謎の女性 サツキ
ルスウェム村から少し外れた広場で二人の人物が組み手を行っていた。
一人は真白な髪の美少女の様な少年、ハク・ウェードと金髪の美少女、ソフィア・アークライトだ。素人の目で見てみれば優勢なのは攻めているソフィアだが、それに対してハクは反撃もせずに攻撃を受け流し避けていた。何度も攻めている彼女は諦めず攻撃を続けるが目の前から一瞬に消えてしまう。
(後ろっ!)
ソフィアは後方に向かって後ろ回し蹴りを放つのだが、それをハクは容易く片腕で防がれてしまう。そしてソフィアの額に向かってデコピンを放った。
「あぅぅ……ま、参りました…」
両手で自分の額を抑えて、組み手が終了する。
もし、これが実践だったのなら一瞬にして敗れていただろうとソフィアは思いながら地面に座り込む。悔しそうな表情で額を擦っているとハクから水筒を渡された。
「…ハク、組み手どうでしたか?」
「最後のは良かったけど動作が大きかったな。それにフェイントも混ぜた方がいいかもね。あとは…うん、基礎基本を徹底することだな」
ソフィアがハクと共に旅をしてもう二週間だ。ハクからは武術以外に剣術、魔法、魔術等を教えてもらっていた。武術と剣術、魔法は上達していったが、魔術は一向に上達しなかった。ソフィア自身どんな魔術を持っているかわかっていないからだ。
ちなみにルスウェム村に訪れたのはソフィアの薙刀の修理をしてもらうためだ。ここの鍛冶屋は評判が良かったので修理に出している。ソフィアの腰にはハクから借りている片手剣を薙刀の修理が終わるまで貸してもらっているのだ。
すると後ろから拍手が聞こえる。
「いやぁ、凄い組み手でしたね。」
その声の主は人族の女性だった。長い黒髪で着物を着ており、手には三味線を持っている。年齢は20代位だろうか。若そうであるが何処か静かで熟練さを感じてしまう。容姿は大和撫子っと言う感じの美人だ。目は閉じたままだがゆっくりとハク達へ近づいて行く。
「あ、ありがとうごさいます!」
「…どうも」
ソフィアは素直を御礼を言うのだが、ハクは何かを感じているのか少し警戒しているところがあった。
「あ、別に怪しい者ではないですよ?」
黒髪の女性は自分が無害だとアピールしていた。
「あ、あの、その目はどうしたんですか?」
おそらくソフィアは一番気になっていたのだろう。さっきから一度も女性は目を開けてはいなかった。
「実は私、生まれつき目が見えないんですよ」
「す、すみません!何か、その…」
「いいんですよ。私は気にしてませんから…。そうだ名前言ってませんでしたね?」
そういうと女性はニッコリ微笑む。
「私はサツキ・ゴーゼス。サツキと御呼び下さい。ちょっとした用事でこの村に来た旅人です。」
ソフィアは思わずハクの表情を見てしまう。こんな美人に微笑まれたら男であるハクも鼻の下を伸ばすのではと思ったのだ。
「…。」
しかしハクは彼女に対して警戒をしていたままだったのだ。
ハク達もサツキに名を教えると彼女は楽しそうな表情をしていた。
「ハクさんにソフィアさんですか…。御二人は恋人同士ですか?」
「いえ、違います。旅仲間です」
ハクは冷静に断言するのだが、ソフィアは断言されたのがショックだったのかしょんぼりとした表情をしていた。
ハク達の元へと一匹の白い子狼が向かってくる。子狼だけでなく背中には青い小鳥がちょこんと座っていた。
戻ってきた白い子狼、ディオンと青い小鳥、アイズはサツキを見て『誰?』という表情をしていた。そのディオンとアイズに向かってサツキはしゃがみこむ。
「可愛らしい狼と小鳥の聖獣さん、初めまして。サツキと申します。ハクさんとソフィアさんのパートナーですよね?」
サツキの発言に驚きを隠せなかった。確かにディオンとアイズは聖獣でハクとソフィアのパートナーでもある。だが、外見だけを見てみれば子狼と小鳥しか見えないはず。それをサツキは見破ったのだ。
「え、何でわかったんですか?」
「何となくですよ。」
聖獣であるディオン達の紹介もしておいた。ディオンとアイズはというと一瞬にして正体がバレたことにショックだったのか呆然としている。紹介が終わるとアイズが報告を行う。
「ソフィア様、薙刀の修理終わったそうです。」
「…よろしければ、私も同行させていただいてもよろしいでしょうか?」
「いいですけど…用事があるんじゃ…?」
「私も鍛冶屋の店主に用事があるんですよ。」
ソフィアはハクの了解を得たことでサツキと一緒に鍛冶屋へ向かうのだった。
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鍛冶屋には壁やケースに武具が飾られている。形や色も様々だ。ハクとソフィアはカウンターにいる獣族の男性が修理が終わった薙刀を持ってきた。ちなみにサツキは店主が留守だったのでディオンとアイズと一緒に外で待っている。
修理代は5000デリスだ。
通貨は1デリス、5デリス、10デリス、25デリス、50デリス、100デリス、500デリス、1000デリス、5000デリスの硬貨の種類がある。
1デリス硬貨は通貨の中で最も小さく日本の一円玉より少し小さい。スライムが描かれている。
5デリス硬貨は中央に穴が空いており、亜竜が描かれている。色は銅に近い。
10デリス硬貨は毛の長い虎、ラオガットと呼ばれるモンスターが描かれている。
25デリス硬貨は世界樹が描かれている。日本の100円玉より少し大きい。
50デリス硬貨は翼天馬が描かれている。
100デリス硬貨は鷲獅子が描かれている。
500デリス硬貨は爆岩烈龍と呼ばれるモンスターが描かれている。
1000デリス硬貨はマスタースライムと呼ばれるモンスターが描かれている。
5000デリス硬貨は神鳥というモンスターが描かれている。日本の500円玉の1.5倍の大きさだ。
ちなみに1デリス=1000円だ。
ソフィアは5000デリス硬貨を出すが獣族の男性は驚くべきことを発言する。
「…その薙刀の修理代、チャラにしてやってもいい」
「「はっ?」」
「だが、1つの頼みをしたい。」
どうやらある少女の捜索をしてほしい、ということだそうだ。行方不明になったのは昨日で近くの都市ルールムに緊急依頼として出し一人の女性が引き受けたのだ。だが、その女性は少女が入り込んでしまったのであろうデファト森に捜索したのだが今日になっても戻ってこないということだ。その女性はAランク冒険者だということ。デファト森は危険度Cだ。
何故ハクとソフィアに頼むか、というのは獣族の男性が薙刀を見てただ者ではないと思ったからだ。実際に尋ねた時にハク達は自身のランクを告げていた。アルシュオにいた時よりもソフィアの実力はついているだろう。
「任せて下さい!ね、ハク!」
「あ、あぁ…」
「おぉ、助かる!金髪と白髪のお嬢ちゃん!なら今から案内するから外で待っててくれ!」
今、聞き捨てにならないことをこの男性が言ったことにしようと考えたハクだが、不機嫌な表情になってしまう。
修理を終えた薙刀を持ち、ハクとソフィアが外に出るとサツキ達がいたのだが、サツキの頭の上にディオン、その上にアイズが乗っていた。
「あ、どうでしたか?」
目は見えていない筈だが、気配で誰が来たかわかるみたいだ。サツキに少女と女性の捜索のことを説明する。
「それは大変ですね!私も行きますね!」
サツキも捜索に行くこととなった。大丈夫か聞いてみるとサツキもデファト森へ行く予定だったらしい。一人で。ハクは盲目であるサツキは計り知れない実力者であると認識した。ソフィアは腰に着けていた片手剣をハクに返した。
「これ、お返しします。」
「あぁ。」
返す時にお互いの指が触れてしまいソフィアは頬を赤らめてしまうのだが、ハクは気付いていないようだ。その様子を感じ取ったのかサツキは微笑んでいる。本当に見えているのではないかと思ってしまう。
しばらくして獣族の男性に案内されて広場に向かうのであった。