キャンディマン (ネジ、イチゴ、キャンディ)
ボクはキャンディマン。
栗色のくるくる癖毛に、優しい笑顔。青い星マークのついた白いシルクハットと、シルクハットとお揃いのサロペットを着ている。背中についたネジを回せば、口からイチゴキャンディが出てくる人形さ。
ボクはキャンディマン。
ある女の子の1歳の誕生日に贈られた人形さ。
でも残念なことに、この子はまだイチゴキャンディを食べられないみたい。
ボクはキャンディマン。
5歳になった女の子の、お気に入りの人形さ。
毎日毎日、イチゴキャンディを出すのに大忙し。でも、楽しいなぁ。
ボクはキャンディマン。
12歳になった女の子は、あまりボクのネジを巻いてくれなくなった。
勉強机の上に飾られたまま、日々が淡々と過ぎていく。
ボクはキャンディマン。
今日は女の子の16歳の誕生日。
ボクは押し入れからそれを見守っているのさ。
お誕生日、おめでとう。
ボクはキャンディマン。
女の子に子どもができたみたいなんだ。
ボクは彼女の子どもにプレゼントされたよ。
久しぶりの押し入れの外は、だいぶ変わっているね。
ボクはキャンディマン。
今日は彼女の子どもの10歳の誕生日。
ボクは押し入れからそれを見守っているのさ。
彼女と違ってこの子はあまりボクのことが好きじゃなかったみたい。
ボクはキャンディマン。
毎日押し入れの天井を眺めているのさ。
ここは暗くて寂しいね。だけど、彼女がボクのことを押し入れに仕舞ったから、ボクはここにいるよ。
ボクはキャンディマン。
久しぶりの外だよ。
彼女はだいぶ歳をとったみたいだ。綺麗だった黒髪が、雪の色になっているよ。
やっとこの日が来たんだね。
ついにこの日が来たんだね。
キミに使われる日をずっと待ってた。
キミには他のオモチャがあっても、ボクにはキミしかいないから。
例えそれが、サヨナラの合図でも。