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Daydream World  作者: P助
2/6

プロローグ2:平和な世界

◇◆






 西暦三一一五年、三一世紀に突入したばかりの地球は平和だ。

 かつてないほどに理想的な世界、誰がどう見ても、昔とは比べものにならないほどに。

 何せ、『全人類が平等に幸せになれる世界』が実現しているからだ。


 そんなのありえないってか、そいつはまた古い考えだな。

 実際の話、この世界は平和なんだから。

 勿論、そうだと断定できる理由だってあるんだ。


 まず第一に、どんな規模であっても争いなんて起こらない。

 街中での些細な言い争いでさえも、もちろん戦争だなんてもってのほか。

 なぜ争いが起こらないのか、なんて考えること自体ナンセンス。

 争いなど起こらないのが当たり前、今の時代では常識である。

 歴史の教科書には幾度となくあったと書かれていたが。


 第二に、差別化の概念がない。

 遥か昔、人種によって差別があったらしいが今となってはそれも信じられない。

 確かに肌の色や顔立ち、目や髪の色が異なった人間は多数存在している。

 しかしだ、どう考えても同じ人間じゃないか。

 昔の人類はルックス重視だったのかもしれないな。


 最後に第三、社会情勢の悪化というものが無い、と言うかありえない。

 昔、と言うほどでもないが、ほんの百数年前に『世界が一つになった』からだ。

 これがどういった意味なのか、現代を生きる人類ならわかるだろ。

 三一世紀に入って直後にできた『アレ』のことだよ。

 ま、俺がまだ生まれてない頃のことだし、所詮歴史の教科書一ページ程度の事柄だな。


 とにかく、世界が平和であるってのは反論しようのない事実。

 ウダウダ言ってても始まらねえ、認めるしかないんだよ。






◇◆






 横目に見る空はここ最近ずっと同じ青空、梅雨の時期もとうに過ぎた炎天下、カラッとした良い天気である。

 もう九月に入ったというのにこの日差し、まだまだ夏は終わらないとでも言いたいのだろうか。

 遠くに見えるは天を貫くようにそびえ立つ東京スカイツリー、さきっちょ……展望台のあったであろう場所は遠目で見ても真っ黒。

 なんでも大昔に凄まじい落雷があったらしく、現在はマトモに機能していない。

 歴史の教科書には……人類希望の象徴と書いてある。

 ……まったく、意味がわからんな。



「―――タカ、おいタカ!」

「ん?」



 不意に隣の席から俺の名前が呼ばれた。

 何だコノヤロウと、ガンを飛ばしながら隣を振り向いてやる。



「タカ、前だ、前」

「あぁん?」



 俺を呼んだ隣に座る男は、しきりに前を見ろとジェスチャーしている。

 片眉をつり上げた状態のまま、俺は正面を全力で睨みつけてやった。



「……徳之御よ」

「うげッ」



 威嚇した矢先にいたのは歴史学担当の教師、通称アゴヒゲだった。

 瞬間的に表情を直したが時既に遅し、周りの空気は凍りつき教室中の視線が集まる。

 どうするよ俺、今全力でアゴヒゲ睨んじまったよ。



「徳之御……」

「先生……」



 無言で見つめ合う二人、その間にあるのは恋人のそれなんかでは毛頭なく、つーか、そんなのであってたまるか。

 アレは男だし、俺はあんなアゴヒゲがタイプなわけじゃない!






◇◆






 ここは日本の大都市、東京都の中の都市圏に位置する区域、俗に『学業区域』と呼ばれる場所にある建物である。 学業区域は言わば学校乱立区域、これは俺が付けた呼び名だが……的は獲ているはずだ。

 小学校から中学校、はたまた高等学校までも、一つの町が学校という施設で埋め尽くされているのだから。


 西暦三千年になってから教育理念がいろいろ検討され、従来の小、中、高と、勉学にこれだけの期間を割くようにとされた。

 つまり、義務教育が十二年間に伸びたということ。

 それまで地域ごとに設立されていた小、中学校に加え、高等学校も義務化にあたり近隣に設立するべきだという意見が通ったらしく、この学業区域が出来上がったのだ。


 いったいどういう区切りをしたのかは知らないが、学校ごとの敷地や各校舎の向きはバラバラ。

 建築に詳しい人が見れば即答で手抜きと言われるのではないか、とまで噂されている。

 道路なんてさらに度を超して酷い出来、適当に校舎を置いて、その間に道を作りましたって感じ。

 ……芸術性が云々とか言われると、俺にはよくわからんがな。






◇◆






 そんな学業区域、第一高等学校三年生のとある教室にて。

 俺と教師アゴヒゲとの睨み合いが行われているわけだ。



(はぁ、面倒くさい)



 そう胸中でつぶやきながら、俺は席を立つ。

 しかし、頭を下げるつもりはない―――そもそも下げる意味がない。



「徳之御、すまなかった!」



 このとおりである。

 俺が頭を下げたわけでは決してない。

 対する教師アゴヒゲが俺に向かって深々と頭を下げ謝罪の言葉を述べるのだ。



「先生な、徳之御が常日頃から悩んでいたのをわかってたんだ。先生が徳之御にとって心の支えにならねばならないこと。それをわかっていた……いや、わかっていなかった。先生がわかっていれば徳之御が思い悩むこともない、ちゃんと心のケアをしてやったはずだ。すまない徳之御、本当に……」



 教師アゴヒゲは俺の目の前で、クラス中の視線を一身に浴びながら、しきりに頭を下げ続ける。


 この国、この世界において、俺という存在は特別だ。 授業中に教師の話を聞かず呆けるなど、他のクラスメイト共がしたとすれば教師にとっては癇癪もの。

 このアゴヒゲであれば「廊下に立ってろ!」とまで言われても不思議がることではない。

 しかし、こと俺に限ってそれはなく、逆に謝られてしまうのだ。


 だから俺は頭を下げない。

 向こうが勝手に非を認めてくれる……まあ、向こうは悪くないのだが。

 よって俺のとる行動はいつもこう、他人の失態を我がものとする哀れな仔羊に対して救いの手を差し伸べるのだ。



「先生、俺は悩んでもいないし苦しんでもいない。先生が悪いわけじゃないんですから、顔を上げてください」

「……徳之御」



 まるで神でも見つけたような表情で俺を見上げる教師アゴヒゲ、対して顔は笑いながらも心底うんざりしている俺。

 教師アゴヒゲはよほど嬉しかったのか、表情を緩め目の奥を熱くさせていた。


 だからこそ、俺は目の前にいる教師アゴヒゲの今後を考慮し、さらに言葉を投げかけてやるんだ。



「……だから、教会になんて行かなくても大丈夫ですからね!」






◇◆






 さて、遅くなったがここらで自己紹介でも。

 俺の名前は『徳之御トノミ 貴人タカヒト』、十八歳にして現役の高校三年生……ってのは当然だな。 身長一八二センチ、体重六九キロ、腹筋はバッキバキに割れてるし、それなりに体格は良いほうなんじゃないだろうか。

 ……言っておくが、ガチムチじゃないからな!


 で、俺は今現在学業区域の隣に位置する住宅街……高層マンションが建ち並ぶ区域にて一人暮らしをしている。

 自慢じゃあないが、俺の家は中でも一番高級なマンション、さらにさらに最上階にあるVIPルームなんだぜ。

 ま、このあたりはどうでもいいかな。


 唐突だが、俺はこの世界が嫌いだ。

 何故かと聞かれても、俺自身ハッキリとした答えは出せない。

 しかし物心ついたときには既に、俺の中でそういう気持ちが如実に現れていたんだ。

 俺の世界嫌いは、同時にこの世界に生きる人間にも嫌悪感を抱いている。

 自分以外の人間の存在を認めると無意識に現れる嫌悪感、他人と目を合わせるだけで胃内のモノが逆流するようだ。

 だから俺は極力、人との交流を避ける。


 そんな俺のことを、他人は揃って『コミュ障』と呼ぶ。






◇◆






 遠くの空から耳障りな鐘の音が鳴り響いている。

 今日は大晦日、今は午前零時……んなわけない、今のは授業終了を知らせるチャイムだ。

 ここ学業区域には複数の学校、校舎が建ち並んでいるわけだから、その内一つでもチャイムが鳴ればあとは芋づる式。

 だったらそろそろ、ここも鳴るはずだな。



「お、では今日の授業はここまで。各自でちゃんと復習しとくんだぞ、今日の範囲はテストに出るからな」



 教師アゴヒゲはチャイムが鳴る前に授業を終わらせた。

 割と授業を早く終わらせようとするこういうところは一般的に好かれる要因になるんだろうが、如何せん歴史の担当という現状により生徒からの好感度は微妙である。


 授業が終わったとなれば途端に騒がしくなる教室。

 俺は誰と談笑するでもなく、淡々と荷物をカバンへ詰める。

 毎度のことながら、こんな騒がしい空間から早く脱出したい、そう心から願っての行動だった。



「よっす、タカ! お前は今日も帰るのか?」

「帰る」



 何かに話しかけられたような気もしたが、そんなの気にせずさっさと帰りたい。

 帰って筋トレしたい。



「おぉいおいおい! 親友に対してその素っ気ない態度はどーなんよ。まあ待てって!」

「…………」



 腹立たしい、腹立たしいことこの上ない。

 俺にとって人生一番の娯楽『筋トレ』時間を削ろうとするとは……。

 一発殴ってやらないと気が収まらん!



「ふん!」

「―――ッうお」



 振り向き様の右フック、顔面から少し下、アゴの部分を狙った慈悲も遠慮もない完璧な強襲。

 的確な衝撃は脳を揺さぶり感覚を麻痺させ、必ず相手に両膝をつかせることになるだろう……。

 とまあ、俺にもそう考えていた時期がありました。



「はっはっは! 伝わったぜタカのボディーランゲージ、今日は俺とゲーセンに行くんだな?」



 このとおり、俺の素晴らしい一撃を受けた相手はひるむことなく俺にちょっかいをかけ続けている。

 いや、実際コイツが俺の右フックを難なく避けたわけだが。






◇◆






 コイツの名前は『沖野オキノ カケル』、小学校からの付き合いで……俗に言う幼なじみってやつ。

 身長は俺とほぼ同じ、体重は知らん。

 さっぱりとした短髪、染めていない純粋な黒髪、一見して爽やかな印象の男。 空手部に所属していることもありガタイはそこそこ、タイマンで翔に勝てるやつはそうそういないだろう。


 翔は俺のことを親友と呼ぶが、翔と出会ってから一度たりとも心を許した記憶はない。

 ……だがまぁ、何故か他の奴らに比べて抱く嫌悪感の量、質が薄いと言うか何と言うか。

 要するに、幾分かマシだってことだな。


 何でそうなっちまったのかは俺にもわからん。

 翔が言うには「十年間流し続けた俺の血と涙と汗の賜物」らしい。

 確かに、いつからか翔と出会わない日はないとまで言えるようになっている……ような気がしないでもない。


 まったく、慣れというものは末恐ろしい。






◇◆






 しかしだ、どんなに長い時間を共に過ごした翔の頼みであっても、今日は断る。

 理由? そんなものはない。



「悪いが俺は帰る。ゲーセンには一人で行け」

「よっしゃ、ならすぐ行こうぜ。急がば走れだ!」



 おや、会話が成り立っていない様子だ。

 昔から翔との会話が成り立たないことが多いと思っていたが、やはり変わっていないな。

 ……殴り倒してやりたい。


 そんな意味不明な会話の中にもう一つ、新たな声がかけられる。



「ちょっと翔、それを言うなら急がば回れ、でしょ?」



 颯爽と現れた女性は翔の発言に鋭いツッコミを入れてきた。

 その凛とした立ち振る舞いは周囲の視線を釘付けにする。


 彼女は俺にとって―――天使のような存在だったんだ。






◇◆

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