過去
薄暗い夜、
いつものように生活をして今日一日が終わるはずだった。
自分達が生活していた木造の家は炎が辺り一面に広がっている。
気絶した一人の少年が壁にもたれていた。意識を少しずつ取り戻すが身体が鉛の様に動かない。
瞼を開けると前には血だらけの男性が俯せで倒れている。
少年はその男性が誰なのか理解する。
「ガイルおじさん…」
声をかけても返事はない。
もう一度声をかけようとするがやはり返事はない。
血の量からしておそらくもう生きてはいないだろう。
すぐ側には一人の青年が黒い太刀を片手に持っていた。太刀は黒いにも関わらず赤い液体が滴っているのが一目で分かる。
「なんで…」
現状を理解した少年は涙ながら声を振り絞って吐き出すようにその青年に言葉をぶつける。
「……。」
青年は何も発することなく少年を見る。
その目は恐ろしかった。
墨に塗りつぶされた黒い瞳が刃の様に少年をとらえていた。
少年は声を発することができない。
それと同時に自分がどうなるかを理解した。
殺されると、
炎が暗闇の様に包まれる中、月の光が青年を写し出す。
「えっ…」
少年は青年の正体を理解する。
少年が知っている青年はいつも優しく自分が尊敬する人物だった。
だからこそこの光景が少年にとってあり得ないことだったのだろう。
「どうして…」
少年は青年を見る。
その少年の目には恐怖ではなく戸惑いがあった。
しかし青年の漆黒の眼力により少年は意識を失ってしまう。
「な…ん、で……お兄…ちゃ、ん…」
お兄ちゃん、と呼ばれた青年は意識を失った少年の耳元に口を近づける。
「…必ず、必ずお前を、俺の…この手で…」
青年は最後に力強く、
「消してやる!」