始まり
はじめまして!
あまり期待はしないでください!
それではどうぞっ!
夕方の見晴らしの良い草原の中、一つの荷馬車が穏やかに進んでいる。
荷馬車を引いている馬は通常の倍はあるだろう。その馬を操縦している中年の男性の後ろには山の様に大量の藁が敷かれている。
荷馬車の後方には一人の少年が寝そべっていた。服は旅人らしい焦げ茶で緩やなの上下ではある。しかし少年の容姿は特徴的だ。
まず髪は降り積もった雪のように真っ白で少年にしては長めであるだろう。おまけに顔は少女の様に麗しい。誰もが見てもボーイッシュな少女しか見えない。
「んっ…」
少年はゆっくりと瞼を開ける。
その目は碧眼で辺りを見渡すと上半身を起こすと大きな欠伸をする。
「お、ハクちゃん起きたか!」
馬を操縦する男性が声をかける。
少年、ハク・ウェードは苦笑いをしてしまう。
「ちゃん付けは止めて欲しいんだが…」
「いいじゃねぇか。細かいこと気にすんなよ。可愛らしい顔してんだしな。」
そう言い愉快に笑う男性に溜め息を付きながら思う。
(父さんみたいになりたかったな…)
ハクの容姿は母親似で性格は父親似らしい。
らしい、とういのはハク自身が物心つく前に両親は亡くなっている。その二人をよく知るのがハクの師匠であり義母である人物、アジュリカ・スカーレットから聞いたのだ。
ちなみに母親の種族は妖族で父親は人族だ。
この世界には数々の種族が互いに共存しあって生活している。種族は人族を始め、魔族・天族・森族・岩族・獣族・鬼族・魚族・竜族・妖族が存在している。
ハクの場合は人族と妖族のハーフだ。
そして前に馬の操縦をしている中年の男性は父親が魔族で母親が地族のハーフだ。
「そういやぁ、寝てる時に魘されてたみたいだが大丈夫か?」
男性がそう言うとハクはふと、夢の事を思い出す。
「うん、大丈夫だ」
「そうか。ならいいが…」
男性はそう言うと藁の中から商品であろう篭の中から果物をハクに向かって投げる。
「うちの自慢の商品だせ!寝起きには丁度いいだろ?毒は入ってないぜ。ほら食べな!」
男性はそう言うともう一つ取り戻すとその果物を大口でかじる。
「え、いいのか?商品じゃ…」
「何言ってんだ。モンスターに襲われてた所を助けてくれたじゃねぇか。これはお礼だ」
男性は命の恩人に対してのお礼は少ないな、というと色とりどりの果物と金銭を貰った。
貰いすぎではないか、と言うと男性は気にするな、と笑いながら馬を操縦を行う。
ハクは最初に貰った果物を一口かじる。
見た目は赤いパプリカにしか見えないが一口かじると林檎の様な食感で味は甘い蜜柑に似ている。その果物の名前はプルプァと呼ぶらしい。
ハクは再び藁に寝そべると夢の事を思い出す。
(あれから5年か…)
あの出来事があったのは9歳の時だ。あれから5年たって14になった。
旅に出ると言ったときは11の時だ。
(あの時は母さんに凄く反対されたっけ)
何とか許されて 難易度が低いダンジョンに潜ったがトラブルにあったり、ある王国の危機を救ったりなどをしたことが懐かしい。
年甲斐もなくそう思ってしまう。
でも、
(俺の目的は一つ…)
そう考えていると男性から声がかかる。
「ハクちゃん、もうすぐアルシェオに着くぞ!」
起き上がると大きな町が見えてくる。
「あれが都市アルシェオか…」
ハクは都市を眺めてそう呟いた。
~~~~~
アルシェオに無事に着いたハクは冒険者ギルドに向かっていた。
冒険者ギルドは都市には必ず存在する場所だ。
基本はその都市内の依頼が大半だが稀に外部からの依頼もある。
内容はピンからキリまであり、ランクの一番低い依頼であればお使い稼ぎにはいいだろう。一番低いGランクの依頼は店の手伝い等のバイトみたいなものしか無い。
ランクは上からEX・SSS・SS・S・A・B・C・D・E・F・Gと順にある。
Bランクから達人レベルでありAランク以上からは超人という認識だ。
モンスターのランクも同様だ。
(それにしても賑やかだな)
冒険者ギルドに向かう広い道中は店が多くありそこに集っている人達も多い。
美味しそうな串焼きやクレープ等を食べ歩きしている人もいる。
しばらく歩くとドーム状の建物が見えてくる。看板には冒険者ギルドと書かれていた。
冒険者ギルドに入ると多くの冒険者が依頼を終えたのかテーブルで酒やつまみを食していたり武器の手入れをしたり、続けて依頼を受ける為に受付へ向かったりしているのが見られる。
右側には常備品等を売っている店があり、中央には依頼の貼ってある掲示板、左側には冒険者ギルドの制服を着た受付嬢が5人が受付をしている。
ハクの容姿の為か男性だけでなく女性の冒険者からの視線を感じる。
しかしハクは慣れているのか気にせずに掲示板へと向かう。
掲示板には店の手伝いや採取、モンスターの部位等の依頼が多い。
どれにしようか考えているとギルド職員のエルフの男性が現れると掲示板に一際大きな紙を張り付ける。
そのエルフの男性は大きな声で話す。
どうやら緊急依頼らしい。
紙にはこう書かれていた。
ーーーーー
依頼・大型のジャンガルノの討伐
期間・無期限
報酬・50万デリス
依頼主・都市アルシェオ管理責任者ヲーリアス
内容・ブロッスの森に出現した大型のジャンガルノの討伐をお願いしたい
ーーーーー
50万デリスとは破格だ。
ジャンガルノ自体はDランクであるが大型のジャンガルノは恐らくキングジャンガルノではCランク上位のモンスターであると考える。
それでも良くて20万デリス位だ。
ハク自身はジャンガルノやキングジャンガルノは名前しか聞いたことはない。
(ま、これでいいか)
ハクは即決し新しく出た依頼を見にきた冒険者から離れ受付の元へ向かう。
新しく依頼が出た影響か受付の前には誰一人いなかった。
偶々、ではなくハク好みの受付嬢へと向かう。
「いらっしゃいませ!依頼の受注ですか?」
目の前には20歳くらいの美人な犬の獣族の女性が受付をしてくれる。
思わず目の前の光景に釘つけになってしまう。
(こ、これは…!)
顔には出さないが獣族の女性のたわわな胸に感動してしまう。
すると獣族の受付嬢はそれに気づくと笑みを浮かべる。
「あら、大丈夫よ。成長すれば貴方も大きくなるから」
この女性は盛大に勘違いをしていた。
ハクはショックを受けるが本来の目的を思い出す。
「あー、すまない。依頼を受けるんだ。」
「わかりました。ギルドカードの提示をお願いします。」
切り替えが早い受付嬢にギルドカードを提示する。
ギルドカードの色はランクよって違う。
EXは黒色に金色と赤色の線でモンスターの模様がある。
SSSとSSは白色に青色でモンスターの模様がある。
SとAは黒一色。
BとCは赤一色。
EとFは黄一色
Gは灰色一色になっている。
そしてハクが出したギルドカードの色は…。
「…ッ!?」
獣族の受付嬢がハクのギルドカードを受け取った瞬間、10秒程静止する。他の受付嬢には見えないようにしている為ハクが出したギルドカードは見えていない。
そしてギルドカードを専用の機械に通すと基礎的な個人情報が手元の画面に写し出される。
名前や性別等を。
ようやく獣族の受付嬢はハクの性別に気付くと顔を真っ赤にしてしまう。犬耳や尻尾がピクピクっと動いている。
とりあえず依頼を伝え受注を完了し、ギルドカードを返して貰った後、依頼の説明を聞いてからギルドから出て行く。
ハクがギルドから出ると横にいたスレンダーな森族の受付嬢が獣族の受付嬢に小声で話しかける。
「ねぇ、どうしたの?顔真っ赤だよ?さっきの女の子に何かされた?」
「う、ううん。違うの。」
「じゃあ、どうしたのよ?」
「えっと、まずあの子、女の子じゃなくて…男の子なのよ。」
「っ!?え、嘘!え、あの子リアル男の娘?」
エルフの受付嬢はハクの姿を思い出す。
「ねぇ!その男の娘、どんな依頼したの?」
エルフの受付嬢はあわよくば、次来た時に自分が受付をしようと考えているみたいだ。
「えっとね…」
獣族の受付嬢は森族の受付嬢に何を受注したのかを説明する。
「はっ!?何受注させてるのよ。まだあの男の娘って10代半ば位でしょ。最低でもランクはDランクはないと!」
「あの子…ランクなの」
「え?何ランクか聴こえない」
「だから、あの子は…」
獣族の受付嬢はエルフの受付嬢に聞こえる声でゆっくりと…。
「Sランク、なのよ。」
森族の受付嬢は時間が止まったかの様に固まってしまう。
そしてー、
「えぇぇぇぇー!!」
森族の受付嬢のこだまする。
そしてー、
「うるさいぃっ!!」
近くにいた受付嬢のリーダーである鬼族の女性に怒られたのは言うまでもない。
~~~~~
「久々のベッド~」
ハクはギルドに出た後、宿をとってベッドの上に仰向けで埋もれていた。
顔はいつも仏頂面な顔は完全に緩んでいる。
部屋に来る前に食事は契約しているモンスターと共に宿の一階で済ませている。
ハクが契約しているモンスターは全部で五体いる。
白守猫3体に多尾狐にスライムだ。
白守猫は見た目は手乗りサイズの白い子猫に見えるが既に成体で守りに特化したモンスターだ。
多尾狐は金色の狐で自分の体長と同等の尾が六本生えており、普段は小さくなって目立たないようにしている。
スライムは身体が青くボールに近い姿で2つのクリクリした目が愛らしい。見た目はそこらのスライムと変わらないが特殊個体である。
モンスター達は既に戻している。
依頼も明日からとなっている。ジャンガルノは夜に活動しないらしい。なら夜にやれば?と思うがブロッスの森は多くのモンスターや複雑な道になっている為、夜に入ると確実に迷ってしまう。過去に何人もの冒険者や市民が迷い混み遭難したり夜行性のモンスターに襲われ死亡した事が非常に多く、夜にブロッスの森に入ることはこの都市全体の決まりとなっている。
「ディオン、そろそろ出てこい」
そういうとハクが下げていたリュックからもごもごとしながら可愛らしく小さな子供の白狼が出てくる。
ハクの元に駆け寄ると服の中に潜り込み、胸の上に猫の様に丸くなる。
「やっぱりハクの服の中が落ち着く~」
子供の声で白狼が喋る。
この子供の白狼の正体は聖獣と呼ばれる存在だ。
聖獣と呼ばれる存在はランクがあり上から、神聖皇帝獣・神聖王獣・神聖獣・神獣・聖獣・幻獣・賢獣と分けられる。だが一般的には全てを聖獣と呼ばれているのが殆んどだ。天界では天獣、魔界では魔獣とも呼ばれている。姿は動物にしかなく種類は様々だ。
聖獣は自らパートナーを選び、生涯を共にすると言われている。
聖獣は神聖なる者であるという認識がある為、敬う場所もあるらしい。ちなみに聖獣の食事はパートナーである者から魔力を貰っている為、食べ物の摂取は必要としない。
「ハク~、あたまなでなでして~」
ディオンは服の首元から顔だけ出すとハクに甘えるように催促する。
ハクは微笑むと優しくディオンの頭を撫でる。
「さあ、明日は朝早く起きるから寝よう?」
「うんっ!」
そうしてハクとディオンはゆっくりと瞼を閉じた。
読んでくれてありがとうございます!