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Daydream World  作者: P助
6/6

プロローグ6:保たれる平和

◇◆






 この世界は平和だ。

 争いが起こることなく、差別化の概念もなく、経済が潤い続けている。

 世界中の人々が笑い合い、悲しみの涙が流れることはない。


 世界は日ノ丸連合国家として統合された。

 人種の壁は全て取り除かれ、人々は『地球人』として統一された。

 人々は安定した暮らしを約束され、尚且つ自由をも手にしている。

 こんな素晴らしい世界が未だかつてあったろうか。



 ん? 『争いが起こらない理由』がわからんと?

 それは実際『見ればわかる』さ。

 ほら、そこの道端にあるだろう。

 アレが理由さ。






◇◆






 俺はふと窓の外を見る。

 昨日と変わらない晴天、スカイツリーは今日も先っちょが黒こげ。

 隣接する校舎の中、俺と同じように授業を受ける生徒たちの姿が見える。

 耳をすませば威勢のいい声、下で青空教室の生徒たちも授業を受けている。



「平和だな……」



 そう呟いてしまう程に、俺にはこの世界が平和に見える。

 どうやら昨晩の悩みなど既に忘れてしまっているらしい。

 俺はのうのうと学校へ赴き、いつも通り授業を受けていた。


 いろいろ考えた結果、俺は考えることが面倒になった。

 俺は昨晩『世界は平和である』と断定出来なくなった。

 しかし、それは『世界は平和でない』と断定できるわけではない。

 俺の頭の中で『世界は平和かどうかわからない』という曖昧な結論が導き出されたわけだ。


 それがどうした、って話だろ。

 ぶっちゃけるとな? 世界が平和であろうとなかろうと、この俺には関係ないのな。

 そんなの考える暇があれば筋トレか勉強でもしてる。

 何と言うか……世界のどうこうを真剣に考えてたせいで、俺の恋路なんてちっぽけすぎて考える気も無くしてしまった、みたいな?

 自分で言うのも何だが、俺ってこんな飽きっぽい奴だったか……?


 ―――と、ここで俺の意識は覚醒する。



「徳之御……」

「先生……」



 違うからなアゴヒゲ。

 俺はアンタの授業がつまらないと思ってるわけじゃない。

 今のは俺がただボーっとしてただけ、悪いのは俺。


 そんな悲しそうな目で俺を見ないでくれ。






◇◆






 そうこうしている間に放課後になった。

 教室に残っている生徒はまばら、各々談笑に花を咲かせるやつもいれば一人で勉強してるやつもいる。


 放課時間になってから早くも三十分、俺がこんなに長い時間学校に居残ったことは未だかつてない。

 それには当然理由がある。



「夏樹、来ねえなぁ」

「そうだな」



 俺の机にドカッと腰を下ろして翔はつぶやく。

 かくいう俺も夏樹がこの教室へ来るのを待っている身、翔のつぶやきに素直に反応した。


 今月のクラス替え以来、夏樹は毎日放課後になると俺たち二人がいる教室に来てくれた。

 しかし今日は来ない。

 今日に限って来ない。



「おうタカ……昨日のことなんだがよ、」



 翔が俺に話しかける。

 今日は珍しく、翔が俺の目を見ない。



「なんか、悪かったな」

「謝るなよ、カケルらしくないぜ」

「…………」



 俺たち二人は沈黙した。


 俺は昨日のことを冷静に振り返ってみたんだ。

 あれは完全に俺が悪い、場の空気に耐えられず逃げ出したんだよ。

 最初からわかってたことだったのさ。

 夏樹と翔はお似合いだよ、誰が見てもそう見える。

 俺なんかが割り込む隙なんてどこにもなかった。

 胸の痛みはまだ続いているが、やはり時の流れに身を任せるしかない。

 いつか忘れられる日が来るさ。



 ……何だろうか、えらく静かになったな。

 いつもなら翔が喋り続けて沈黙なんて長く続かないはずなんだがな。



「…………」

「な、なんだよ」



 翔が驚愕の表情で俺を見ている。

 俺何かしたか?



「タカが喋ったぁ!?」

「は?」

「いやいやいやいや!

 まさかタカの口から「カケルらしくない」とか聞けるとは思わなかった。ただでさえ相槌くらいしか返してくれないタカがマトモな返答で返してくれる日が来るとは……どーゆー心境の変化だよ!? なんか涙出てきた!」



 ……ウザイな。

 心の底からウザイ。


 まあ確かに、俺は今まで翔に対し素っ気ない態度をとってた。

 実はというと、翔に抱く『謎の』嫌悪感は最初から非常に少ないものだった。

 しかし俺は気づいた。

 ……翔は夏樹と仲がいいことに。

 いわゆる『妬み』、『嫉妬』ってやつだ。

 これがいつしか嫌悪感へと変わった。

 それ故に上乗せされるかたちで翔に抱く嫌悪感が増していったのである。


 認めたくはないが、翔は夏樹の次に嫌悪感を抱かない人間だ。

 今はもう嫉妬心など抱いてな……い。

 いや、わずかに抱いているな。

 でも極小だ、思い悩む程度ではない。


 つまり、これから翔とは普通に喋れるということだ。

 若干大人になった、というワケかもしれん。

 これが俺にとって大きな一歩になるか、どうなるか……。



 ん? 『なぜ夏樹とは話せないのか』って?

 そりゃあ俺が緊張して頭の中が真っ白になるからに決まってんだろ。


 言わせんな恥ずかしい。






◇◆






 ともあれ、放課後の夕日差し込む教室に男二人というのはよろしくない。

 気づけば既に他の生徒たちは下校してしまい、教室には俺と翔しかいなかった。



「なあ、夏樹はどうしたんだ? 今日は休みなのか?」

「うぇっぐ、うぇえ、ズビビー!」

「きったねえな! 鼻かんだティッシュ散らかしてんじゃねえよ!」

「だぁあってよぉー、タカが話しかけてくれてるんだよぉー」

「ああもう……」



 仕方がないので隣の教室を覗いてみることにした。


 あぁ、最初から隣の教室に行ってればよかった、みたいな意見は却下な。

 もし扉付近でばったり出くわしたらどうなる?

 目と目が合ったりしちゃったらどうなる?

 ボディタッチとかやっちゃったらどうなる?


 あれ、クッソ初めからそうすりゃよかったかもしんない!



「……さすがに、いないか」

「そりゃもう六時半過ぎてるしなー」



 時刻は午後六時四十五分、夏の終わりで夕日が最も輝いている時間帯だ。

 夏樹の教室、三年Bクラスには人影一つ見当たらない。

 もはや学校に残っている生徒は俺たちだけなのではないかと思えてくる。


 こうして立ち尽くしていると、後方から奇妙な『機械音声』が聞こえてきた。



「下校時刻を過ぎました。

 まだ残っている生徒は速やかに下校を開始してください。

 下校時刻を過ぎました。

 まだ残っている生徒は速やかに下校を開始してください」


「うおっ、やべえタカ早く帰らねーと」

「あ、ああ……」



 俺たちは足早と学校を後にした。

 廊下を進み階段を降り、コンクリートで舗装された通路を走って校門を出る。

 その間も奇妙な機械音声はずっと俺たちの近くから聞こえていた。


 そして、俺たちが学校を出たのを見届け安心したかのように、その奇妙な機械音声は止まった。



「気をつけて、お帰りくださいませ」






◇◆






 この世界で争いごとは絶対に起こらない。

 たとえそれがどんな規模であったとしても、世界のどこであっても。

 その理由が先ほどの『奇妙な機械音声』である。


 西暦二千年の後半、人類居住区の本格的な再生が始まった。

 その頃まだ日ノ丸連合国家は存在しなかったが、実質的には既に日本が世界をリードしていた。

 一部の能力者が『尽きることのないエネルギー源』として尽力したことにより、再生は好調だった。


 そんな中で、当時のアメリカがとある技術を提供する。

 それが現代にも残る『PHAMファム』だ。

 『perfect human auto machine』、略して『PHAM』。

 人型のロボットで、プログラムを設定し起動してしまえば後は全て自動、人口知能も搭載されている名前のとおりの完璧全自動機械だ。

 プログラムされていないことは当然不可能だが、されていることに関しては能力者並の働きが期待できるスグレモノ。

 これでひとまず治安の悪化を防ごうではないか、ということだったらしい。


 このPHAMは予想以上の成果を発揮した。

 各地で発生していた暴動などは瞬く間に鎮圧、PHAMを配置させた地域では二度と暴動が起こらない、とまで囁かれたらしい。


 日本では暴動が滅多に起こらなかったが故にPHAMの導入は他の地域に比べやや遅れたが、西暦三千年という節目にてようやく導入された。

 今では世界のロボット開発技術も発展し、昔に比べてより高性能のPHAMが世界各地のいたるところに配置されている。


 つまりこのPHAMによって、争い事は『起こる前に』鎮圧されているというわけだ。






◇◆






 俺たち二人はすっかり暗くなった道を歩く。

 学業区域を後に、居住区へと脚を進めていた。



「なあカケル、」

「おうおう! どーしたよタカ?」


(……テンション高いな)



 翔のテンションの高さに若干引きながらも話を進める。

 コイツがここまで嬉しがるとは、正直考えてもいなかった。



「夏樹……どうしたんだろうな」

「フム、休み時間にも俺らの教室に来なかったということは、やっぱ今日は学校に来てねえんじゃね?」

「自分の誕生日だってのに。風邪でも引いたのか、心配させるなよな」

「全くだ。

 ……でも、ちょっとだけホッとしてら」

「は?」



 翔の言葉を聞き返す。

 夏樹が体調を崩してるかもしれないのに、ホッとするとは……?



「いやぁ、さ。ホラ、これ渡すつもりだったからよ」

「……ああ」



 少し困ったように笑いながら翔がポケットから取り出したもの。

 それは小さな小さな四角い箱、十中八九昨日言っていたプレゼントだろう。


 そうだよな。

 翔は今日、夏樹に告白するつもりだったんだもんな……。



「んー、でも今ここに夏樹がいたとして、これ渡すわけにはいかねえな」

「? なんでだよ」

「いや……だって、タカもいるし」



 そう言ってまた俺から視線を外す翔。

 やはり俺に対して負い目でも感じているんだろうか、別に翔は悪いわけじゃないのにな。

 ……コイツってこんなやつだったっけ?

 話せるようになってから違和感しか感じねえぞ。



「俺さ、明日は朝から夏樹んとこ行ってみるわ。んで、そん時にちゃんと渡す」

「俺に構わないでいいんだぞ」

「いいや、これは俺なりのケジメだ。

 ……タカとは、これからも親友でありたいんよ」

「カケル……」



 いつの間にか俺たちは居住区まで来ていた。

 目の前には高層マンション、ここには俺の家がある。

 翔の家はもう少し先だ。


 そして翔と俺は正面から向き合った。



「また明日な、タカ」

「ああ、健闘を祈ってるよ」

「……ありがとよ」



 そう言って翔は走り出した。

 俺はその後ろ姿を見えなくなるまで見送った……。



「カケル、頑張れよ」



 我ながらあっぱれ。

 最高の笑顔で送り出せたな。

 これで翔も勇気百倍、告白だって何だってやれるさ。

 しっかしアイツ泣きながら走りやがって。

 あんなカッコ悪い顔、夏樹には見せられねえよな。


 へへ、目から汗が止まらねえぜ。

 チクショウ……頑張れよ!






◇◆






 私は、何?

 ここは……?


 周りは暗い、でも、上は明るい。

 下は冷たい、でも、身体は熱い。


 私の前で、私を抱いている人がいる。

 私の隣で、私を見下ろしている人がいる。


 あなたは誰?

 あなたも誰?


 わからない、何も、わからない。


 どうしてあなたは、私を抱きしめているの?

 どうしてあなたは、私を悲しい目で見るの?


 わからない、わからないよ。



 わからないのは、怖いよ……。






◇◆

◇◆






どうも、作者です。


前回、プロローグ終了と言ったな?

あれは嘘だ。



すいませんでした、まだ続きます。


設定の説明に不透明な部分が多すぎるということに気づいたので……。

本当にごめんなさい。






◇◆

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