ストーカー事案 2
「その彼女さんですが、ロッククライミングの経験はありますか?」
そう聞いたのは田中明だ。
マンションの外壁を確認する。
マンションは六階建てなので、屋上からロープをたらせば比較的簡単に出入りできると踏んで聞いたのだ。
「ああ、そりゃだめだ。屋上は鍵が掛かって出入り不可だ」
佐藤忠が管理人に確認してきた。
「それに、ロッククライミングといってもさすがに何の痕跡も残さないのはあり得ないんじゃないか」
外壁はクリーム状の真っ白なものだ。
「ところどころ埃が取れてるけど、あれ何なのかしらね」
山田恵子がそう言って目を細める。
全員で現場検証にやってきた。とにかく犯人が普通の人間である可能性をつぶさねばならない。
「この場合、有翼系?」
なんとなくついてきていた顧問が小さく首をかしげる。
見た目は女子中学生だが、中身は子持ち中年男だ。
「有翼系ねえ」
佐藤忠が首をかしげる。
「それらしい音を聞いた人間がいないのが気になるところで」
翼で羽ばたくためそれなりの音がする。
人間の体に翼を付けたとしても通常は飛べない。
翼で飛べるほど人体というものは軽くないのだ。なのに飛べてしまう。この現象に世界中の物理学者がパニックに陥った。
最も怪物化した人間の非常識はそんなものではない。
佐藤忠にしたって、体の組成は普通の人間と変わらない。にもかかわらずトラックを破壊できるのだ。
そして変身系、よくいる狼男あたりなら質量はそれほど変わらないが、明らかに人間よりも大きなものに変身するものも珍しくない。
質量不変の法則ってなんだろう。と世界中の物理学者やその他大勢が悩んだという。
「しかし、面倒くさいな」
翔が呟く。
これが怪物化して暴れまわっている。あるいは怪物化した姿を目撃したという通報があれば即仕事にかかれるのだが。
怪物化かもしれないとなると。普通の警察の仕事を妨害する可能性もある。
こういうボーダーラインが一番面倒くさい。
「カメラを仕掛けますか」
小型カメラをベランダの隅に仕掛けることにした。
これで姿を確認して、それからだ。
「姿を確認すればたぶんわかるんじゃないかな」
限りなく希望的観測を忠が呟く。
そしてカメラ映像で彼らはさらなる恐怖にさらされることになる。