第3話
暫くすると、何となくその理由が分かった。――殺された弟達を、私に重ねているのだ。
彼女の弟達の中には、まだ赤子だった者もいたと聞く。
ならば、好きなようにすれば良いと思った。
そうそう殺されてやることはできないが、別段彼女を不愉快だと感じることはなかったから。
今考えると、その頃すでに私は彼女に恋をしていたのだろう。――彼女に突然刃を向けられたとしたら、迷わず彼女を殺したには違いないが。
当時、彼女による暗殺を仮定してみることは多くあった。その時ですら、不思議と彼女と過ごすのを止めようという気は起きなかった。
そうして時を共に過ごすうちに、彼女の内にある相反する思いに気付いた。
理性では、反乱軍によって国主の位を簒奪されたことに納得している。
――腐りきった国の中央を正すためには、仕方の無いことだったのだ、と。
しかし、感情ではそう簡単には割り切れない。
――弟達は、まだ小さかったのに……!! あの子達が、一体何をしたというの!? お父様、お母様、みんな……!
そんな叫びが木霊する。
傍に居れば居るだけ、彼女の苦悩を知った。
そうして月日が流れていく中で、ある日、父が彼女を庭で見掛けたらしいと報告を受けた。
彼女はすでに子供ではなく、美しい女人であった。……最悪なことに、父が興味を持つ程に。
私の父は、良く言えば真面目で実直。率直に評せば融通の効かない、頭でっかちな男であった。
しかし腹立たしいことに、父は皇帝で、また、彼女の夫でもあった。