代理戦争 ~はた迷惑な神々に巻き込まれて数百年~
綺麗な星空の下、高い塔の上で煙草を吸いながらかつての仲間を思いだす。
昔は楽しかったな。
相棒と二人で世界中を飛び回り仕事をしていた。
その殺伐としながらも楽しかった生活が破壊されたのは、とある神の、いや、神々のせいだ。
神々は数千数万年続く戦争に飽き、手っ取り早く決着を付ける方法を考えた。
それが俺たちを巻き込んだ戦争。
所詮代理戦争だった。
神々は自分の管理している世界で特殊な力を十人に与えた。
その十人は神の道具にされたのだ。
私もその一人だ。
私の力は、『年を取るのが遅くなる』と『どんなことでもエネルギーに変換する』だった。
私が産まれてから約三百年たった頃にすべての神の兵士が揃ったので代理戦争が始まった。
代理戦争は地球ではなく神々が新たに作った北海道とほとんど同じ面積の星だった。
代理戦争には五十個の世界から、一人から十人のものたちが参加していた。
バトルロワイヤル方式で全選手が一斉に争い始める。
勝てたらどうなるのかは分からなかったが負けたら死ぬのは火を見るよりも明らか。
最初は私も戦った。だが、私の力では越えられない者達がいたのだ。
私のような力ではなく戦闘特化の能力。
そこで私は戦うのをやめた。
だだ、黙ってやられる気にはならなかった私は戦わずして勝つことにし、作戦を考えた。
答えはすぐに出た。
ただ逃げれば良い、ただ隠れていれば良いだけなのだ。
私は年を取るのが異常に遅く、寝ているだけでも生命維持に必要なエネルギーを補給することができる。
作戦が決まってからは早かった。
見つかりにくい拠点を構えてただ静かに過ごしていた。
それから数百年経ちやっと戦争は終わりを告げた。
「やっと終わったぞ、相棒」
今は亡き相棒に語りかける。この馬鹿げた戦争が始まるまでずっと私を支えてくれた相棒を思うと忘れていたはずの感情が沸き上がってくるようだ。
「ははっ!感情なんかとうに無くなったと思っていたんですがね」
誰もいない、瓦礫だらけの世界で私を最後まで殺そうとしていた者の亡骸を見る。
「ホントに長かったですね。お疲れ様でした」
例え敵であっても、巻き込まれて無理矢理戦わせられてたのは変わらない。
同じ神々の被害者として同情してしまう。
道具がないので埋葬してやることすらしてやれないがせめて安らかに眠れるように祈る。
「さて」
私は移動を開始する。
行き先はこの世界に唯一無傷の建物。
選手が一番最初に送られた場所だ。
歩き続けてかなりの時間がたった。
朝や夜の概念がないこの世界では正確にどれぐらいの時間がたったのか分からないが、体感的には一週間といったところか。
高い高い塔が見える。その下に立っているこうなった元凶も。
「お疲れ様でしたね。貴方のおかげで私は勝利しました。ありがとうございます」
美しくふわふわしている金色の髪
一切くすみのない真っ白な肌
豊かすぎるバストに、キュッとしまったウエスト
ついこの間まで戦場だったこの場所にはあまりにも似つかわしくない格好で出迎えてくるのは私をこの戦争に参加させた地球の神だ。
「これで終わりなのでしょうか?」
「はい。すべては終わりました。あなたは勝利したのです」
若い頃なら一目惚れしてしまいそうな美しすぎる笑顔を浮かべる女神。
「それは良かったです。……それで、私はこれからどうなるのでしょうか?」
戦争の道具としてこの世界に送られてから数百年たった今、もとの世界に戻ったとしても過ごしづらいだろう。
「そうですねー……あなたはどうしたいですか?
あなたは私の駒として十分に働いてくださいました。
新最高神としてあなたにご褒美を与えましょう。
さぁ!なんでも望みを言いなさい!どのような願いでも叶えて差し上げましょう!」
「ずいぶん豪華な報酬ですね」
「それほどのことをあなたは達成した。と言うことですよ」
「なら望みは一つです」
既に頼みたいことは決まっていた。
数百年戦っていたのだ。これ以上こんな殺伐とした世界にいたくはない。
「不自由なくゆっくり出来る環境がほしいです。可能なら相棒と一緒に」
私の望みはそれだけだった。
「ふふふ、いいですよ。その望み叶えて差し上げます。あなたなら特に困ることもないでしょう」
女神の言ってることはよく分からなかったが要らないことを言って望みが叶わなくなるのはごめんなので黙って流れに任せる。
「あなたにこれから行ってもらうのは『スティーレ』
あなたには何個かのスキルを与えておきましたので不自由なことはないと思います。
姿はそのままですが問題ないでしょう。
相棒さんも一緒の世界にいるので探してくださいね」
ちょっと望みと違うが仕方ない。この女神を信じてみよう。最悪自力で何とかすれば問題ない。
「私と話したいときには協会に来てくださいね♪
では、行ってらっしゃい!!」
その言葉と同時に足元に大きな魔方陣が出現し凄まじい光を放ち司会がなくなる。
フワッと一瞬だけ浮遊感を感じた後少しずつ視界が戻ると同時に自分が落下しているのだと気がついた。
「なっ!?」
一瞬だけ驚いてしまったがすぐに体制を整えて下が海であることを確認する。なるべく速度を落とすように風の抵抗を受けながら落下してなんとか無事着水。
長い距離を泳ぎ陸に上がる。
「これはまた…ずいぶんベタなところですね」
目の前に広がるザッファンタジーの世界を眺めながらこれからどうしようかを考え、実行する。
「なるようにしかなりませんか。
さて、第三の人生といきましょうかね!」
不自由なことはないと言っていた女神に僅かな疑念を抱きながらこの世界を謳歌するための一歩を踏み出した。