第九話「転生」
「ドラゴンの力? それって、あなたにもミミルと同じくドラゴンが宿ってるってこと?」
ユネの過去を聞いたピアナが、そう問いかけると静かに首を横に振った。
「二人も見ましたよね? あの石碑から流れ込んできた過去の光景を」
「ああ。ドラゴン同士が戦っていたな」
今思い出しても、あんなことが現実で起きていたなど、シルビア達には想像もつかない。
ドラゴン一体でも強大な力を持っているというのに、あれだけの数が戦っていたと想像しただけで、ぞっとするものがある。
「白龍シュガリエ、黒龍ブラゴラス……そして、その二体と戦っていたドラゴンの名前は滅龍オーフィン」
「滅龍? なんだかいかにもやばそうなドラゴンね」
「そうですね……オーフィンは、その名の通り破滅を齎すドラゴン。弱い生物ならその身に触れただけで身を滅ぼすんです」
「あなた、なんでそんなことを」
ドラゴンの情報はあまり書物に記されていない。
邪龍ベロリアナードがその一体だ。
強大な力を持ち、住処もほとんど不明。近づけば、確実に命を落とすと言われている。そのためドラゴンについての情報はほとんど個体数が多いものばかり。
こんなドラゴンが居る! などと想像のドラゴンも存在するのだ。だからこそ、二人も全然知らないドラゴンのことに詳しいユネに驚くのは無理はない。
それはまるで、実際に見ていたかのような。
「まさか、ユネ。君は」
そこで、シルビアは察した。
ミミルが感じたドラゴンの力。それは、身に宿しているのではないと。
「……さすが、シルビアですね。そう、ユネはドラゴンを宿しているんじゃないんです。ユネ自身が……ドラゴンなんです」
「それって、人に変身してるってこと?」
「少し違います」
心の内に溜めていたものを少し吐いたからなのか。最初よりも表情が和らいだユネが、近くの木の傍に座り込み、夜空に輝く月を見上げる。
「オーフィンは、何者かに操られ力が暴走しました。普段は大人しいドラゴンだったんですよ? 滅龍って言われているのに」
くすっと一度笑い、ユネはそのまま語り続けた。
「歯止めが利かなくなったオーフィンは本能のままに破壊の限りを尽くしました。まだ若いドラゴン達も強い破滅の力に触れただけで簡単に命を落としました……それを止めたのが、一番仲がよく、付き合いが長い二体のドラゴン。シュガリエとブラゴラスでした」
「あの光景にあったことであるか」
「はい。オーフィンの背後に光の球体がありましたよね? あれがオーフィンを操っていた元凶。何者かはわかりませんが、オーフィンを操るほどの強大な力を持っている敵ってだけでも恐ろしい存在です」
「それで……オーフィンは」
聞き難そうにピアナが言うと、ユネは身を抱きながら答えた。
「死にました。オーフィン自身もそれを望んでいたので、よかったんです。最高の友、二体に殺されるならば本望だって。……だけど、オーフィンは蘇った。いいえ、正確には転生した、というのが正しいですかね」
「それが、ユネ、ということか」
転生。
その言葉に、シルビアは親近感を覚えるが、自分とは何かが違うと感じた。自分の場合は、人から人だった。性別は違うとはいえ、あまり違和感のない転生だ。しかも、女神ディアナの力により決められた転生だった。
ただユネの場合は、ディアナの力などではない。
それはディアナを知り、その力により転生したシルビアだからこそ感じ取れるものだ。
彼女は、もっと別の力で転生した。
それもドラゴンから人へと。
・・・・・★
「ユネちゃん!」
「ミミルですか」
あの日以来、ユネは少しずつだがミミルと仲良くなっていた。以前のユネならば、ミミルが話しかけても完全に無視をしていたところ、今では会話量は少ないが挨拶や返事をするぐらいには距離が縮まっている。
今日は、ミミルがユネのことを特別なところへと連れて行ってくれるという。
いったいどこなのかは、秘密だそうだ。
どうやら森の中にあるようなので、ユネはあまり期待していなかった。なぜなら、この辺りの森は全て知っているからである。
そのため、どんなところに行くのか色々と想像ついてしまう。
珍しく先頭を鼻歌混じり歩くミミル。
一歩一歩が遅い。
正直、彼女に合わせて歩くのは慣れないユネ。行くところだけを教えてくれれば、ミミルを抱えてもっと早く到着できる自信がある。
が、ミミルは頑なに自分が案内すると聞かなかった。
(この先は、確かドラゴンの谷があったはず……なるほど、ドラゴンの巫女らしい場所ですね)
確かに、ドラゴンと心通わせることができるという巫女にとっては特別な場所だ。
が、ユネにとってはどうでもいいところ。
いやむしろあまり行きたくない場所だ。
「ここだよ!」
「ええ、知ってましたよ。ドラゴンが居るって言われてる谷ですよね」
「えへへ。やっぱり知ってたんだね」
「当然です」
ミミルもユネが知っているうえで連れて来たようだ。まったく、何が特別な場所ですかと呆れた様子でその場から去ろうとするユネだったが、ミミルに手を掴まれる。
「なんですか?」
「でもね。本当の特別な場所はここからなんだよ」
「どういう、意味ですか?」
「それはね」
と、なぜか崖のギリギリの場所に立たされる。
ここから何かが見えるということなのだろうか? まったくわからなかったユネだったが。
「―――え?」
気づけば、谷へと落ちていた。
どうやら、ミミルがユネを道連れにしたようだ。
「ななななにをやっているんですか!?」
「大丈夫だよ!」
この状況で大丈夫と言えるその根拠はなんなのか。珍しく取り乱しているユネに対して、ミミルはまったく動揺している様子がない。
引っ込み思案で泣き虫だと思っていたが、意外に度胸があるのか? 一度、村から遠く離れ魔物と戦ったことがあるユネでさえ、こんなにも動揺しているというのにも関わらず。
「お友達を連れてきたよ!!」
「誰に言っているんですか!?」
突然誰かに呼びかけるミミル。
「もちろん……シュガリエだよ」
「え?」
その名を聞いた瞬間、二人は何かに入り込んだ。そして、気づいた時には……一面の花が広がる不思議な空間に立っていた。
奥には、遠くからでもわかるほどの巨体の生物。
真っ白な体が特徴なそいつを……ユネは知っている。いや、ユネの転生前の生物が知っている。
「白龍シュガリエ……」




