手を差し伸べる者
召喚された中学生の一人、緑川椿の視点です。
そしてついにあの人物も登場!?
私、緑川椿はこの世界に失望していた。私には家族がいた。両親に兄と弟がいた。そう、いたのだ。もうこの世にはいない。
私が中学二年生の時、兄は高校生2年、弟が小学生5年生だった時だ。私は数人の不良に誘拐されてしまったのだ。場所はある廃工場だった。そこに助けに来てくれたのは兄と弟。だが私を人質にされてしまい無抵抗のまま不良達に殴られ、蹴られ続け動かなくなってしまう。私は泣き叫んで呼んでもピクリともしなかった。次に私が何かされようとしたが私の悲鳴で駆けつけた警察官が数名駆けつけ、不良達は取り押さえられた。私は兄と弟に駆け寄り名前を呼ぶが何も返事がなかった。あったのは身体中から大量の出血が流れている。救急車が来て病院に着いたが、もう既に死んでしまっていた。後から来た両親と共に泣き続けた。もう帰ってこない。
だが、この悲劇はさらに続いた。
あの不良達は何事も無く登校している事がわかった。しかもその事件は無かった事にされていた。両親はその事に憤りを感じでその事件について調べ尽くした。
結果はあの不良達は警察署長の息子、官僚の息子、大臣の息子、都議会議員の息子だったのだ。両親は言う。権力によって揉み消されたのだと。
両親は諦めずにこの事件の決定的な証拠を集めていたが、二人共殺されてしまった。誰かはわからないが恐らく不良達の親だろう。
何故わかるか?
葬式の時にその親がふらりと現れ言ったのだ。
「お前もこれ以上何もするな」
「するならお前も親と同じ目に合わせてやる」
「しなければ息子達も私達も何もしない」
私は只頷く事しかできない。同時にこう思った。
弱者は強者に喰われるだけなのだと。この国のトップに立つ人物達は人の命を簡単に奪うのだ。
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月日は流れ私は中学年三年生になった。生活は両親の生命保険で何とかなっている。高校卒業までは何とかなるだろう。でも未だに独り暮らしは慣れない。家族を失った後、学校の寮で一人暮らしをしている。
でもこの学校生活は辛い。何せ虐められているからだ。男子はそうでもないが女子からは無視や暴言、陰口、暴力をされていた。でもそれもあともう少し。卒業すればここからおさばらだ。……でも、私はこれから先の未来に生きていく自信は無い。またあの国のトップに立つ者達の喰い物にされるのではないかと日に日に不安になっている。もし、もしこの世にこの世界とは違う世界があるなら。その世界に行きたい。私の趣味は読書で最近はweb小説を読んでいる。その中は異世界転生や転移、召喚が多い。それが楽しくて面白くて、私の唯一の幸せな時間でもあったのだ。
そんな事は起きないし有り得ない。それはわかっている。でも私は願う。それが有り得ない願望だとしても。只願うだけで、只楽しい気持ちになったのだ。
あの林間学校で起こった事が現実になるとは私は思いもしなかったのだ……。
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今、私達はある王宮の一室に休んでいた。横のベットには二つあり一人は二年生の白川さん。一年生の天城さんが眠っていた。私は今彼女達の看病をしていた。彼女達は天城悠君を失ったショックで寝込んでしまっている。天城悠君の事はあまり知らないがわかっている事は一つある。私と同じで虐められていた様だ。今思えば彼が私だったらあの天木君か岩本さんに突き落とされていただろう。彼女等には悪いが……彼、天城悠君はもう助からないだろう。理由は此処が異世界だからだ。本当に信じられない。まさか本当にあったことに。
しかしこの異世界に存在するモンスター達は私達地球人には到底敵わない。でも、でも、私はこの世界で生きてみたい。無謀なのはわかっている。でも、ここの王様は地球へと帰れるらしい。正直ショックだった。もうあの場所に帰りたくない。何となくだがあの世界よりここの世界の方がいいと感じてしまう。例えあの恐いモンスター達がうようよいるとしても。
どうせ連れて帰らされるのならこの場から逃げてしまいたい。でも私にはそんな勇気もない。
ーーコンコン。
扉から鎧を纏った男性、大将軍が入って来ると天城悠君を他国の軍人と協力して捜索したが行方がわからないということだ。
そして天城悠君を陥れた天本君達は先に日本へ帰り私達は次の日に帰る事が決まったのだと。
私は無理承知で頼んでみる。
「私を、私をこの場所に置いてもらえませんか!仕事ならします!お願いです……!」
しかし大将軍は顔を左右に振る。
仕方がないだろう。地球人である私達がここで酷い事をしたのだ。
「君にも事情があるのだろう。だが何の理由も無しに地球人をここで暮らす事はできない。」
そう言うと大将軍は部屋から出ていってしまう。
彼女等の看病をメイドさんに頼むと私は王宮の中を彷徨っていた。外はもう夜だ。私は最後に異世界を目に焼き付ける為にバルコニーに向かった。
そのバルコニーには一人の男性がいた。
私はその男性を見て心を奪われてしまう。
年齢は私より年上だろう。髪は白く顔は美女の様な中性的だ。黒く赤い線のある軍服を身に纏っており、まる男装した麗人。傍らには真っ黒な狼の子供いる。その子狼は何処か神聖的に感じてしまう。
「……。」
彼は私に気づき注目した様に見ている。その碧眼は大自然を連想して優しく包み込んでくれそうな目をしていた。私は緊張しながら彼に話す。
「わっ私は緑川椿です。」
「……日本人か」
「はっはい……えっ!?分かるんですか?」
「黒髪に黒目、日本語を使っている。日本人の特徴だ。」
「日本の事は知ってるんですか……?」
「あぁ」
「……えっと、貴方の名前は?」
「俺か、俺はグレン。グレン・ウェード」
「グレンさんですか」
グレンさん、グレンさん。覚えました。
グレンさんは私をジッと見通す様に見るといきなり私の方へと近づいてきた。
「失礼」
そういうと着ていた上のセーラー服を捲り私の腹部が露になってしまう。 でも私は何も抵抗できず只茫然としていた。
「……これは、どうしたんだ?」
グレンさんは無表情であるが綺麗な碧眼には怒りの篭っていた。私は今の状況を理解すると顔を真っ赤にしてセーラー服を捲るグレンさんの手を叩いた。
「なっ、何するんですか!?」
だがグレンさんは顔色を変えずに無表情のまま私に直視して訊ねる。
「その身体の傷は何だ?」
私は思い出した。私の身体には無数の傷がある。それは岩川さんを始めとした同級生の女子達に虐められて付けられた傷だ。私はその事を思い出してしまうと思わず涙が溢れ出してしまう。
「……何があった。」
グレンさんは指で私の目から溢れ出す涙を拭ってくれる。そして優しく頭を撫でてくれた。
私は自然とこれまでにあった事を洗いざらい吐き出すようにグレンに話した。そして私は言う。
あの世界に行きたくない、帰りたくないと。
すると突然グレンさんは私の手を取り、ある場所へと向かった。王間だ。
王間には王様以外にグレンさんと同じ服装を着た優男さんと日本人、天本宗司さんが話し合っていた。
「ん、グレンちゃんどうしたんだい?」
「団長、この少女を俺の隊に入れたいんですが」
「「「は?」」」
団長と呼ばれた優男さんはグレンさんの発言に呆気とられてしまう。それは王様や天本宗司さんも同じだった。
「何を言ってるのかね?彼女は明日日本に帰るのだぞ」
「彼女の御両親も心配するかと……」
「……おい、……椿。辛いかもしれないがお前の過去を話せ」
「え……」
いきなりグレンさんは私にあの話をこの二人に教えるように言うのだ。
正直言いたく無かったが、グレンさんからの威圧を受けて自分のこれまでにあったことを話したのだった。そして私のポケットからあるUSBメモリを渡す。これは私の両親が命をかけて集めた情報だ。でも私は一度も見ていない。只これは私にとっての両親の形見みたいなものだからだ。
「なるほどねー、僕は賛成かな」
団長は話を聞いてグレンさんの隊に入れることを許してもらえた。
「宗司殿、これが真実であれば……」
「……わかってます。まさか、あいつらが……っ!!!」
王様は深刻そうな表情で天本宗司さんを見るが天本宗司さんは苦虫を噛み潰した様な表情で私が渡したUSBの情報をパソコンで目を通していた。あの不良達の親の名前を伝えたがどうやら知っているようだ。まさか警察署長、官僚、大臣、都議会議員がその様な事をしていた事に握っていた両手から血が流れる程憤っていた。
天本宗司さんは立ち上がると私に頭を下げた。
「すまない……」
そして王様は私を見て訊ねる。
「緑川君、私は君の思うようにやればいいと思う。だが、本当にいいのか?この世界は地球とは違い危険が多い。生き残るには生半可な覚悟では無理だ。……もう一度訊ねる、本当にこの世界で生きていくのか?」
「はい!」
その言葉に迷わずに私は頷いた。すると王様は優しい表情で満足した様に頷くと横にいる天本宗司さんに顔を向ける。
「宗司殿、私も賛成だ。……お主はどうなのだ?」
すると天本宗司さんは暫く目を閉じ考えるが目を開ける。
「緑川君がそう決めたなら私個人も賛成だ。だが私だけでは決定は下せない。……しかし君と君の家族を死に追いやった我々には君を止める事は出来ないだろう。只でさえ私の馬鹿息子とその他の者達が取り返しのつかない事をしたのだ。政府も君の要求には黙って従うだろう。……そして贖罪になるとは思っていないが私は彼等、君の家族を殺したやつらに処罰を与える。前々からやつらは不穏な噂が飛び交っていたからな。そして君から貰った情報は協力だ。これならやつらを処罰することはできるだろう。」
そういうと再び天本宗司さんは頭を下げた。
「緑川君を頼む、グレン君!」
「わかっている。」
グレンさんはそう言うと横にいる私を見て安心させるかの様に無表情だったのが優しい表情をしていた。
「椿、これからは俺の部下であり仲間だ。戦い方や武器の使い方は俺が教える。安心しろ、お前をこの世界で生きれる様にしてやる。そして守ってやるから」
その言葉に私はまた涙が溢れ出し、泣き叫びながらグレンさんの胸の中で声が、涙が枯れるまで泣いたのだった。そして私の足元にはグレンさんと同じ様に黒い子狼も寄り添う様にしていたのだった。
そして一週間後、私の家族を殺した不良達とその親達がやったことはメディアに取り上げられ、処罰される。そして天本一達は同じく刑務所に入るのだった。その他の者達は元の学校では無くある政府機関の学校に通うのだった。
「グレンさん」
「何だ?」
「こんな弱い私です。でも必ず強くなるので、よろしくお願いします!」
「あぁ、よろしく」
さて、次からはハク達も出ます。
多分