被害者逆転
高層階のゴンドラに窓ふきをしている女たちがいる、いずれも年若く一様にネックホルダーやチューブトップといった肩甲骨の見える服装をしていた。
それを見上げながら、佐藤忠はつぶやく。
「なんで空を飛ばないんだろう」
傍らの翔がつまらなそうに答える。
「そらお前、ホバリングって結構体力使うんだぞ、それに高層ビルが立ち並ぶあたりって気流の流れが複雑だからうかつに飛ぶのは危ないんだぞ」
女たちは有翼人だった。背中の空いた服装をしているのはいざという時に翼を出して飛ぶためだ。
モンスター課の仕事は怪物化した犯罪者を取り締まることだけではない。非常に少ない事例ではあるが、怪物化した被害者を扱うこともある。
そして、怪物化した 人間を雇っている会社の見回りも業務の一環だったりする。
高層ビル清掃会社にやとわれた有翼人の聞き取り調査にやってきた。
高層ビル清掃といっても先ほど言ったように飛んで掃除するわけではなく、彼女たちの翼はいざという時のパラシュート程度の意味でしかない。
「さてお仕事お仕事」
翔はそう言ってゴンドラに乗る女たちに手を振って見せた。
一人がゴンドラから身を乗り出し、そのまま空に躍り出た。
純白の翼が広がって、背後の青空と調和した。
ゆっくりと旋回しながら降りてくる。
とんと小さな足音がして目の前に女が立っていた。
髪をポニーテールにし、ピンクのチューブトップに洗いざらしのジーンズという格好の若い女だ。その身体は肉が薄く未成熟な感じがした。そしてあまり特徴のない顔だなというのが第一印象だった。
「どうも若宮翼です」
名は体を表すな名前に忠はぽかんと口を開けた。
小づくりな地味な顔の女は苦笑する。
「よく言われるんですよ、でも最初からこうなるってわかってたわけじゃないんですよ」
アハハと明るく笑い飛ばされた。
「あ、どうも、モンスター課の佐藤忠です」
忠が慌てて自己紹介した。
「あ、どうも、でアンケートですか」
「はい、怪物化した人たちの就業状況を調べるためにですね」
「いろいろやってるんですね」
「ええ、いろいろあるんです」
相手が愛想のあるタイプだったので、話は割とスムーズに進んだ。
忠が用紙の入った封筒を受け取ると再び若宮翼は翼を広げ、ゴンドラまで飛び上がっていく。
その姿をしばらく見送って、佐藤親子は次の場所に向かった。
次の現場は劇団だった。ダンスと獣の姿のパフォーマンスが売りだ。
獣人を使えばどんな複雑な命令もあっさりと聞く。
無機質な灰色の建物の外壁を二人はしばらく眺めていた。




