夢隊-ユメタイ-
更に続けて申し訳ない
流血表現があります
ダメな方は回れ右
神はすべてにおいて平等である。生も死も、善も悪もすべてを容認し、そして傍観している。腐敗、滅びを止めはしない。繁栄、跋扈を妨げもしない。ただ“ある”だけ。
けれどそれは“ある”といえるのだろうか。誰にも干渉せず、誰からも干渉されないのであればそれは、本当に“存在する”と言えるのだろうか……。
目の前に年若い女性が横たわっている。全身を赤く染め、冷たくなって横たわっている。もう動くことはないその顔の、楽しげに笑うことのない口元には、惨状とはかけ離れた穏やかな笑みが浮かんでいた。
『いい?どんな時でも笑顔を忘れちゃダメよ。楽しい時や嬉しい時はもちろん、悲しい時、辛い時に悲しい顔や苦しい顔をしていたって楽にはならないでしょう?だったら笑って、楽しいことにしちゃえばいいのよ。そうでしょう?』
まるで昨日のことのようにありありと思い出される彼女の笑顔と言葉に知らず涙が零れる。その雫が頬を伝って顎まで下り、小さな音を立てて彼女の上に落ちた。
守ってあげられなくてごめん。
心配かけさせちゃってごめん。
苦しい思いをさせてごめん。
少しは淋しさを紛らわせたかな?
少しは楽しい思い出になったかな?
もう、ゆっくりしていいからね。
後は任せて。
ちゃんと引き継ぐから。
「今まで本当にありがとう。どうぞ、ゆっくり休んでください。それから」
冷たくなった頬を撫で、彼女の左手から“それ”を取る。そうして自分の左手、同じ位置にはめ込んだ。
「さようなら、母さん」
彼女の額にそっと口付け、別れを告げる。
* * * * *
男たちは細い路地を駆けていた。大通りからずいぶん離れたこの近辺は都市部の中でも治安が悪い。警邏騎士隊の制服に身を包んでいて尚、命の危機に面するほどには治安が悪いのだ。
そして現在も彼らは賊の追っ手から逃れるため、不慣れな道を疾走している。
「もっと裏に追い込め!」
背後から飛ぶ怒号に彼の隣を駆ける男は忌々しげに舌打ちをした。
「袋の鼠にするつもりか」
こんな状況にあっても冷静だなと彼はちらりと男に一瞥を向け、すぐさま周囲に視線を走らせる。もともとこの細い路地は外部の敵から街を守るためのものであったため、複雑な造りになっている上に行き止まりが多い。治安整備が整った今でこそ街の一部だけとなっているが、その昔はこの大都市をぐるりと囲んでいたというのだから想像するだけでもぞっとする。
「逃げ回るより迎え撃つ方が賢そうだな」
疲れたように男が言い、溜め息交じりに彼がそれに同意した。
「取り敢えず、挟み撃ちは一番避けたい。どこか適当に行き止まりを見つけよう」
「りょーかい。それならこのまま進んじゃえばいいんじゃない?」
「それもそうか」
緊張感のない会話をしながら彼らは直進するがその足はすぐに止まる。目の前に続く路地の先が大きく開けているのが確認でき、広場らしきそこの中央には噴水のようなものが絶え間なく水を湧き出している。そこに幼い子どもがふたり、水くみでもしているのだろうか、座り込んでいるのが見えた。
「子ども?」
男が思わずといった風に呟き、それに子どもたちが勢い良く振り返る。夕焼け色の瞳が四つ、真っ直ぐに彼らを見つめた瞬間だった。
「おそい!!」
子どもたちが同時に叫び、まるでひとつであったかのような声が空気を震わせる。