第七話「ユネは語る」
その日は休みとなった。
ユネの体調と自分達が見た映像を考えてのことだ。
「ミミルもか」
「ええ。地下室では無理してたみたいね。……こっちは私達が見てるからあっちのほう頼めるかしら?」
とピアナが指差す方向。
そこには屋根の上に座ったまま青空を見上げているユネの姿があった。地下室から出てきてからずっ上の空。ミミルも地下室では平気な顔をしていたが、家に戻った瞬間、糸が切れたかのように膝を突いてしまった。どうやらユネのために無茶をしていたようだ。
今はベッドに横になってマリアが付き添っている。ピアナもユネのことは心配だが、ミミルのことも心配だ。なによりもあんなユネを見るのは初めてなピアナはなんて声をかけたらいいのか思いつかない。だからこそ、ミミルの次に仲のいいシルビアに頼んでいるのだ。
シャリオとナナエは、ソーナの手伝いをしている。家の横には畑があり、昼食の食材をとっているところだった。
家の窓から見えるのは、元気いっぱいに畑から野菜を引っこ抜くシャリオの姿。それをナナエとソーナが微笑ましそうに見詰めている。
「わかった。では、ミミルは任せたのである」
「ええ。そっちもユネのことお願いね」
「任された」
一人家から出たシルビアは、他人の屋根の上に座っているユネのところまで軽く跳ねる。
「シルビア?」
「どうしたのであるか? まだ体調が優れないか?」
「い、いえ。体調のほうはもうすっかりよくなりました。ただあの映像を見てから……」
そこで言葉は止まる。
言いたい。けど、言えない。言ったら、何かが変わってしまう。そんな表情をしているようにシルビアは見えた。
そんな口篭っているユネへとシルビアは静かに語り出した。
「正直、我輩にはユネに何があったのか。ユネが何を隠しているのかはわからない。だが……一人で抱え込むな。一人で全てを背負えば、その重圧に耐えられずやがて押し潰されてしまう。だから、我輩に。いや、我輩達を頼って欲しい。我輩達は同じ冒険者を目指す友達であろう?」
「……なんだか、シルビアが時々別の誰かに見える時があります」
「え!?」
ユネの何気ない言葉にシルビアは動揺してしまう。ばれてはいないだろうが、何かを感じているからこその言葉だ。
そんな動揺しているシルビアを見てユネはくすっと口元に笑みを浮かべる。
「冗談ですよ。でも、シルビアの言葉には力があります。不思議と勇気付けられる……ほら! さっきまで元気がなかったユネもこの通り!!」
勢いよく立ち上がり声を上げるユネ。通り掛った村人達は、今日も元気だな! と声をかけてきた。
「元気になってくれたのなら、よかった」
「はい! さあ! 今度はミミルを元気付ける番です!! ミミルー!!」
「うわ!? な、なにあなた!? なんか無駄に元気ね!」
「いやー、やっぱり静かにしてるのはユネらしくなかったようで。深く! ふかーく! 反省しました!!」
いつもの調子で元気に駆け抜け、ミミルが眠るところへと突撃していく。家の中からは、無駄に元気な声が響き渡っている。
ピアナもいつもの調子で会話をしている。
(……空元気、でなければいいが)
確かにユネは元気になった。
しかし、それが無理な元気アピールではないかとシルビアは心配している。
……それからは、ユネは本当に無駄に元気だった。
いつものトレーニングの時も、食事をする時も、食器を落としてしまった時も。つい転んでしまった時も。
そして、シルビア達は理解した。ユネは、やっぱり無理に元気な姿を見せていたと。
「……えっと」
もう見てられないと思ったシルビアとピアナはユネを誰もいない森の中に呼び出した。一人だけ呼び出されたことにユネは何かを察したか、二人へ視線を合わせない。
心配を通り越してもはや怒っているピアナは、腕組みをしたまま口を開ける。
「なんで呼び出されたのか、わかってるわよね?」
「は、はい……」
「正直、普段のあなただったらちょっとうるさいだけで、私は普通に楽しんでいたわ。だけど、今のあなたはただただ見ていてイラッとするのよ。無理に元気な姿を演じていて……見てられないわ」
「……」
ピアナははっきりと言う。ユネを傷つけてしまうかもしれないが、もう見ていられない。これ以上ユネらしくない姿を見るよりだったら、傷つけてでもユネの空元気の理由を知りたい。
知ったうえで、ちゃんと話し合う。
そうしなければ、ユネはこのまま重圧に押し潰されてしまう。そんなのは、友達として見過ごせない。
「ユネ。やはり、我輩達では力不足であろうか? 君の心の傷を受け止めるには」
ユネと出会って数ヶ月。
ミミルよりは付き合いは短く、ユネの過去を知らない。友達と言っても、同じ冒険者を目指すだけの学友なのだろうか?
彼女にとってはお節介だと思われているのではないだろうか?
「そんな……ことはありません。皆は悪くないんです……ただユネが……ユネ自身が弱いから……!」
月明かりに照らされながら、ユネは大粒の涙を流していた。服をぎゅうっと握り締め、ずっと心の底に仕舞っていたものを吐き出すように、ユネは語り出す。
「昔のユネは、本当に弱虫でした。本当に誰かと付き合うのが苦手でした。ずっと……ずっと一人でしたから……」
「どういう、意味?」
これまで見たことのないユネの姿を見てピアナは静かに問いかける。シルビア達が知っている限りでは、ユネにはあんなにも元気がよく仲がいい家族が居た。
ミミルという幼馴染が居た。
村人との付き合いも良好のようだった。それなのにどうして一人だったと……。
「……ユネは、この捨て子だったんです。グオット村の近くの森。そう、丁度今ユネ達が話しているこの森でお父さんが見つけたそうなんです」
「捨て子……」
「はい。だから、本当のお父さんやお母さんの顔は知りません」
ということは、ダダッカの重度な愛情はそれが理由だったのか?
「でも良いんです。今はあの二人が親だって思ってますから。……でも、昔のユネは二人と接するのも避けていました。自分はこの村の人間じゃない。二人とも本当の家族じゃない。自分には……他の人とは違う力があるって。子供ながら色々と気づいて、回りと距離を取っていたんです」
ユネは少し落ち着きを取り戻した様子で、自分の過去を語り出した。




