新たな顧問
モンスター課の刑事田中明は何となくうつろな眼をした同僚、佐藤忠をちらちらと見る。
なんだか焦点の合っていない目をして、ぼうっと窓の外を見ている。
何かあったんだろうか。
怪物化は人によって様々な形態をとる。近い血縁では同じ傾向が出やすいという特徴もあるが、それも絶対ではない。
田中明は獣人だった。割と多く出る獣人で、それほど力も強くない。嗅覚、聴覚は人並み外れているが視力はそれほどでもないというイヌ科の特徴を強く出している。
力も獣人としてはそれほど強いほうではない。
つまり田中は怪物化した相手専門の刑事としては完全とは言わないまでもかなり役立たずなのだ。
しかし刑事ドラマにあこがれて、刑事になった田中明はそんなことは全く気にせず刑事ライフをエンジョイしていた。
今まではモンスター課最強戦力はその歌でだれもが沈黙する山田恵子だった。
そして驚異の新人が現れた。
トラックに轢かれても大丈夫な佐藤忠だ。
佐藤忠は田中明クラスの獣人なら数人ぐらいは楽勝で抑え込める。
上層部は佐藤忠に多大な期待を寄せている。
そんな佐藤忠の様子がおかしくなった。
仕事はこなすが、妙にうつろな顔で、虚空を見ている。
「お前ら、これから新しい顧問を招聘することになった、ご挨拶だけしておけ」
そう言ったのは伊集院警部だ。
この場合の招聘は本来警察関係者ではないが、モンスター課のためにやってきた怪物化した人という意味だ。
人手不足は本気で深刻なのでそういうアルバイトを雇う必然性から、そういう形で呼ばれた人らしい。
なんでも怪物狩りが熾烈を極めるときに生き延びた生え抜きの猛者らしい。
伊集院警部の背後から出てきたのは小柄な少女だった。どこかで見たことがあるような。そう思ったとき背後で誰かがすっころぶ音が聞こえてきた。
「佐藤翔と申します」
少女ははきはきと挨拶した。それに合わせ、一命を除き、全員一礼した。例外はその場で床になついている。
「何やってんのお前」
そういってつま先でツンツンと倒れている佐藤忠をつついた。
「つつかないでください」
そういってがばっと身を起こす。それでようやく気が付いた。佐藤翔と佐藤忠、この二人そっくり。
佐藤というよくある苗字ながら顔もそっくりなら血縁関係者に間違いなさそうだ。
「ああ、どうも、弟がお世話になっております」
いわれてちょっと忠は呆けた。
翔は体をかがめて床に座っている忠の耳元に囁く。
「戸籍上はそうなっているんだよ、ここはお役所の一種ならそれに倣っておいたほうがいいだろう」
そのささやきが聞こえたのは田中明だけだった。
何気ない顔でそれを聞かなかったふりをする。どうやら何事か複雑な事情がありそうだがそれはこれから探っていくことにしよう。
それから少し考えて言われた事実を思い出す。
「いくつだあんた」
二十代前半の佐藤忠を弟だということは確実にそれより年上だということだ。そして怪物狩りは結構前に非合法になったはず。となれば実年齢が極めて気になった。
「やあね、女に歳を聞くなんて、私永遠の十五歳よ」
きゃぴっと頭のてっぺんに擬音が付きそうなポーズをとってみせる。それが少し古く見える。やっぱり相当の年だろう。
「男でしょう、あんたは」
佐藤忠が爆弾を落とした。




