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晴色雨細工  作者: AZ
4/9

赤宝石 (携帯、後藤さん、コーヒー)

 薄暗い、大人の雰囲気を閉じ込めたバーで、後藤さんはピンク色のカクテルの入ったグラスをそっと傾けた。


「大事な話があるんだ」


 重厚な低音で、後藤さんはそう、私に告げた。


 顎に生えた無精髭をさすりながら言う後藤さんは、どうやら緊張しているようだ。


 後藤さんが無精髭をさする時は、決まって緊張している時だった。つまりは、そういう癖なのだ。


「話って、なんですか」


 囁くように、問いかける。


 本当は、彼が何を言いたいのか、私は知っている。だからこそなるべく細く、滑らかで、消えそうな声で問うのだ。


「あのさ、俺」


 そこで、後藤さんは1度言葉を切った。


 私は夜のバーには似合わない、ブラックコーヒーの入ったカップを持ち上げ、そっと唇を添えた。


 香ばしい香りが、私の周囲10センチに広がる。


 その範囲に、後藤さんは入っていない。


「君のことが好きだ」


 そう言い終えるが早いか、私は持っていたカップから手を離した。


 白いカップが音を立ててテーブルに転がり、中に入っていたコーヒーがテーブルの上にあった後藤さんの携帯の上に、黒い雨のように降り注いだ。


「ごめんなさい」


 慌てて携帯にかかったコーヒーをペーパーナフキンで拭う後藤さんに、私は謝罪を述べた。


「いや……いいんだ、大丈夫」


 そう言って拭き終わった携帯をズボンのポケットへと、後藤さんはしまった。


 そしてルビーのように透き通る真っ赤な色に変化したカクテルを一口、舌の上で転がした。


 これが、最後の夜になる。

 私と後藤さん、2人で過ごす、最後の夜に。


 真っ赤なカクテルは、どんな味だったか。


 それだけが、私の唯一気になることだった。

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