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知事逮捕!

作者: 竹仲法順

     *

「えー、先ほどからS県庁近辺に慌ただしい動きがあります。……県内五か所の道路建設の見返りに施工業者から総額七千万円の現金を受領した田篭(たごもり)(すすむ)知事と県土木課の関係者がもうすぐ逮捕されます。……えー、現在S地検は捜査員を動員し、そのワゴンがもうすぐここS県庁前に到着する予定です」

 ずっとS市内のラーメン屋でラーメンを啜りながら、テレビニュースを聞いていた。新聞記者で朝刊担当だから、深夜までに明日の原稿を仕上げないといけない。本来ならこうやって暢気に食事する時間もないのだった。普段は足で稼いで回る。

 テレビ画面越しにキャスターが言った。

「あ、たった今、S地検の係官を乗せた黒いワゴンが三台、S県庁前に到着しました。中から二十名前後の係官が出てきて、まっすぐにS県庁へと向かっていきます。これから県内の道路建設で見返りを受け取った知事を始め、関係者が逮捕されます。……S地検の係官がまっすぐに県庁内へ入っていきます」

     *

 じっとニュースを聞いていた。ラーメンを啜り終えてから、持ってきていた小型のノートパソコンを開き、老眼鏡を掛けて画面を見る。四十代だが、若干老眼が入り始めていて掛けないと字が見えない。

 田篭進や収賄に関わった県土木課の職員は、直に逮捕される。思っていた。明日の朝刊のトップはこれだと。持っていたスマホから、社のデスクである島内(しまうち)に電話を掛けた。

 呼び出し音が数秒鳴った後、島内が出たので、

「あ、末次(すえつぐ)です。お疲れ様です。明日の朝刊のトップ、今回の贈収賄事件のネタでいいですよね?」

 と訊いた。

 ――ああ、頼んだぞ。俺もさっきからずっと、ネットテレビでニュース見てる。……あ、末次、見てみろよ、テレビ。田篭と県土木課の関係者が映ってるぞ。

「え?」

 そう聞いて、すぐにテレビの方を見る。キャスターが大きな声で言っていた。

「あ、知事と贈収賄に関与した職員逮捕です!係官が田篭容疑者の脇を固めています。……もう一度お伝えします。つい先ほど、午後一時十五分過ぎにS県知事、田篭進容疑者と、県内五か所の道路建設において、収賄容疑が掛かっていた県土木課の職員が逮捕されました。……田篭容疑者と汚職に関与した職員が贈収賄容疑で、S地検へと連行されます」

     *

 ニュースを聞いた後、パソコンを閉じ、カバンに入れて持った。そしてレジでラーメン代を支払い、店外へ歩き出す。外は十月の半ばの風が吹いていた。今から社の記者室へと向かう。缶詰になれる場所で、持っているノートパソコンを使い、記事を書くつもりでいた。ネタ元からも情報を収集する。今回の知事主導の汚職事件に関して、だ。

 足早に歩いていく。社はS県庁のすぐ近くにあり、交通機関として地下鉄があった。電車や地下鉄には乗り慣れている。今の社に入社後、ここS市にある本社に赴任してきてから、ずっと移動は公共交通機関を使っていた。定期券などを購入し、領収書を持っていて提出しさえすれば、交通費はちゃんと社の経費で落ちる。思う。今から今日の午前零時前まで記者室で記事執筆だと。予定通りに午前零時までに記事が上がれば、朝まで睡眠が取れる。ほんのわずかな時間だったが……。

 街が秋冬へ移り変わっている。若干寒気があった。冷える。今頃、田篭たち容疑者を乗せた車が、S地検へ向かっている様子を思いながら、地下鉄の駅へと向かった。スーツの上に秋から初冬用の薄手のジャケットを一枚羽織って、である。

                             (了)  



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