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晴色雨細工  作者: AZ
6/9

丘に咲くは貴女の花 (天然の、丘、家庭教師)

 窓からカラフルな香りが、丘の上からやってくる。


 それを嗅ぎ、丘の上に咲いているであろう天然の花々を想像するのが、不治の病である少女の唯一の楽しみだった。


「この香りは、何の花だろう」


 ベット脇で世界の歴史を話す柔和な顔つきの女性家庭教師に、少女は尋ねる。


 その少女の言葉に家庭教師は講義を中断すると、部屋に漂う香りを胸いっぱいに吸い込んだ。


「これは、ラベンダーですね」

「ラベンダー……私の名前と同じ色ね」


 家庭教師は少女のその言葉に優しく微笑む。


「はい。紫乃(しの)お嬢様と同じです」


 少女、紫乃は哀しそうに笑った。


「気づいてたんでしょ?華先生」


 その言葉に、華も哀しそうに笑った。

 だがそれも直ぐに優しく明るい笑顔へと戻る。


「私、死んだのね?」


 涙がひとつぶ、真っ白な毛布へと落ちる。

 が、その涙が毛布を濡らすことはなく、空中でスッと消えた。


 それが、少女の問いへの答えだった。


「先生、みえる人だったのね」


 優しいね、そう呟き、紫乃は毛布から這い出ると直ぐ横にある窓枠へと足をかけた。


「私、いくわ」

「ええ、いってらっしゃいませ」


 紫乃は後ろを振り返る。


 一瞬、2人の笑みが交差したかと思うと、紫乃は窓枠から外へ、空へと消えた。


「いってらっしゃいませ」


 誰もいない部屋に、華の言葉が虚しく響く。


 だが、華は虚しさなど少しも感じさせない華やかな笑顔を丘へと向けた。


 否、丘の向こうの空、紫乃へと。


「丘に咲いているのは、貴女の花ですわね」


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