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LIxEシリーズ・掌編

人もどき

 こころは1人、昼の住宅街を駆け抜けていく。自分の呼吸がやたらとうるさく感じるのは、辺りが異様に静まり返っているせいだろうか。はぐれた仲間と早く合流するため、ブロック塀で先の見えない交差点を減速もせずに全速力で曲がっていく。

「あーきたきた」

 曲がり角の先から若い男の声が聞こえたと思った瞬間、ぱんぱんと火薬が破裂する軽い音が2度鳴った。こころは男の姿を確認する暇もなく、脇の電柱へと身を隠す。

「はっは、不意打ちでも当たんねーか」

 けらけらと笑う声。赤いシャツを着た男が道路の中央で片手をズボンに突っ込んだまま、機嫌良さそうに立っていた。こころは電柱の裏側で、コートの脇腹付近に開いた小さな穴を見て舌打ちをする。

 ――こんな時に撃たれるなんて、くそ……。

 黒いコートの下、脇腹から太ももへと赤い血が流れていく感覚。

「誰だよ、お前は」

 電柱の裏側からこころは訊くと、男は両手を上げて答えた。

「おうおう、警戒せずに出て来いよ。銃にはもう弾も何も入ってねーよ」

 ぽろ、と男はその手から拳銃を落とした。かと思うとスニーカーを履いた足でそれをいとも簡単に、踏み砕く。

「てめーを足止めするように言われたんだがよ、それだけじゃ暇で仕方ねーんだ。ほら、手ぶらだぞ出て来いよ」

 ――銃を足で踏み抜いた……やはりこいつも、政府の回し者とやらか? 

 ひらひらを手を振る仕草を見せる男をちらりと見ながら、こころは考えを巡らせる。額からはじわりと脂汗が流れ始め、脇腹の銃創からは痛覚が主張を始めている。

 ――避難命令を出されて数時間が経った今、この周辺に一般人はいない、はずだ。まともに相手はしたくない。空でも飛べばとりあえずは逃げられるかもしれないが、もし万が一にでも一般人がこの周りにいたら、あたしのその姿を見てしまったら。

「もう、この町には……」

 せっかく掴みかけた、穏やかな生活が。

「おーい、俺の先に進まなきゃ仲間に会えないぞ? 別にいいけどよ、いつまでもそこに隠れてたら死ぬぜ? てめーの仲間」

 頭をわしわし掻きながら、退屈そうに話す男。

「ほら、なんて名前だっけなあいつ、雪野々だったか? あいつ人間だけどてめーらに味方してるから多分殺されんじゃね?」

 雪野々という言葉と共に、長い白髪の女性の姿がこころの脳裏に流れた。

「待てよ、恵は関係ねえだろうが」

「お、なかなか仲間思いじゃねーか。ま、てめーの"飼い主"だもんなー、あいつがいなきゃ路頭に迷って野垂れ死にだろ?」

 言い終わる前に、こころは電柱の影から姿を現し、男と真っ直ぐ正対していた。

「お前、そろそろその口閉じろ」

 吸い込まれるように黒い瞳に、男の姿が反射する。男はぱちぱちと手を叩きながら、

「おーやっと出てきた出てきた。……ってあれ、銃弾当たってんじゃん! 大丈夫すか?」

 こころは返事すらせずに、ただ睨みつける。沸点が低いやつだとこころは自分で思いながらも、噴きこぼれそうな気持ちを抑える事ができるほど大人ではなかった。

「どけ、お前に構ってる時間はねえんだよ」

「どかねーよケモノヤロー。てめーらみたいな人もどきが俺達と同じとこで暮らされたら不潔でたまんねーんだよ。今ここで俺に殺されるか、それとも森にでも逃げ帰ってケモノらしく雄と求愛ダンスでも踊っとけよ」


 くぐもった地鳴りのような音。破れ散るブーツ。その下から現れた鳥の脚が、傍らの電柱を蹴り砕く。根元を破壊された電柱は重力のままにこころと男との間に倒れ、細かい破片と砂埃を散らしながらアスファルトに叩き付けられる。


「あと一言でも喋ったら」

 立ち込める砂埃を貫く眼光で、こころは憤怒を混ぜた声で言う。

「その汚ねえ顔面を踏み砕くぞ、クソ人間」

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