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Chapter of Begine  作者: Tkayuki 冬至
始動
7/71

「では、失礼しました」


人族の女性使用人は退出した。

取り残されたその部屋は静寂に包まれる。

一人の男性、ヲーリアスは豪華そうな椅子にもたれ掛かる。


「ふぅ…」


一息入れると突如部屋の窓が開かれ、そこには一人の女性がヲーリアスに向かって微笑んでいた。その女性は見た目は人族で年齢は20歳位だろう。


「大変そうね?」


女性はヲーリアスに労いの言葉をかけながら豪華なソファーに深々と腰をかけ、寛いだ。


「いつの間にいらっしゃったのですか?」


ヲーリアスは別段驚きもせず、親しい口調である。


「ん?あのメイドが出ていった後に入ったのよ?窓から。」

「はぁ…、次からは玄関から入ってほしいものです」


呆れた口調で肩を落とす。


「あら、ごめんなさい?今度からそうするわ。あ、この御菓子貰うけどいい?」

「構いませんよ。ところで貴方様は何しにここへ?」

「ひふあへぇ、いほんはぁほほらろへふあふあひへひゃんたけひょね、ふぁんたのほとみふぅけてにゃひぃしへぇるふぁひになっへね…」


女性は菓子を頬張りながら喋っているのだが全く何言っているかわからない。ヲーリアスは無意識に眉間をつまむ。


「…うん。食べ終わってからでいいのでもう一度説明してもらっていいですかね?」


女性は菓子を頬張りながら頷く。


「…ふぅ」


どうやら食べ終えたようだ。


「さて…、」

「ふぇ?」


驚くことに女性は再び残っている菓子袋を破き、口に含んでいた。


「…あのー、説明は?」

「ふぁへへはらっへいっふぁひゃにゃひほ?」


先程と同じ様に菓子を頬張りながら話したが、今回は理解ができた。「食べてからって言ったんじゃないの?」と言ったのだろう。

本当であればさっき口に含んでいた菓子を食べてから説明してほしかったのだか、どうやら女性の方はテーブルの上にある菓子を全て食べ終えてから説明するという意味で捉えたのだろう。

言葉というものは難しいものだ。

ヲーリアスは菓子を頬張る女性を見ながら心底そう感じたのだった。


「ごちそうさま、美味しかったわ。で、話って何だっけ?」

「こちらに何しに来たのかと」


そこまで言うと女性はポンッと手を叩く。


「あー、そうね。簡単に言っちゃえば、暇潰し、かな?」


なるほど、とヲーリアスは頷く。


「そうですか。てっきり私達の計画を邪魔しに来たのかと思いましたよ」

「計画?へぇ…面白そうね。私も混ぜてくれないかしら?いえ、協力したあげる、と言った方が正しいわね?」


女性の微笑みは不気味にも歪んでいた。

ヲーリアスは曇った表情を見せ、頭部から嫌な汗が一筋流れる。


「申し訳ないのですが、それはお断りさせてもらいます…」

「あら?何故かしら、理由が聞きたいわ」

「…。」

「何故黙ってしまうの?アンタが私の厚意を無下にする理由が聞きたいんだけど?もしかして理由なんて無いのかしら。理由も無く断るなんて酷いわね」


女性は冗談っぽく言うが、それが理由なのだ。本来であれば断る必要なんてない。

では何故か?

答えは簡単。単純にヲーリアスはこの女性を嫌っているのだ。

だからと言ってそのまま正直に言うわけにさいかない。ヲーリアスはこの女性の恐ろしさを骨に染みるほど理解している。


「ねぇ、そろそろ答えてほしいんだけど~」

「…貴方様が出るまでもないと思いましたので、」

「…ふ~ん。あ、そういえばミュルニャ様がアンタの事を心配してたわよ?だっていきなりいなくなったんだもの…。で、何でいなくなっちゃったの?」

「…。」

「大丈夫よ。別にミュルニャ様には言わないから。…嘘じゃないわよ。ほら言ってみなさい!」

「あの方達を探す為です…」

「なるほどね~」


女性はそう言うとソファーから立ち上がり軽く伸びをする。


「何処かに行かれるのですか?」

「いや?特に決まってないわよ。本当なら暇潰しにアンタの計画とやらに参加してみたかったけど、断られちゃったし。アンタが私の事が嫌っているのはわかってるけど傷つくわね~」

「い、いえ、そういう訳では…」


女性は悪戯気味に、楽しそうに焦るヲーリアスを見る。

この女性はヲーリアスが自分の事を嫌ってることも、そして言い訳の理由も偽りだということを。全てを見透かされていたようだ。


「うふふ、いいのよ。嫌いな人ぐらい誰だっているわよ。嫌いな人がいないって言う人がいたら…一度ゆっくりと話してみたいわ」

「貴方様はどうなのですか?」

「ふふっ、それは私達全員が同じだと思うのだけど…。…それとも私に軽く喧嘩を売ってる、のかしら?」

「いえ、同胞の中で、ですよ」

「あ、そっちね」


少し考える素振りを見せる。


「私は…そうね。ファティマかしらね。あの子の考え方とか、やり方が気に入らないのよね。同胞だとは思いたくないわ」


苛ついたように吐き捨てる。

ヲーリアスは余計な一言を口走る。


「好きも嫌いも紙一重って言いますからね」


「はぁ?」


その場の空気が凍りつく。女性はヲーリアスに向かってこれまでにない殺気が放たれる。

身体が動かない。

指一本も。

あれは冗談のつもりだったがその冗談が目の前にいる女性を怒らせたのだ。


「おい、潰すぞ?」

「も、申し訳ございません!じ、冗談のつもりで…」

「あ?冗談?お前、私にそんなふざけた冗談を言える仲だっけかぁ?喧嘩売ってんなぁ?…じゃ、お前、潰す、な?」


(ヤバイっヤバイっヤバイっヤバイっヤバイっヤバイっヤバイっ!何でこうなったっ!くそっ、くそっ!)


もう終わりだ、ついてない、最悪だ、とヲーリアスは心の中で叫ぶ。


しかし、一瞬で殺気が消える。


「まあ、本当にアンタを潰したらミュルニャ様に何言われるかわからないし。…でも、次に変なこと言いやがったら…わ、か、る、よ、な?」


ヲーリアスは黙って頷く。

少しでも機嫌を治そうと試みる。


「でっ、では、逆に気になる殿方とかいらっしゃるのですか?」


女性の肩はピクリっと、動く。

またやってしまったか?と焦ってしまうが予想は外れてしまう。


「聞きたい?」

「…は?」


一瞬言葉の理解が出来なかったが直ぐに冷静さを取り戻す。


「はいっ、ぜひ!」

「うふふ、実はここに来る前にすっごーく可愛らしい子を見つけたのよ!あぁ、あの真白な髪に華奢な身体…。男か女かはわからないけど、この際どっちでも構わないわ!」


艶かしい声で身体をくねらせる様は何とも芸術的な作品になっている。


「真白な髪の少年ですか…」


すると女性は興味のある眼差し向けていた。


「知ってるの?」

「あ、いえ、先程と使用人から聞いた時にその真白の髪の少年の事を報告していたもので…」

「可能性は十分高いわ。…もしかすると、こっちに訪ねてくるかもしれないわね?」

「さあ、どうでしょうか?」

「…どういうことかしら?」


怪訝な顔をする女性には怒りという感情はなく、単に疑問だけだった。


「依頼、ですよ」

「だから、何?」

「その依頼で命を落とす可能性がある、ということですよ」

「でも、何とかなるんじゃないかしら?」


女性の言葉に対してヲーリアスは理解が出来なかった。


「い、いや、あのジャンガルノに勝てるとでも?」

「決めつけるのは、よくないわよ?」

「何故です?何か根拠でも…」

「う~ん、何となくよ?…はっ、これってもしかすると愛なのかしら!」


何を言っているのだろうか、この女性は。馬鹿なのだろうか、いや、馬鹿なのだろう。いきなりそうなるのか理解ができないヲーリアスだった。

そんなヲーリアスの呆れた目を気にせずに女性は自分の世界に入っていた。


「あの子、名前は何というのかしら…?欲しいわ、あの子の全てが…。あの子の全てを私のものにして、そして、うふふふ…」


何かよからぬ事を考えている女性を見ると背筋にヒヤリっと嫌な悪寒をかんじてしまう。

これはたちの悪い一目惚れだ。白髪の子には運が悪かったと思ってもらうしかない。


「万が一、その子が依頼で命を落としたらどうするんですか?」


「う~ん、死んでいても遺体は頂くわよ?」


出来れば生きてくれた方が嬉しいけど、と女性は呟く。

てっきり助けに行く、と発言するかと思っていたのだが拍子抜けだった。


「助けには行かないのですね?」


一応確認を行う。


「んー?助けになんて行かないわよ。だって面倒臭いじゃない?死んじゃったら、運が無かったとしか言いようがないわねー。あ、死体はちゃんと保存するから気にしないで?」


ヲーリアスはこの女に目をつけられた時点で運が無かったとしか言いようがない、と思ってしまうが心の隅へと仕舞っておく。


「それに、遠くからだけどあの子から私の好きな匂いもするから、大丈夫でしょ」

「匂い?それは何ですか?」


女性は満面の笑みを浮かべるとその匂いの正体を明かす。


「強者の匂いよ」


ヲーリアスは女性が少し恐れている様子を見逃さなかった。それと同時に楽しそうにも見える。しかし一番驚いたのはこの女性に強者と呼ばれる者がいるということに。


「どれぐらいの強さだと思いますか?」

「どれくらいか…。多分私と互角くらいかしらね?」

「なっ、ありえないっ!」


思わず大声を出してしまう。


「ありえないって…。私なんかよりも強い奴なんてこの世界に幾らでもいるわよ?えっと、シルヴィニア国の軍で私の実力を例えるなら…良くて中佐くらいかしら?」


ヲーリアスの顔が曇っていく。それを見た女性は慰める。

「ま、匂いだけじゃ、わからないわよ。実際に戦ってみないとね!要は戦い方さえしっかりすれば格上相手でも十分相手取れるわよ?」

「あ、ありがとうございます。アバリス様」

「いいわよ。…さてもそろそろ御暇させてもらうわ。…暇潰しにアンタの計画がどんなものか高みの見物させてもらうね?」


アバリスは窓に手を掛けると何かを思い出したかのようにヲーリアスに尋ねる。


「そういえば、自衛団に連絡しなくてもいいの?」

「もし、貴方様が私の立場であれば連絡しますか?」

「そうね。私なら絶対しないわ」


両者共に微笑むと、アバリスは窓から飛び降りようとする。


「それじゃあね、近いうちにまた会いましょう。ザラフ」


アバリスの姿が霧のように消えて行く。

ザラフと呼ばれたヲーリアスはもう誰もいない窓に向かって御辞儀をする。


「はい、近いうちにまた会いましょう」







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