ジャンガルノ2
ソフィアは超大型のジャンガルノの攻撃を避けながら移動をしていた。この超大型のジャンガルノはたとえ自分より大きな相手にも食いかかってくる勢いだ。
(ここら辺ならーっ!)
一気に加速すると立ち止まり向かってくる超大型のジャンガルノに向けて薙刀を構える。
いきなり止まったソフィアと遅れて足を止めた。
両者は互いの出方を伺いながらじわりじわり、と距離を近づけていく。
ーグルァァァ!!
先に仕掛けてきたのは 超大型のジャンガルノだ。超大型のジャンガルノはソフィアに向かって突っ込んで行く。トラックが突っ込んできた位の威力だろう。
ソフィアは一旦避けるとがら空きの背かに向かって上から斬りかかろうとする。
超大型のジャンガルノは突っ込むのを止め、ソフィアの薙刀を両腕で防ごうとするが…。
(今っ!)
ソフィアは上から斬ろうとはせず、下から上へと斬り上げた。
ーギャァッ!
一瞬、超大型のジャンガルノの態勢が崩れてしまう。
その隙を突いて更に斬りつけようとするが超大型のジャンガルノの腕で防がれてしまう。
ーバキッ!
薙刀から嫌な音が鳴る。
焦って薙刀を見るが折れていた、ということはなかった。ソフィアは超大型のジャンガルノの反撃で薙刀の事を見ている暇は無い。
薙刀には目釘と呼ばれる刀身と柄の間にある部分に小さな罅割れがあったのだ。それを知ることになるとは後になる…。
「っ!反撃できない!」
超大型のジャンガルノの攻撃は苛烈になるがソフィアはその攻撃を紙一重にかわしてはいる。しかし反撃の余地が無く途方にくれていた。
(どうすれば…)
何か目眩ましになるものがあれば、と考えているとふと自分の首から下げている瓶へと注目する。この瓶の中にあるオレンジの液体は柑橘系の香水なのだ。
ソフィアは超大型のジャンガルノの攻撃をかわしながら首からぶら下げている瓶のネックレスを引きちぎり超大型のジャンガルノに投げつけた。その投げつけた瓶は勢いよく超大型のジャンガルノの顔にぶつかると粉々に砕け散り、中に入っていた液体が鼻にかかってしまう。
それと同時に辺り一面に柑橘系の強い香りが漂う。
ーギャルァガァァッ!?
大声を出すと必死に鼻についた柑橘系の香水を落とそうとする。顔を左右に振ったりするがしばらくは落ちないだろう。
すると超大型のジャンガルノは今までにないくらいの怒り狂った咆哮が放たれた。
超大型のジャンガルノの攻撃も威力が上がっておりソフィアは押される一方だ。
しかし、超大型のジャンガルノの腕を降り下ろそうとするがソフィアがかわした瞬間、後ろにあった木に突き刺さり抜けなくなっていたのだ。だがあっという間に木から抜けるだろう。
ソフィアは超大型のジャンガルノから離れてる。
超大型のジャンガルノはようやく木に刺さった爪を抜くことに成功するが辺りを見渡すとソフィアの姿が見えない。
嗅覚で見つけ出そうとするが…。
ーッ!?ガアッガッー!?
鼻を押さえて苦しみ出す。
原因はソフィアが投げた瓶の中にある柑橘系の香水だ。その香水の香りが邪魔をして得意の嗅覚が使い物にならない。しかもジャンガルノの様なモンスターは柑橘系の香りが大の苦手なのだ。
嗅覚を封じられ香水の香りで集中力が削がれてしまった。
視力を頼りに辺りを見渡す。
後方の草むらが揺れるがすぐに静まってしまう。草むらは生い茂っていてそこに何がいるかは視覚で見るのは難しい。近づいて行くと違う方向から草むらが揺れ出す。焦れったいのかその草むらに向かって飛び掛かるのだがそこにあったのは少し大きめの石のみだった。
困惑してしまうがいきなり背中に激しい痛みに教われる。
斬られたのだ。
幸い深い傷ではないが超大型のジャンガルノは後ろへ振り向くがそこには誰の姿はない。
背中を斬りつけたのはソフィアだ。
また右の草むらが揺れる。
ーグルルァァァア!!
超大型のジャンガルノは吼える。
だがソフィアは出てこず、苛立ちが募る。
違う草むらが揺れ飛び掛かるがやはり誰もいない。次は背後からソフィアの薙刀によって斬られる。
ーギャァァァアァァ!!
超大型のジャンガルノは悲鳴を上げる。これも深い傷では無い。しかしこれだけの傷があれば尻尾を巻いて逃げるだろうが、この超大型のジャンガルノは逃げようとするそぶりもしない。その目には怒りではなく使命を果たす為に必死に耐えているようだ。
「やっぱり…」
ソフィアは超大型のジャンガルノから少し離れた木の後ろに隠れていた。
彼女は思う。
あの超大型のジャンガルノには何かがあると。何か暴れる理由があるのだと。
まずやることは、超大型のジャンガルノに打ち勝ち、戦意を消失させることだ。
甘い考えだとソフィア自身も思う。
だが同時に後悔すると感じたのだ。
(ここで、決着をつける!)
一度落ち着いて深呼吸をする。
そして決意を固めて隠れていた木からゆっくり出ていき超大型のジャンガルノの方へ歩き出す。
気配に気づいたのかソフィアの方を向くと臨戦態勢に入った。
短く息を吐くと薙刀を超大型のジャンガルノに向けて構え、勢いよく踏み出した。
「行きますっ!」
~~~~~
ブロッスの森の前には数十人の冒険者が集っていた。
全員がCランク以上の者達だ。
殆どが違う依頼を終わらせた後や休みだった者が来ていた。
「おいっ、まだ行かねぇのか!」
「待ってくれ、今ヲーリアスの所に行ってる奴がまだ来てねぇよ!」
「かなりの手練のモンスターなんでしょ?森で戦ってる冒険者達が心配よ。それにまだ子供って言うじゃない!」
「依頼者のヲーリアスが自衛団を要請しているから待てって…」
「まあ、自衛団がくるなら心強いな」
自衛団というのは都市一つ一つにある都市を自衛する者達の事だ。この都市アルシェオはバルドダムという国の一部でその国の自衛団本部から派遣されるのだ。
獣族の男性が難しい表情で他の冒険者達に声を掛ける。
「なぁ、怪我したあいつらが言っていた事どう思う?」
怪我した冒険者達は全員が無事だったのだ。だがその冒険者達が言った事に今いる冒険者達も考えてしまう。
「あの大きなジャンガルノに襲われていない、むしろ助けられた…か。」
「でも、この依頼はそのジャンガルノの討伐よ?」
そう、怪我した冒険者達は全員揃って超大型のジャンガルノに襲われていない、むしろ助けられた、と証言しているのだ。
「黒い物体に襲われた、と」
真実どうであれ、彼らが行うのは未だに帰ってきてない冒険者二人の救出だ。といっても別に依頼ではなく自主的に行っているのだ。個人は明かせないがわかるのは10代中半二人だということだ。
眼鏡をかけた森族の男性が疑問を投げ掛ける。
「それにしてもジャンガルノがこの森に現れること事態がおかしい。本来ならブロッスの森より遥か遠い北西の山に生息しているはず…。加えて本来群れで行動するはずが1匹なんて…。仲間思いのモンスターだし…。」
再び考え出す冒険者達だったが此方へ魔族の男性が走ってくる。
「すまないっ、依頼主の使用人が自衛団が来るのに時間が掛かるらしいから先に行ってほしいだとよ!」
「あん?自衛団が時間が掛かるなんて珍しいな?」
「まあいい、さあ早く二人を救出に行くぞっ!」
冒険者達はブロッスの森へと入っていくのだった。