ストーカー事案4
田中明は残り香を嗅いでみた。
個々の特徴はわかるが、やはり若い女性の匂いとしかわからない。
ずるずるしたワンピースは最近の流行りだったろうかと映像の中の女を思い出す。
そしてガラス扉にびっしりと張られた紙片を写真に撮る。
「素手だから指紋もばっちりだな」
そういって手袋をはめて何枚かはがして手持ちの袋に入れる。
そしてカメラを用意しておいてよかったこと、おおよそ来る時間が特定できたことだ。これで張り込めばあっという間に終わる。
住居不法侵入とストーカー行為の現行犯で逮捕できる。
正体がわからない限り表立った行動はできない。お役所仕事というものは面倒くさいものだ。
本当に普通の人間のストーカーなら一般警察に任せなければならない。その際の取次の手続きがまた面倒くさい。
かといって間違いは許されない。何しろ新設されたばかりの課であるし、怪物化への偏見はいまだ根強い。
山田恵子のみがスタンバイしている。
佐藤忠先ほど通報が入ったは怪物化した強盗を取り押さえてからこちらに来る予定だ。
人員が少ないのでいろいろと忙しい。
耳の中のイヤフォンから、佐藤翔が話しかけてきた。
「おいでなさったぞ」
翔はマンションの外から丸害のベランダが見える位置で張り込んでいた。
中学生で成長の止まった身体はうかつに警察に見つかれば補導されてしまうので物陰に隠れて。
こういう時は成人してから怪物化した息子が羨ましい。
ゆったりとしたワンピースにぞろりと長い黒髪、どこかおぼつかない足取りで女が歩いている。
ゆらゆらとしたその足取りは、まるで夢遊病者のようだ。
「あーやだやだ」
基本的にはっきりとした性格なので、ああいう粘着質なのは嫌いなのだ。浮気されたのならその場でぶん殴ればいいのだ。
傷害事件だが、理由が理由なので警察だって介入しない。
こういう迷惑行為をしないでくれたらなと思いながら歩いていく女を見ていた。
そして、マンションの真下に立った時、女の体が変化した。
思わず翔は顔を引きつらせる。
そして、息子のほうに連絡を入れた。
あれは荷が重い。山田恵子はともかく、田中明は怪物化した中では力のランクはばんぴー同然なのだ。
はっきり言えば普通のサラリーマンが警察をやっているも同然。
そういうわけなので超特急で佐藤忠の出番だ。
佐藤忠はイヤフォンで連絡を聞いた。
暴れるので最後の手段と手足の骨をへし折ったのだ。
それで救急車で搬送されていく。やったことが強盗なのでこれで問題なしだ。
人手が足りないので多少の強引な手段も許されている。
仕事はきりがないと佐藤忠はため息をついた。
とりあえず戦闘能力は奪ってあるので、多分在中の上司たちで何とかなるだろうと判断し、佐藤忠はマンションへ向かった。