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第九話「子供っぽい?」

 さまざまな授業を受け、午前の部は終了した。生徒達は、空腹を満たすために挙って食堂へと足を進めていた。中には、自分で弁当を作って友達と中庭や教室などで食べている生徒も居るが、基本は食堂だ。

 シルビアも、弁当は作っていないため食堂で空腹を満たすことにしている。


 授業が終わり早々とやってきたはずだが……見渡す限りの生徒の数。

 座れる場所があるだろうかと不安になりつつも中へと入っていく。


「最速で来たつもりでしたが、さすが先輩方ですね」

「我輩達もこれからは精進せねばな」

「しょ、精進って……別に勝負じゃないと思うんだけど」


 二人の言い分に首を傾げるミミルだったが、そうとも言い切れない。

 食堂とは、生徒から教師までボルトリン全ての人々が集まる場所。

 しかも、座れる席には限りがある。

 もし席が開いていなければ、座ってゆっくり食べることができない。


 より多くの者に食事をと食堂側も外にもテーブルを並べているが、それでも足りない時がある。

 冒険者として、必要不可欠な簡単な調理ならば習えば誰でもできるだろう。

 ただそれでも、弁当を作ってくる時間があるならば少しでも強く成り立ちという生徒達が多いうえに、弁当を作るとなると材料費などは当然自腹だ。

 だが、食堂ともなれば金はかかるにしろ手間隙がかからない。


「何を食べるか……」


 真剣に悩みながら、料理名が書かれたメニューを見詰めるシルビア。


「し、シルビア」


 すると、珍しく震えた声でユネがシルビアを呼ぶ。いったいなんだと視線を斜め左に向けると……そこにはフライパンを持った不思議な生物が居た。


「く、熊さん?」

「おー、寮長殿ではないか。まさか、食堂で出会うとは」

「知り合いなのですか? シルビア」

「うむ。我輩が宿泊している寮の管理をしてくれている者である。心配するな。彼の料理の腕は、相当なものである。それにしても、寮長殿。なにゆえ食堂に?」


 問いかけてみたが、食堂でしかもフライパンを持ってキッチンに居るとなれば。


「俺の仕事は、朝お前達の朝食を作り、出て行った後に部屋の掃除。その後、ここへ来て昼食作りの手伝い。それが終わればしばらくの休憩の後、夕食の準備だ。もし食材がなければ街にも行く」

「ほう。なかなか忙しい一日であるな」

「なに。やりがいのある仕事だ。俺は、この生活に満足している。それよりも、早く選びな。後がつかえているからな」


 そういえばそうだったと、後ろからの気配にいそいそと料理を注文する。

 そして、出来上がった料理を持ってなんとか見つけた席に三人仲良く座る。


「な、中々渋い声の熊さんでしたね」

「名前はゴンという。我輩も最初は驚いたが、いざ話をすると見た目など気にならないのである」

「そう、なのかな? でも、なんだかすごくもふもふな感じで……」


 なにやらうずうずした様子で、ゴンを見詰めるミミル。

 予想はついている。

 確かにゴンの見た目から大きなぬいぐるみ、いや着ぐるみと思ってしまうだろう。

 実際、シルビアもどんなものかとゴンに許可を得て触ってみたが……中々のものだったと今思い出しただけでも笑みが零れる。


「ところで……ふふ」

「どうしたのであるか? いきなり笑い出して」


 さすがのシルビアも意味がわからないと、注文した料理を口にしながら首を傾げる。


「いえ。最初に出会った時からあなたはどこか別の世界に居るような。小さいのに大人びているというか」


 間違ってはいない考えだ。実際、シルビアは実年齢は百を超えている。

 転生者ということは、シルビア自身と女神ディアナだけしか知らない。

 口調などを直せば、普通の女の子と認識されていたかもしれないが……。


「うん、それは私も思ってた。私達とあまり歳が変わらないのに、飛び抜けて大人びている感じがして」

「でも、教室での自己紹介と今の姿を見てちょっと安心しました」

「安心?」

「はい。こうしてオムライスを食べている姿を見ていると普通の子供みたいで」


 シルビアが注文した料理はオムライス。ふわっと仕上げられた卵に包まれた小さな肉と野菜が混ざった赤い米。

 自宅でも何度か食べたことがあるが、ここのオムライスはかなりのもの。

 個人的には固焼きよりは少しふわっと卵を仕上げたほうが好みなシルビアにはぴったりなオムライスだ。


 そのため自然とスプーンがすいすいと進んでいく。

 おいしそうに食べる姿は、試験官を一撃で倒し、授業で他の生徒達を圧倒した少女とは思えないほど可愛らしい姿である。


「ふむ。我輩は見ての通り、子供であるが」

「確かにお前さんは、年齢や見た目だけならこの場に居る誰よりも子供だな」

「あっ、タダイチ先生」

「おっす」


 話に割り込んできたのは、冒険者の基礎知識を教えるタダイチだった。

 機械の手で青い布に包まれた弁当箱を持ち、シルビアの隣に座る。


「先生はお弁当なんですね」

「まあな。仲間に料理好きな奴が居てな。そいつにしつこく教えられた結果、自然と作っちまうほどになったんだよ。めんどくせぇって思ってるのにな」


 それが慣れというものなのだろう。

 慣れてしまえば、習慣となってしまえば、めんどくさいと思っていてもいつの間にかやってしまっている。

 体に染み付いたものは簡単にはなくならないということだろう。


「ちなみに、オムライス以外に好きな食べ物を言ってみろ、シルビア」

「オムライス以外に……ハンバーグにスパゲティである」

「はっはっはっは! こりゃあ、ますます子供っぽいな!」

「そうであるか? ハンバーグやスパゲティは年齢など関係なく好きな者は多いと思いますが」


 特に好きなものを上げただけなのだが、どうして子供っぽいと言われるのか。シルビアはあまり理解していない様子。

 ボルトバだった時であれば、トカゲの丸焼きや鹿肉と山菜のスープと答えていただろう。

 が、シルビアとして生を受けてから、未知の料理の数々を食べてきたことで好みの順位が変わったのだ。


「まあな。おっ、そうだ。ほれこいつをやるよ。口を開けてみろ」


 なんだろうと警戒しつつも、スプーンを一度置いて口を開く。

 すると。


「ほいっと」

「はむ……おぉ、マシュマロであるかぁ」


 口の中に食べ物を突っ込まれたが、それがマシュマロだとわかり顔が緩む。

 

「か、可愛い……!」

「くっ! これが最近流行りのギャップ萌えというやつですか……! 中々の破壊力です……」

「ど、どうしたのであるか? 二人とも」


 突然顔を伏せて震える二人に、さすがのシルビアも首を傾げてしまう。

 そして、タダイチはまた楽しそうにくっくっくっと笑っていた。

 いったいどうなっているのか。

 今のシルビアにはとてもじゃないが、理解できそうになかった。


「さあ、お前達。早く食べちまわないと、料理が冷めるぞ。昼休みも有限だしな。もたもたしてると、時間がなくなっちまうぜ?」


 未だに若干笑みを浮かべるタダイチの言葉に、ハッと我に帰ったユネとミミルはフォークにスプーンを手にする。

 

(……我輩がおかしかったのであろうか?)


 オムライスを食べつつも、先ほど二人をあれだけ反応させたものが自分にあるということに、まだぴんとこないと悩むシルビアだった。

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