネから放出されるオーフィンの力がミミルを襲う。しかし、弾かれた。巫女としての力で、ドラゴンの力を受け流しているのだ。


「ミミル……あなた……」


 まだ未熟だと思っていたシュガリエは、ミミルの底知れぬ力に驚きつつも、自然と彼女ならやれるかもしれないと見守っていた。


「大丈夫だよ、ユネちゃん。落ち着いて……私が、その力を抑えるから」


 完全に力を受け流せているわけではないため、ミミルの肌は弾ける。

 腕、足、腹、頬と次々に弾け、大量の血が流れていく。

 だが、それでもミミルは止まらなかった。


「み……みみ……る……!」

「そうだよ。ユネちゃん……お願い、だから……ね?」


 両腕を大きく広げ、優しく微笑む。

 巫女の力を発動させながらミミルは、暴走したユネを抱きしめた。今自分にある全ての巫女としての力で力を抑えようとしている。

 

「ガアアアッ!!」

「あぐっ……!?」


 抵抗せんと、ユネはその鋭き牙でミミルの肩へと噛み付く。

 もうどれほどの血を流したか。

 ミミルの顔色から、もう生命の危機だということは明白。それでも、ミミルはユネから離れなかった。シュガリエも、ただただ傍観している。


「ユネちゃん……ごめんね……私がもっと力のことを考えていたらこんなことには……」


 噛み付かれつつも、巫女の力でオーフィンの力を抑えていく。

 すると、ユネの体が徐々に戻っていく。

 鱗が消え、尻尾も翼もなくなっていき、力の波動が収まっていく。


「ミミ、ル?」


 ようやく意識がはっきりしたユネは、ミミルの肩から口を離す。


「えへへ……よかった……」

「ミミル!?」


 ユネが元に戻ったのを見届けたミミルは、緊張の糸が切れたかのように倒れる。

 素早く受け止めたユネだったが、絶望しかない。

 皮膚は剥がれ、大量の血を流し、呼吸も浅い。

 誰が見ても、命が尽きようとしているのは明白だ。


「なんで……こんな……」


 わかっている。これは自分がやったんだ。力が暴走して、それをミミルが命かけで救い出してくれた。

 自分もミミルを助けたい。

 しかし、何ができる? 自分の力は破滅を齎すもの。

 何もできない。

 ただただ自分を救ってくれた友達が命尽きるところを……見ているだけ。

 無力……あまりにも無力。こんなことになるなら、友達になど。


「諦めてはだめよ。ミミルの命は、わたくしが救うわ」

「え? なにを」


 絶望している中、シュガリエが光の球体を出現させる。それを、命尽きる寸前だったミミルの身へと落とす。

 すると、剥がれた皮膚が元通りになり、ミミルの顔色がよくなっていく。


「わたくしの力をミミルに授けたわ」

「さ、授けたって。そんなことしたら、シュガリエが」

「ええ。このままだとわたくしという存在は消えるでしょう。でも、これでいいのよ。……ユネ」

「な、なんですか?」


 シュガリエの体が薄くなっている。もう消えようとしているのだ。


「今はミミルの力でオーフィンの力は抑えられている。けど、いずれまた暴走する時がくるわ。だからこそ、わたくしはそれを抑えるためにあなたの傍に居ようと思ったの。また……友を失うのはいやだから」

「シュガリエ……」

「ユネ。強くなりなさい。オーフィンの力を制御できるぐらいまで」

「……うん……うん……わかって、ます……もう、ユネは必ず強くなります! オーフィンの力を制御できるように、大事な友達をもう傷つけないために!」


 決意の言葉を聞いたシュガリエは消える直前に、ユネへと刻印を刻み込んだ。


「それは、封印の術式。それで、もっと長くオーフィンの力を封じることができるはずよ。ごめんなさい、ミミル。そして……楽しかったわ。あなた達と過ごした日々。わたくしの大事な」


 そして、シュガリエは消えた。

 四散した光の粒子は、ミミルの体へと吸い込まれていく。これで、ミミルとシュガリエは本当の意味で一体となったのだ。

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